アーライツ法律事務所を開設して、早くも5年目に入った。

 

 2012年の5月頃、ある友人の紹介で、会計事務所のCEOと名乗る人物に会った。

 その事務所は、かなり幅広く、色んな事業を展開していて、築地にあるビルの3フロアを借りているんだが、スペースに余裕があるんで弁護士の事務所を置きたいというのだ。

「これまで何人かの弁護士に会ったけど、みんな、何か物足りなかった」という。

 CEOは、見るからに悪党で、なかなか魅力的な人だと思った。

 しかし、その頃の僕は、まだ弁護士になって1年半ほどが経ったばかりで、独立することは考えていなかった。それは、友人を通して伝えた。

 

 が、間もなくCEOから連絡があり、もう一度、今後は夜、その会計事務所が運営する銀座の料理屋で会いたいという。

 それで、その店に行くと、今度は関連会社の社長という若い男3人も同席して、飲んだ。

 これがえらい盛り上がっちまった。

 

 それからさらに連絡があり、昼間、築地のすし屋の1室で会った。

 「どうしたら来てくれるか?」

 ビールなし。寿司はめちゃ美味。

 いつか独立することは考えるだろうが、それが今だとすると、現実的ではないほどハードルは高いことを伝える必要があった。

 「大きく言えば2つあります。

  1つは、今の事務所のボスが賛成して、気持ちよく送り出してくれること。

  もう1つは、もちろん経営の問題。はっきり言って、今、独立するとなると不安があります。

  顧問料として月○万円、さらに毎月無利子の貸付○万円ぐらいはないと難しいです。」

 

 「分かった。では、ボスにはいつ話してくれるのか?」だと。

 

 (え、え~っ!)

 

 ・・・と、まあ、そんな流れで、しかも、

 「同じフロアであっても、法律事務所には独立性が求められるんで、そちらのグループの事務所、というわけにはいきません。あくまでも外部的な協力関係だけです」という条件もあっさりOKで、2013年8月1日にアーライツはスタートしたわけだ。

 

 会計事務所の顧問といっても、そこの顧問先約300社からの法律相談を無料で受けるというのが主な内容で、僕の方はそこから実際に事件を受任できるということから言えば、利益を受けるのはほとんどがこっちであって、顧問料をもらうような関係ではない。

 そんなこともあって、毎月の借入れは、数か月で打切りになり、顧問料もどんどん値下げを求められ、最終的には2年ほどで終了した。

 

 ところが、その間、会計事務所の事業の方はどんどん縮小していき(要するに拡げ過ぎだったんだろう)、人も激しく入れ替わり、なんとなく元気がなくなっていった。

 CEOとは、思ったほど会う機会は多くなく、飲んだことも数回だったが、思った通りの悪党で、僕自身、彼が裏でやったことが原因で、間接的に仕事の邪魔をされたり、そりゃないぜ、と言いたくなるような腹立たしい出来事も何度かあった。それでも、なんだか憎めないおっさん、そんな感じだった。

 

 そのCEOが、去年、脱税指南の容疑で逮捕された。

 金額もでかいし、脱税した会社の中に出会い系サイトの運営会社が含まれていたこともあり、ビルの前には報道陣が大勢集まって、お祭り騒ぎの逮捕劇だった。

 

 そして、一昨日9月6日判決、懲役5年、罰金1億5000万円!

 

 本人の旧知の弁護士が弁護人となり、僕には、裁判には絶対に来ないでくれ、と伝えられたため、去年からまったく顔を合わせないまま実刑に服すことになった。

 

 会計事務所は解散し、このビルには、もう誰も残っていない。

 

 すでに70歳になったCEOが実際に戻ってくるのは、何年先になるのかは分からないし、戻る場所があるのかも分からない。

 でも、彼がいなければ、アーライツが存在しなかったのは間違いない。

 振り返ってみれば、彼がブイブイ言わせとった最後の時期に接点を持って、そのエネルギーをバトンタッチされたようなもんかもしれない。

 

 帰ってくるまでに僕ももっと力をつけて、「もう1回面白いことやろうよ!グレーなことは疲れるからナシでね」っつって、ビシッと迎えてやりたいと思ってる。

 

 「ミック・ジャガーはおっさんより3つも年上で、あの年、ベイビーが生まれたんだぜ」ってことも教えたらんとな。