最近、かなり話題になっている矢部宏治さんという人の本。

 確かに面白いし、多くの人たちに読んでもらいたいと思った。


 日米安保条約や地位協定、日米合同委員会を含む、著者が言うところの日本国憲法より上位にある「安保法体系」についての説明は非常に説得力があるし、また安保村が形成される過程と天皇や憲法制定との関係、特に憲法9条2項と国連憲章の関係からの問題提起は、全国民が受け止めて、しっかりと議論すべきテーマだと感じた。


 しかし、この本には致命的な欠陥が2つあります。


 1つは、安保法体系を原発の問題にそのまま当てはめて、日米原子力協定が同様に憲法より上位にある法であるかのように、具体的な検証はほとんどないままにみなしてしまっている点です。

基地の方は非常に緻密に分析しているにもかかわらず、原発の方は、単に類似点があるというだけで、簡単に同じような性質のものに落とし込んでしまっているのは、あまりに乱暴と言わざるを得ません。

というより、はっきり言えば、ここは間違っています。

(とはいえ、この本は、タイトルからも、そのように思い切った仮説を立てたことが売れた理由なんでしょうが)

原発に関しては、憲法の上位にある法など存在しないし、アメリカとの関係で脱原発が不可能などということはあり得ません。むしろ、TPPが障害になることは考えられるけど、原子力協定は大きな障害にはなりません。ここは、声を大にして言わせてもらいたいパグ


 もう1つは、憲法より上位にある法によって、国民や総理大臣がどんなに頑張ろうが基地も原発も亡くならないという説明を延々とした後で、最後に「落ちこむ必要など、まったくない」「日本の未来には無限の可能性がある」と自ら切り返している部分です。

もちろん、読者を暗い気持ちにだけさせて終わって欲しくはないですが、余りに軽く、能天気な展望を述べられても、かえってがっかりするだけです。

この著者のように「新しい憲法を制定して、市民の人権が守られるようなまともな法治国家をいちからつくって」いけばいいんです、心配する必要はありません、などと言われても、誰が安心するでしょう。

逆に、具体的打開策はないんだと、言っているようなものじゃないでしょうか。


 とはいえ、冒頭に書いたとおり、鋭い問題提起を含む非常に面白い本なんで、皆さんにも本気でオススメしたいと思います。

そして、大いに議論のネタとして共有していきましょう地球