RED EYES -4ページ目

RED EYES

ウルトラ小説

∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.96
「My name is Guy.」


都心の路地裏、禍々しい鋼鉄のスーツまといし、赤い眼をした仮面の人物。シルバーチーム・アサカが変身したイレブンDである。




対するはバスケ界のスーパースター、津賀真守(ツガマモル)25歳。華々しく凱旋帰国したその夜の悲劇。2m30cmの巨体も、圧倒的な暴力に屈した今は小さく見えてしまう。

…怖くない

だが彼の心は不思議と恐怖を感じていなかった。

…痛くもない

骨折やら内臓破裂やらしているのは明らかなのに。

…他人事みたいだ

いつもそうだった。幼い頃から嫌なことがあると、まるで他人事のように感じていた。

…死ぬのかな

だが今回ばかりは生命の危険を伴っていた。

…可哀想に

それでも彼にとっては他人事だった…。

「…ちょっとは焦ったらどうだ!!」

イレブンDが赤い複眼の軌跡をたなびかせ急接近、ツガの頬を殴り飛ばした。頭蓋骨が吹っ飛ばされ、遅れて首から下が付いてくるような、首が引き千切れる程の衝撃。

「…死なないのか?」

それでもよろよろと地べたを這うツガに疑問を抱かずにはいられない。イレブンDの拳はヒトの骨を砕き、肉を裂く殺傷能力がある、筈なのに。

…死なねぇよ

「…さすがはミスター・ジャイアント
 …見た目通りのタフガイだな
 …だがそれだけだ」

…痛ぇよ

イレブンDの赤い眼の視界で捉えるツガは、まるで蹲る熊のようであった。巨体ではあるが、それ以上のモノではなかった。

…怖くはねぇさ

恐るるに足らず、イレブンDからすればその程度の相手だった。

…早く代われよ

「…我が主は
 …キサマの娘を人質に取ったらしいが
 …何かの間違いだ
 …そこまでして手に入れる程の力を
 …キサマからは微塵も感じられない」

娘、ツガマモルには娘がいた。津賀琴理(ツガコトリ)4歳。

…娘…だと

渡米後に出会った日系人女性リエ・アレイと恋に落ち、電撃結婚。その翌年に子供を授かっていた。

…コ…ト…リ

しかし去年、離婚していた。親権は母親に託され、母娘は親戚を頼ってニッポンへと移住していた。

…手を出すな

彼はスーパースターとしての凱旋帰国とは別に、別離した元妻や娘との再会も期待していた。

「…だが酷いもんだな?
 …DVだってな?
 …温厚そうな顔しやがって
 …裏の顔ってやつか?」

離婚の原因は、夫のそれにあった。子供が産まれてからは、その矛先は娘にまで及び始めた。だから離婚し、娘を連れてニッポンに逃げたのである。

…何を言っているんだ?

だが彼には何のことだか理解できなかった。

…オレがそんなことをする筈がない

渡米直後に出会って一目惚れして結婚。異国の地で孤独にバスケに打ち込む自分を支えてくれた大切なヒト。

…愛していた

授かった娘は天使のように可愛かった。選手としてのモチベーションも更に上がった。

…守るべき存在だった

しかし離婚。原因が、分からない。思い出せない。記憶が曖昧だった。

…手を出して良いのは

だが彼は今、霞がかる記憶の彼方の真実を垣間見始めていた。

…オレだけだ

自分ではない別の誰か。

…嘘だ

他人事のように感じてしまう、自分以外の存在。

…嘘だ!!

内なるもう一人の自分。

…オレだけのモノなんだ!!

死に至る極限状態に陥った今、フラッシュバックする記憶と共に何かが目覚めようとしていた…。





一方、JSMR怪獣対策本部作戦司令室にて。ユウキ隊長はブルーチームメンバーを招集していた。そしてレイドウ参謀=15年前のレッドアイズ最後の使者キラサワミキオ説を、ここで初めて打ち明けた。ユウキ隊長はかねてよりレイドウ参謀に不信感を抱いていたが、その原因がはっきりとした今、確信を持って説明した。
にわかには信じがたいメンバー。だが元メンバー・アサカ隊員がレイドウ参謀のシルバーチーム本部に頻繁に出入りしていた経緯を聞くと、特にサエキ隊員は思い当たる節があるのか、納得せざるを得なかった。
サエキ隊員が秘める紅き巨人トゥエルヴの『星の記憶』を、アサカがコピーしたのである。その結果、アサカは偽物の巨人という『星の記憶』と共に、イレブンDへと進化してしまった。未だ巨人にはなり得てないが…。

