M.A. Q9

 「した」でも「させられた」でも同じことよ。

 (SILENCE)

 (SIGH)分かったわよ。もう、三万くらいにしとくんだったわ。

 レイプされたのよ。夜中の2時過ぎ。彼のマンションの地下駐車場。四人の変態野郎共に次々と犯されたのよ。ヒロシは車を持っていなかったから、訪問の際はひろ子が愛車のゴルフを彼のパーキングスポットに停めていたの。駐車場は昼夜を問わず同じ明るさ。それに、リモコン式の鍵を持たない者はそこに侵入できないのよ。彼女は安心しすぎていたのね、きっと。彼女の車の二つ横に停まっていたバンの陰に、強姦目的の野獣たちが息を潜めて隠れていただなんて、思いもよらなかったでしょうに。いつものようにヒロシの部屋を出て、エレベーターで地下駐車場まで下りたわ。愛車まで鼻歌混じりの軽快なステップ。彼女が車のドアを開けようとした時だったわ、悪夢が始まったのは。お面を被った男たちが一斉に彼女に襲い掛かったの。腹部に蹴りが、顔面にパンチが何発か入ると、ひろ子は鼻血を出した倒れたわ。コンクリートに染み込んだオイルの匂いが鼻を刺激する間もなく、屈強な変質者集団によってボンネットに仰向けに寝かされたわ。ドナルドダックの面を着け、紺のTシャツの脇を濡らした大男が彼女の右肩を、上半身裸で、引き締まった肉体を誇示したアンパンマンが逆の肩を強く抑え付けたわ。それから、スキンヘッドのドラえもんがひろ子の正面に立つと、彼女のお気に入りだったリーバイスのブルージーンズを脱がし始めたの。もう一人の男は、他の三人と比べれば小柄だったわ。といっても、175センチはあったわね。そのドラゴンボールに登場する孫悟空のお面を着けた男だけ、高級レストランにでも行くのかしらって思わせる身なりをしていての。黒っぽい光沢を放つスラックスと厚手のワイシャツ。鯖を連想させるタイ。見るからにイタリアのブランド。VERSACEのバックルが嫌味なほど銀色に輝いていたわ。彼は少し離れた場所から、煙草を吹かしながらその儀式を見守っていたの。不気味な男だったわ。

 (LIGHTS HER 3RD CIGARETTE)

M.A.  Q6

 はっきりとした死因はないのよ。パトリシア・コーンウェルの小説に出てくるケイに解剖してもらってないもの。

 病院のベッドで目を覚ましたの。そうしたらマリアになってた。赤い夜だったわ。以前の私、ひろ子だったら恐怖で震えていたでしょうね。でも、私の目に映った月は美しかったわ。黒っぽい赤。そう、血の色。月が液体でできていたのなら、それは間違いなくネトネトしていたわ。納豆のように糸を引いたはずよ。私、ずっと見てた。幾度となく雲がそれを覆い隠そうとしたわ。でもね、おかしなことに月は雲よりも私に近かったの。軽い身震いに伴って、皮膚が痛むくらいの鳥肌が一斉に発生したわ。夢を見ているんだと思った。違うわ。そう思いたかったのよ。夢、全てが夢。私が病院にいることも夢、全身の痛みや顔の傷も夢、何もかもが夢。夢であれば、数枚重ねのセロファンを通して物体を見たときのように、全てが赤く見えてもおかしくはないでしょ。夢であってくれたらよかったのよ。

M.A.  Q7

 (LONG SILENCE)

 (INHALES)(EXHALES)流産したのよ、18の小娘が。(SNEERS)

 ひろ子には彼氏がいたわ。彼女が通っていた音楽大学の二つ先輩で二十歳。名前はヒロシ。彼女は彼に夢中だったわ。結婚するまでとっておくつもりだったバージンを捧げるほどにね。(SNEERS)妊娠したわ。馬鹿な女よ、膣外射精だなんて。先のことなんて考えずに、本能の赴くままってヤツね。(DERIDES)どうやら、中絶する気は全くなかったみたいね。迷惑な女よ。周りの者全てが「オロセ、オロセ」って心の中で念仏のように唱えていたのに。ヒロシがあのビッグワードを口にしなかったのなら、馬鹿アマは「誰の世話にもならずに一人で育ててみせるわ」とでもほざいたはずよ。

M.A.

 そうよ、Mワード。ひろ子は即オッケーしたわ。知能の低い女専用の台詞、「一晩考えさせてください」は、彼女の口からは発されなかった。でも、結婚はお流れ。彼女が流産させられたから。

M.A.  Q8

 流産に理由もなにもないわよ。ただ流産したのよ。

 


 

M.A. Q2

 (LIGHTS HER 2ND CIGARETTE)

 女性に対して失礼なことを聞くのね。まあ、いいわ。23よ。なりたてのホヤホヤ。11月10日生まれのさそり座よ。

M.A. Q3

 血液型って頻繁に会話の題材にとりあげられるけど、そんなに深い意味があるのかしらね。「え~っ、Bなの~」とか、「AB?じゃあ二重人格なんだ」。嫌よね。そういうことを言う奴に限って、腐ったジャガイモのような顔をした中身空っぽ型なのよ。私はO型よ。大雑把だと思いたければ、思うがいいわ。

M.A. Q4

 名前すら知らなかったのね。(CHUCKLES)マリアよ。男たちにはそう告げてきたわ。「いい名前だね」なんてほざく男が山ほどいたわ。でも、私がマリアになったのは5年くらい前からね。それまでは違う名前で呼ばれていたの。因みに、マリアのマはマゾヒストのマ、リはリアリストのリ、アはアナリストのアよ。(CHUCKLES)特に深い意味はないわ。ただ思いついた単語を言っただけだから。

M.A. Q5

 (EXHALES)スズキヒロコ。スズキは鈴と木、ヒロコはヒロが平仮名で、コは子袋の子よ。(DERIDES)可笑しくもなんともない名前でしょ。彼女のパパとママ、もっと熟考すべきだったわね。きっと日本にはわんさといるわよ、スズキヒロコが。けど、私の中のスズキヒロコはもう死んだわ。勉強ができる大人しいお嬢さん。ピアノが得意でね、音楽大学に進んだの。それで暫くして死んだの。(GIGGLES)死んだのよ。この街で私が(故)鈴木ひろ子だって知る者は、あなたと私の二人だけよ。