これまでのストーリー




「短調」102号の「ためさん」を読んだ宣ちゃんが、「私も満州の引揚者なの」と言った。

それも私と同じ新京かららしい。


父親が満州映画の仕事をしていたらしいが、満州の日本人の多くが、満州国の役人であり、満鉄という鉄道の仕事に就き、満映という映画の仕事をしていたらしい。


私の叔父2人が満鉄に勤めていて、帰国後に国鉄、今のJRで働いていた。


満州から引き揚げた宣ちゃんは、蝶となって花から花へ、南は台湾から日本中、アメリカの北の果てバッファロー、ナイヤガラの滝やフロリダまで飛び回ったのだが、踊り子ではない私は、上昇気流乗り枯れ葉となって、日本からフロリダまで飛んできたのだろう。


今50年ぶりに、お互いの心の中が分かり急速に接近した。


会ったら強く抱きしめてあげたいのだが、宣ちゃんは結婚して、ミセスウォールと呼ばれている。


30年近くバレエ教室をやっていて、厳しい先生らしい。ウォールという言葉は、壁を意味する。


壁の向こうにいる宣ちゃんを、抱きしめることは出来ない。


幻のマルコポーロと呼ぶのは早計で、宣ちゃんや千代ちゃんが残って、古き良き日本の精神を、脈々とアメリカの子供たちに伝えているのだ。


自分が習ったように教えられないと謙遜する宣ちゃんだが、限界まで挑戦するらしい。


AさんもMさんも若々しいわよ」と褒める。


誕生日が5月2日で午年の宣ちゃんは、私の3歳年下だから、今年73歳になったのだが、異国で頑張っている強い人だ。


徳永は灰となって、樫の大木はの梢から、辺りを見下ろしているだろう。


もう、あの日から数十年の月日が流れている。

                  完

               2015年 5月