「…彼は闇を恐れていた。
 生死を分かつ狭間で、
 底の見えぬ闇を覗き込んでしまった。
 その恐怖に打ち勝つ為に、
 より強い力を望んでしまった。
 当然、ヒトとして精一杯
 努力していたと思うわ。
 でも、それでも
 越えられない壁は確かにある。
 そして望んでも
 得られぬ力を持つ巨人を
 憎むようにもなっていった。」

ユウキ隊長は心の整理付かず棚上げ状態であったアサカのことを振り返る。

「…ワタシだって怖いわ。
 いつだって蚊帳の外で
 見ているしかない歯痒さ。
 できることなら力が欲しい。
 ヒトの心の弱さ。
 闇の側に引きずり込まれる可能性は、
 誰にだってあった。
 彼は不幸な被害者だと、
 ワタシは今でも思っているわ。」

彼女自身も、15年前の戦いで闇に呑み込まれた経験がある。呑み込まれて、帰って来れなかったヒトのことも知っている。だから理解できる。その言葉は決して軽くない。

「…できることなら救いたい。
 でも、ワタシ達の
 やるべきことはひとつ。
 人々の生命を守る為の戦い。
 その妨げになるのなら、
 その時は彼を倒さなければならない。
 情に流されることなく、…ね。
 それが彼を救う唯一の手段、
 …かも知れない。
 残念なことだけれどね。」

彼女の決意は固かった。若かりし頃ならば心揺れることもあったであろう。しかし今、彼女はJSMR怪獣対策本部総司令官、なのである。これまで培ってきた経験が、彼女の中の優先順位を決定する。生半可な優しさが最も危険なことを、重々承知していた。

「…さてと、
 既に感付かれているとみるべきね。
 何せ相手はイラストレーター。
 予知も予言も千里眼も読心術も、
 なんでもござれの化け物だもの。
 できればこれから乗り込んで
 決戦を仕掛けたい。
 この際、手段は選ばないわ。
 暗殺だって何だって良い。
 諸悪の根源レイドウ参謀を、
 今この瞬間にも討ちたいの。
 何一つ確たる証拠がないけれど、
 ワタシはこの勝負に挑みたい。
 きっと対面すればはっきりする。
 目を見て話せば全てが解る。
 そんな危うい戦いだけれど、
 ワタシに付いてきてくれるかしら?」

彼女の呼びかけに、メンバーは一呼吸置いて深く頷いて返す。カザマ、サジマ両隊員と、サエキ隊員。作戦司令室とは別にオペレート室に籠るタザキ隊員。皆、隊長を信じて従うことに迷いはなかった。

「!?」

しかしその時、作戦司令室の照明が落ちた。全ての電源が寸断された。間もなく予備電源に切り替わると、作戦司令室の自動ドアが開閉した。すると黄色と銀のツートンに黒のラインがあしらわれた戦闘服の隊員が、10数名そこにいた。皆、ライフルを構えていた。本部基地の電源を一時的に寸断し、その隙に乗じて侵入してきたらしい。

「…そこまでだ。
 我々はJSMR常任理事委員会より
 派遣された新設部隊、
 チーム・イエロー。
 これよりユウキユイ隊長を
 総司令官の任より更迭、
 直属部隊の永久凍結を命ずる。
 これは常任理事委員会より
 下された決定事項である。
 無益な抵抗はなされぬよう、
 どうぞ速やかに武装解除されよ。」

リーダーと思わしき風格ある男性が、捜査令状よろしく何やら書類を突き出してそう宣言した。

「…超能力者様の
 ご進言ってやつかしら?
 どんな理由か一応
 聞かせてもらいたいわね。
 ったくみんな飼い慣らされちゃって。
 権力の亡者共は予言者とかに
 弱いって本当なのね?」

ユウキ隊長は動じない。これは予測でき得る事態であった。
JSMRのJはジャパンのJ。前身であるSMRは、ニッポンという国家の誇りを剥ぎ取られ、怪獣対策の専門家としての有益性故に残されていた。ジャパンを司りJSMRとなってからは、国家としてのニッポンを司る組織を兼任していたが、今は違う。武力を有する怪獣対策本部に全権を委ねている危険性等を配慮して、この配慮とは国内外に対する対面的なものなのであるが、とにかく一組織に降ったのである。そして国家としての祭り事を仕切るお飾りとして設立された常任理事委員会が、神の如き超能力者の傀儡に成り下がることは容易に想像できていた。

「…我々は命令に
 殉じているだけですので。
 しかしその様子では
 心当たりがおありのようですね?
 ならば話が早い。
 我々もアナタ方に
 手荒な真似はしたくはありません。
 速やかなる投降を求めます。」

チーム・イエロー隊長の語り口は穏やかだったが、その文言は強制的なものであった。

「…緊急連絡!!
 都心某所にて
 レッドアイズ反応感知!!
 急激なエネルギーの上昇を
 認めます!!」

沈黙を破ってスピーカーから流れるタザキ隊員の報告。

「…心配ご無用。
 これよりは我々チーム・イエローが
 対処に当たります。
 レッドアイズか、
 このタイミングで出現とは厄介だな。
 いや、好機とみるべきか…。」

モニターに映し出されるは、本部基地より飛び立つ黄色いファイターWXの映像。存在する筈のない機体の存在に、驚かずにはいられなかった…。




「…手を出すな」

舞台は戻って何処ぞの路地裏。血塗れのツガマモルが一言漏らした。

「…娘に手を出すな」

そして今にも千切れそうな身体を引きずって立ち上がる。

「…コトリはオレだけのモノだ」

顔を上げて見せたその表情は険しく、そして眼が赤く煌めいていた。皮膚が熱を帯びて焼け焦げていくかのように浅黒く変色していき、噴き上がる蒸気のようなオーラが髪の毛を逆立て、金色に染め上げていく。

「…ようやく本性出してきやがったか
 …殺しがいがあるぜ!!」

イレブンDは嬉々として軽くステップを踏み、そして一気に踏み込んで肉迫、渾身の右ストレートで殴り掛かった。

「!?」

イレブンDの動きが止まった。ツガの顔面を殴った鋼鉄の拳が、しかし顔面を吹き飛ばすことできずに、頬に触れたまませき止められてしまったのである。
まともに顔面を殴られた筈のツガは、しかしにやりと嫌らしい笑みを浮かべていた。そして逆に相手の手首を掴んで捻り上げていく。鋼鉄のスーツに指が食い込んでばりばりと砕く音が鳴り響く…。

「…クソッ!!」

イレブンDは咄嗟に間合いを取ろうとするが、掴まれた手首を振りほどくことができなかった。余りの腕力に手首を潰されそうになりつつ、その体勢のまま、もう片方の拳で何度も何度も殴り付けた。しかしツガは微動だにしなかった。
そのうちに、相手がやたら大きく見えてきた。確かに強大な力を目の当たりにすると相手が大きな存在に見えることがあるが、そういう目の錯覚の類ではないことは、早い段階で認識した。肉体が膨張し、上着が千切れていく様子。そして掴まれた手首が、手首と言わず肘から下、腕を掴まれている状態になっていた。もはや右腕の感覚は痛覚を通り越して無きに等しかった。

「…これが『ツガイ』の力かぁっ!!」

イレブンDは闇に頼って克服した筈の恐怖を久方ぶりに感じて…。

「!!」

刹那、ツガが無造作に拳を思い切り振り上げてアッパーを繰り出した。





イレブンDは顎、というか拳が大き過ぎて頭部を跳ね飛ばされ、手首を残して路地裏から飛び出して表通りに転げ落ちてしまう。

「…違うな
 …オレは『ツガイ』じゃあない」

引き千切って握ったままだった手首を投げ捨てて、ツガが呟き始める。

「…ガイ
 …オレはガイスト
 …もう一人の『ツガイ』だ」

そう宣言したツガは、全長10メートル強の赤い眼をした巨人になっていた…。

~つづく~


∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.95
「Mr.Giant」

『…コート上の時間は止まったまま、
 張り詰めた空気が
 支配しております!!
 試合終了間際、
 このフリースローを決めれば逆転!!
 さあ!!
 決めて魅せてくれ!!』

それはテレビから流れるバスケットボールの試合中継。ぼんやりとそれを見ているのは病室のベッドに座るアカバネユウトと、付き添いのキサラギミライ。ここは東京湾沖のJSMR怪獣対策本部基地メディカルセンターの病室。
対イーヴィルマカオン戦において負傷したユウトは、又してもここに戻る羽目になる。負傷というよりも、赤毛の巨人ジークライトが『時の超越者』としての能力を発動するに至ったドラゴニックフォームへの進化が、人間体に多大な負担をかけている、というような状態である。身体的には特に異常は見られず、外傷もない。状態としては著しい体力の消耗、としか説明できない。

「…しっかしくーさんも挨拶もなしに
 手紙ひとつで済ませるとはねー。
 冷たいねークールだねー。
 さっすが王子様。
 いやーな感じー!!」

ふてくされた顔でそう言うユウト。くーさんことマカオン・Q・グランポルトは事件終息後、自国からの迎えで早々に連れ戻されていた。勝手なお忍び旅行とはいえ、ニッポン国内で怪獣災害に巻き込まれたとなれば、一歩間違えれば国際問題にもなりかねない事案。そこに関しては、マカオン自身がうまく弁明したようで、事は穏便に済まされた。だが当事者であるミライやユウトとは、一度も面会の機会を設けられることがなかった。身分が違うと言えばそれまでだが、別れの挨拶くらいはしたかった。

「…っていうか助けられたの
 アナタの方じゃない??」

素っ気なく言い返すミライ。挨拶はできなかったが、こうして後日、手紙が送られてきたのである。その文面には、感謝の気持ちが散りばめられていた。

「…くーさんにはくーさんの
 人生があるもの。
 きっとこれからもっと大変。
 心は自由に羽ばたけたけど、
 これまで以上に不自由になるかもね。
 でもくーさんはもう大丈夫。」

これから先、遠く離れたグランポルタント公国の王子と、再び巡り合う奇跡があるかは定かではない。しかしマカオン、いやミライにとってはくーさん。彼が未来に希望を見据えて生きていくことを誓ってくれたことが、嬉しかった。それで十分だった。

『…高校卒業を機に単身渡米、
 ニッポン人としては規格外の身長と
 驚異的なパワーで
 バスケの本場に殴り込み、
 各チームでセンターの座を掴み続け、
 遂に名門ニューヨークオリトランズの
 キャプテンとして
 不動の地位を獲得!!
 今日はチーム引き連れての
 凱旋帰国!!
 チーム・オールスタージャパンとの
 親善試合も接戦極まり
 試合終了間際!!
 今日の主役は彼以外に
 考えられない!!
 ミスター・ジャイアント!!
 さあ勝敗分ける一投決めてくれ!!』

テレビの中の静まり返ったコート上、フリースローラインに立つ、赤に白ラインのユニホームの選手。全身を縛り付けるように両腕両脚に黒いサポーターをしている。優しさの窺える垂れ目がちな目許と、爽やかなニッポン人らしい黒髪。そして何より一際目立つ背の高さ。




興奮抑えられぬ実況アナウンスとは相反して、その選手はとても落ち着いた様子だった。そして網のかかった小さなリング状のゴール目指して、すっとシュートを放つ。皆の注目を一点に集めて宙を舞うボールは、誰もがゴールに吸い込まれると確信できる美しい曲線の軌跡をなぞっていて…。

『!!』

しかしシュートが決まって上がる筈の歓声が、悲鳴に変わった。ボールが宙で破裂したのである。

『…これはどうしたことでしょう!?
 前代未聞のアクシデントです!!
 おっとどうやら
 仕切り直しのようです!!
 試合が一旦中断される模様で…』


テレビの中の試合会場は騒然としていた。投げた選手は案外冷静。頭をかいて苦笑い。状況が飲み込めていないようにも伺える。

「…なんだろ?
 …嫌な予感がする。」

何気なく見ていたバスケの試合中継。誰が見ても衝撃の瞬間。しかしミライは、イラストレーターとしての直感で何かを感じていた。大きな不安が脳裏をよぎるが、それが何なのか、彼女はまだ理解できていなかった…。





「…間違いないのね?」

神妙な面持ちでそう問うのはJSMRユウキ隊長。真っ暗な空間に、立体映像のようなモニターが所狭しと浮かび上がる狭いフロアでのこと。

「…はい。」

そう答えたのはオペレーター・タザキ隊員。ここは彼女専用のオペレートフロア。ここからJSMR怪獣対策本部の全てを管理把握している。電脳世界において千里眼のような能力を有する彼女も又、いわゆる超能力者、イラストレーターの一人である。

「…結論から言って、
 レイドウ参謀は黒です。
 これまでキラサワミキオを
 15年前のレッドアイズ
 最後の生き残りかも知れない、
 という仮定で調べていましたが、
 巧妙すぎるデータの改竄で、
 先に進むことができませんでした。」

吉良沢 幹雄(キラサワミキオ)とは、15年前のレッドアイズ最後の生き残り、と想定されている人物である。
15年前、漆黒の巨人ルビーアイ・クロイワヒロトと、表立って戦った記録はなく、JSMRとしては可能性の域を出ないが、レッドアイズになり得た可能性のある10人のうちの一人としてだけ把握している。事実、10人中9人は、クロイワヒロトが戦って倒している。別の要因もあるが、とりあえずこの世から抹消されている。
よってキラサワミキオとは、JSMRからすれば把握し切れていない事実だが、正真正銘、15年前のレッドアイズ最後の生き残り、なのである。そして行方不明、生死不明、完全に消息を絶っている。その存在自体が抹消されたかのように、ある時を境にデータが改竄されているのである。

「…しかしレイドウ参謀、
 いえレイドウミキオと
 キラサワミキオ、
 この2人の接点を探る視点で
 調べてみると、
 あらゆる観点から共通点が
 浮かび上がってきたのです。
 キラサワミキオの情報が
 途絶えたのと、
 レイドウミキオの情報が
 上がり始めた時期が、
 完全に一致したのです。」

モニター上に表示されるレイドウ参謀の顔写真とプロフィール。その隣りには、顔写真こそアンノウン扱いだが、プロフィールが表示されていた。

「…つまりこの2人は
 同一人物だと言いたいのね?
 確かにレイドウ参謀の過去は
 不明な点が多いし、
 それを追及することもタブーだった。
 下の名も同じだけど、
 でもだからって…。」


にわかには信じ難いことに半信半疑なユウキ隊長。

「…関連してもうひとつ。
 ダイアモンドレディーだった
 女性の意識が戻りました。
 彼女の素性も全てが抹消されていて、
 これまで正体不明でした。
 意識が戻ったものの精神障害、
 記憶も失っていました。
 しかし自分の名前だけは思い出し、
『エチゼンユウコ』と名乗ったのです。
 名前から検索した結果、
 特定の人物と照合、
 確かにエチゼンユウコ本人に
 間違いありませんでした。
 そして彼女には離婚歴があり、
 離婚前の名字は、
 …『キラサワ』でした。」

モニター上に新たに表示される女性の顔写真。越前裕子(エチゼンユウコ)という名前から始まるプロフィールも表示されていた。彼女はここ最近のレッドアイズ事件、コードネーム・ダイヤモンドレディーの核となった女性。彼女はタチバナエイジ扮する青き巨人ディープ・スラッシュによって撃退され、そして奇跡的に救われていた。

「…キラサワって、
 それまさか…。」

奇妙な符号点にユウキ隊長は驚きを隠せない。

「…はい。
 恐らくキラサワミキオの元夫人です。
 これも全く証拠がありません。
 完全に抹消されています。
 しかしその可能性と、
 キラサワ=レイドウという
 仮説を踏まえて、
 彼女にレイドウミキオの顔写真を
 確認してもらいました。
 するとその顔写真の男を、
 キラサワミキオと呼んだのです。
 彼女の精神状態は大変不安定です。
 この証言は確かな証拠としては
 認められません。
 しかしこの事実は、
 ワタシの仮説に
 確信を持てるものでした。
 レイドウミキオは
 キサラギミキオであり、
 15年前のレッドアイズ最後の使者に
 間違いありません。」

モニターなんぞに視線は向けない。バイザーを外し、真っ直ぐに訴えかけるように、ユウキ隊長の目を見て、そう断言するタザキ隊員。バイザーで隠さぬその瞳は、黒目が白濁し、視点も定まってはいない。
彼女の目は失明していた。視力を失ってあるべき形を維持せぬ目を、他人に見られるのが嫌だった。しかし彼女は敢えて自分をさらけ出し、何一つ証拠のない真実を訴えかけた…。




「…それで変装したつもりかい?
 スーパースターが
 独り歩きとはちと不用心だぜ?」

深夜、とある街の路地裏で、そう声をかけられて振り返った男性。パーカーのフードを深く被り、夜なのにサングラスをかけ、マスクで口許を隠していた。

「…目立ちすぎだろその身長。
 2m30だってな?
 未だに伸びてるっていう噂は
 マジかい?」

隠していても無駄と悟った男性は、フードを脱ぎ、サングラスとマスクを外した。晒された顔は、バスケットボールの試合中継、試合終了間際のフリースローで謎のアクシデントに見舞われた選手であった。

「…警告には気付いてくれたかい?」

それは試合中にボールが破裂したことだと、すぐに察した。

「…なあ、
 オマエ強いんだってな?
 ちょっと試させてくれよ。
 ミスター・ジャイアント。
 …いいや、
 ツガマモルさんよぉ?」

そう呼ばれた人物は、相手が人違いで絡んできているのではないことを察した。しかし何を言っているのかさっぱり分からなかった。

「!!」

刹那、ツガの巨体がくの字に曲がった。次の瞬間、垂れ下がった顎が、今度は弾き上げられた。そして地べたに倒れ伏す。何が起きたのか全く理解できなかった。しかし腹部と顎の激痛で、殴られたのかも知れないと、後から理解し始める。

「…なんだよ、
 デカい図体は見せかけか?
 只のでくのぼうかよ。
 もっと楽しませてくれよ。」

近付いて初めて見た相手の顔。その眼は赤く煌めいていた。ひび割れた浅黒い肌をして、黒い戦闘服に身を包んでいる。レッドアイズ・アサカである。トゥエルヴの力をコピーし、イレブンとして闇の使者に堕ちた彼は生きていた。
ツガはその正体を知る由もないが、人ならざる気配を察し、恐怖した。

「…早くに親に捨てられて
 孤児院育ちだっけか?
 生きてく為には何でもしてきただろ?
 その図体じゃ喧嘩負けなしか?
 バスケなんかしてスポーツマン
 ぶってんじゃねーよ!!」

アサカの罵声と共に、ツガは腹部をサッカーボールのように蹴り飛ばされ、自分の巨体が浮いて飛ばされる感覚に驚いた。そして何処ぞのビルの壁に叩き付けられる。
激痛はいつも後から追ってくる。血反吐を吐いていることに驚き、内臓の異常を察した。内臓破裂しているかも知れない。次の試合は無理かも知れない。不思議と冷静な自分に驚いてしまう。

「…見せてみろよ。
『ツガイ』とやらの『星の記憶』を
 持っているんだろ?
 我が主がオマエを求めている。
 だがオレは認めない。
 オレが切り札だ。
 キサマはいらない。
 
 …コ・ロ・シ・テ・ヤ・ル」

アサカはそう言って、腰のベルトにバックルを当てがった。禍々しく棘のあるオーラが巻き起こり、肉体が鋼鉄のプロテクターに覆われていき、異形のモノへと変身していく。
これがツガマモルという人物の日常が壊れた瞬間であった…。

~つづく~

∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.94
「I really love Machaon」


…一線を越える覚悟

…後戻りはできない

…踏み出す勇気はあるか





そこは満天の星々を描き出す漆黒の亜空間。イーヴィルマカオンは、目の前に何者かの気配を感じた。
全身を伝う青いラインが浮かび上がり、次第に黄金色の鎧が煌めいた。ジークライト・ドラゴニックフォームである。
ここは彼が作り出した位相空間。『竜人』を模した翼生やした黄金色の姿は、しかし時空操作極めし『トランデンセンスタイプ・デルタ』にも酷似していた。




限界を越えて『竜人』という『星の記憶』に辿り着いた結果、その究極の力を表現する為に、『時の超越者』という高みにまで達した。今はそうとでも説明するしかない。


「…ドラゴンの格好なんて
 …コスプレみたいなもんかな?
 …ハハッ
 …翼も尻尾も邪魔くせーのよ」

重力無き宇宙のような亜空間で、見えない地面に着地し、尻尾を振るってみせるジークライト。

「…コ・ロ・シ・テ・ヤ・ル」

次の瞬間、逃げ切れぬと知ったEマカオンが、上半身に剥き出る眼球のような部位から、一斉に光線を照射した。

…!!…

「…まるで飴細工だな」

しかしジークライトにとって、時間の減速した直中で向かい来る光線は、何等脅威ではなかった。固まって見える光線をかいくぐり、Eマカオンに接近すると、勢い良く尻尾を振るって薙ぎ払った。

「…飾りじゃねーのよこれ
 …尻尾のひとつも使っとかねーと
 …竜人さまに申し訳ねーかなーって」

防御できぬまままともに食らったEマカオンは、その一撃を以て又しても胴体を切断されてしまう。見えない床に転がり落ちる肉体。だがすぐさま切断面が液状化して接着、元通りに再生されていく。

「…回復できちゃうのも考えもんだな
 …痛いだろ?
 …怖いか?」

再生されていく肉体を、しかし完治する前に更に切断していく。四肢をバラバラにして、それも自然と再生されていくのだが、再生の為に蠢く細胞部分を踏みにじって攻撃の手を止めない。

「…なあ
 …オマエもうヒトじゃねーよな?
 …ヒトには戻れねーよ
 …殺し過ぎた」


再生しても再生しても、それを待たず切断され続ける。時間は止まらず緩やかに進行していた。正に生き地獄。

「…足りねーよ
 …オマエどんだけ殺してきたっけ?
 …覚えてねーか?
 …反吐が出るほど悪趣味だぜ
 …さぞ気持ち良かっただろーよ
 …散々やってきたよな?
 …全然足りねーよ」

まるで肉をこねて団子でも作るように、嬲るようにして剣を突き立てる。残忍な痛め付け方だが、しかしヒトの命その心を弄んだEマカオンに比べたら、まだ手緩かった。

「…オマエはオレが始末してやる
 …人間社会には戻さない
 …ここで消し去るしかない」

ジークライトは不意に黄金色の輝きを消し去り、漆黒の亜空間に紛れた。Eマカオンはその間に肉体を完全再生する。そして発狂しながら、全身から触手を捻り出す。無作為に放たれた触手は、しかし何の手応えも得られない。
そのうちに、遠くで青い光が点々と灯り始める。尻尾の先から、まるでイルミネーションの点灯式の如く、青いラインが徐々に胴体を駆け昇っていくかのようであった。

「…一線越える覚悟、か
 …今更だぜ」


青い光は全身のエネルギーの集束を表現していた。それは胸部エナジーコアを砲門として充填されていく。その砲門の照準を合わせるように、左腕は腰に添えて引き、右腕の先に展開した『竜人の剣』をEマカオンに差し向ける。

「…本当の勇者だったら
 …魂のひとつも救ってやれるのかな?
 …オレそんなに器用じゃねーよ」

剣先に迸る稲光りが空間を歪ませ、オーロラの如き美しさを以て、粛々とその激しさを伝える。

『ドラゴニックレイ・
 オーバースターダスト・
 コアインパルス』


瞬間、エナジーコアから竜の咆哮と共にエネルギー光線が照射された。それは避ける術のないEマカオンの胴体に風穴を開けた。
更に消滅した胴体部分の中心で、急激な空間の歪みが生じる。そこを中心に星々が、空間そのものが引き寄せられていく。それは無限に広がる位相空間の圧縮。空間それ自体がEマカオンに重く伸し掛かり、肉体を圧縮し、潰していく。時空操作上のひとつの到達点、究極の必殺技の前に、悪魔の如き巨人は成す術もなく…。





再び現実世界、静けさの戻った海の見える公園。その青空に亀裂が生じ、黄金色の巨人が姿を現わす。

「…レッドアイズ反応、
 完全に消失しています!!」

その場にいたキサラギミライ始めブルーチームメンバーは、その報告に安堵する。やがてジークライトの姿も光の粒子となって消滅し、そしてアカバネユウトが姿を現わす。

「…終わったぜ。
 害虫野郎は消炭程も
 この世に残しちゃ…いねぇ…よ…」

ユウトはそう言うと、ミライの胸に飛び込むようにして倒れ、そのまま意識を失う。慌てふためくミライだが、彼が時の超越者の能力を扱って極度に疲労し、眠ってしまっただけとすぐに理解した。

「…無茶しすぎよ…バカ。」

ミライは涙を浮かべながら、その髪を撫でるようにして抱き締めた。彼女は少しも理解してはいない。彼が越えた一線は、ヒトを殺すことその罪の重さ、背負いし業。汚れなき彼女は知る由もない。

「…命に別状はないようね。
 ここはひとまず撤退。
 周辺の被害状況の確認と、
 救援処置急がせて…。」

ユウキ隊長はそう指示を出すと、ミライとユウト、そして奇跡的に命を取り留めたマカオン・Q・グランポルトを収容し、本部へと帰還することとした。こうして人間標本事件は一応の解決となったのである…。


「…そうですか、
『彼』は行ってしまわれたのですね。
 もう一人の自分、
 突拍子もないことで、
 説明のしようがありません。
 でも『彼』とは
 直接話してみたかった。
 返せる言葉が見当たらない。
 それでも一言、
 感謝の意を伝えたかった。
 生きていることの素晴らしさ、
 生きていくことの大切さ、
『彼』から学んだことは大きい。
 ワタシはこれから
 精一杯に生きていく。
 グランポルタント公国
 第一王子として、
 その生涯を民の幸福に捧げる。
 誰が為に生きることの幸せ。
 その身を削って奇跡を起こした
 もう一人の『マカオン』に誓って、
 ワタシは自分の人生を
 精一杯に生きていく…。」


その後、意識を回復したマカオン・Q・グランポルトは、グランポルタント公国に戻り、第一王子としての公務に身を捧げることとなる。
そう遠くない未来、王座を継いだ彼は、こう着状態の続く第三次世界大戦という厳しい世界情勢下において、中立国という立場を貫き通し、民を守り導く良き指導者として活躍することとなる。
彼の命を蝕んでいた謎の病は、『星の記憶』が昇華された故か、それまでが嘘であったかのように解消されていた。むしろ何かに守られているかのようにすこぶる健康体で、その生涯を全うすることとなる…。





「…『星の記憶』が、
 …暴走しているね。」

事件の終息を他人事のように眺めるレイドウ参謀は、独り呟く。

「…あまねくイマジネーションが、
 我々の世界に流れ込んできている。
 これは何を意味するのだろうね?」

その脳裏によぎる『フィーネ』と『マカオン』のイメージ。それはこの世界においてイレギュラーな存在であった。

「…描き出される数多の巨人。
 だがワタシにとっては好都合。
 光と闇の狭間で繰り広げられる
『星の記憶』の争奪戦。
 滑稽なる争いは、
 しかしヒトの命を奪うのに
 適している。
 そのエナジーを以て、
 ワタシは『闇の王』と
 なってみせよう。」

嫌らしく葉巻を吹かす彼のその背後で、ぼんやりと赤い眼が浮かび上がる。

「…いいや、
 ワタシが『王』となる必要はない。
『器』は再び我が手に戻った。
 失ったのなら、
 赤い土を以て再び造り直せば良い。」

振り返った彼は、血液の充満した水槽のような物の中で浮く裸体のソレに視線を置く。それはヒト、なのだろうか。赤土色をした肌は、粘土細工の人形のようであった。

「…愛しき息子よ、
『闇の王』たる『器』よ、
 ヒトの生命、
 その血肉を喰らって皮膚とせよ。
 今度こそ我等の側の『王』となれ。」

それは人間標本事件によって奪われた生命エナジーが注ぎ込まれし物体。そこに宿る赤い眼に、はたして魂は宿っているのであろうか…。





…おかえり

懐かしい声がした。

…ようやくお目覚めかい?

懐かしい匂いがした。

…何を惚けた顔しているんだい?

まだ夢を見ている感覚。

…まさかワタシのことを
…忘れたなんて言わないよね?

たった一人の心許せる友の顔。そして美しき花々と蝶に囲まれた世界。ここが自分にとっての現実。戻ってきたことを実感する。

…異世界を旅した気分はどうだい?

地球という名の、宇宙の片隅にある宝石のような青き惑星。噂に違わぬその美しさ、この身を以て体感することができた。

…それは良かったね

ヒトとしての人生を僅かながら体験することもできた。むこうでは王子だった。彼の目を通して、世界を旅して巡った。

…キミが王子様だって?
…フフ、似合わないね

未来を描く運命のヒトにも出会った。そして愛する者の為に命を賭ける勇者に出会った。かけがえのない出会いだった。

…そう
…それは、ちょっと妬けるかな?

自分の醜さも垣間見たような気がする。ほんの少し己の命に執着していたなら、他者の命を喰らう悪魔になり得ていたかも知れない。そのおぞましき可能性。自分の中の『虫』以上に、心に巣食う闇を、垣間見せられた気がする。

…キミは独りじゃない

不意に抱き寄せられた。戸惑う隙を与えてもらえぬまま、肌を通して伝わってくる温もりに心が安らいでいく。

…決して悪魔になんてならない
…ワタシがさせない

きっとその言葉には何一つ根拠がない。でもその言葉には、身を委ねるだけの、信じられるだけの想いを感じた。

…もしも堕ちたなら
…その時はワタシが止めてみせる
…でもあいにくワタシは
…キミを殺す勇気を
…持ち合わせてはいない
…いっそ共に堕ちるのも一興かな?

冗談めかした口調で言う友に、それは困ると言って微笑む自分の声が、知らず流していた涙のせいで上ずっていることに気付いて、耳まで赤くなる思いがした。

…さあ
…寿命削ってまで見てきた世界で
…何を学んできたのかな?
…残り少ない寿命に
…悲観しているばかりで
…良いのかい?

ヒトの一生は短い。何千何万という時の流れからすれば、瞬きする間の出来事。そんな短い人生だからこそ、精一杯に生きて輝いている。だから尊い。

…そう
…ヒトに比べたら果てしなく長い人生が
…まだキミには残っている
…何処にも行けないかも知れない
…狭い世界で
…しかし輝いて生きてほしい

でも、表立って腕に巣食う元凶が、淡い希望を脆くも蝕む。忘れてはならない現実を思い出し、疼く腕をぎゅっと抱き締め、その震えに耐えた。

…まだ言うかい?

友の涙が頬に落ちるのを感じた。それが滴る前に、頬を寄せて拭ってみせる。耐えていたのは自分だけではない。泣くのは自分だけで良い。

…そうだ
…新しい花を植えよう
…美味しいコーヒーも淹れてみせる
…何が食べたい?
…珍しいお酒も仕入れてこよう
…だから
…だから

言葉を詰まらせてほしくなかったから、それより早く抱き締めた。

…だから
…最期までキミと共にいさせてほしい

例え飛べなくとも、共に支え合い、寄り添って生きていける友がいたなら、それはかけがえのない幸せな人生。

…愛している






ありがとう…。





それは何処か別の世界の片隅での一幕。





誰も知らない異世界でのエピローグ。檻のない虫籠に囚われし『マカオン』の心が、自由に羽ばたいた瞬間であった…。

~つづく~