∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.96
「My name is Guy.」
都心の路地裏、禍々しい鋼鉄のスーツまといし、赤い眼をした仮面の人物。シルバーチーム・アサカが変身したイレブンDである。
対するはバスケ界のスーパースター、津賀真守(ツガマモル)25歳。華々しく凱旋帰国したその夜の悲劇。2m30cmの巨体も、圧倒的な暴力に屈した今は小さく見えてしまう。
…怖くない
だが彼の心は不思議と恐怖を感じていなかった。
…痛くもない
骨折やら内臓破裂やらしているのは明らかなのに。
…他人事みたいだ
いつもそうだった。幼い頃から嫌なことがあると、まるで他人事のように感じていた。
…死ぬのかな
だが今回ばかりは生命の危険を伴っていた。
…可哀想に
それでも彼にとっては他人事だった…。
「…ちょっとは焦ったらどうだ!!」
イレブンDが赤い複眼の軌跡をたなびかせ急接近、ツガの頬を殴り飛ばした。頭蓋骨が吹っ飛ばされ、遅れて首から下が付いてくるような、首が引き千切れる程の衝撃。
「…死なないのか?」
それでもよろよろと地べたを這うツガに疑問を抱かずにはいられない。イレブンDの拳はヒトの骨を砕き、肉を裂く殺傷能力がある、筈なのに。
…死なねぇよ
「…さすがはミスター・ジャイアント
…見た目通りのタフガイだな
…だがそれだけだ」
…痛ぇよ
イレブンDの赤い眼の視界で捉えるツガは、まるで蹲る熊のようであった。巨体ではあるが、それ以上のモノではなかった。
…怖くはねぇさ
恐るるに足らず、イレブンDからすればその程度の相手だった。
…早く代われよ
「…我が主は
…キサマの娘を人質に取ったらしいが
…何かの間違いだ
…そこまでして手に入れる程の力を
…キサマからは微塵も感じられない」
娘、ツガマモルには娘がいた。津賀琴理(ツガコトリ)4歳。
…娘…だと
渡米後に出会った日系人女性リエ・アレイと恋に落ち、電撃結婚。その翌年に子供を授かっていた。
…コ…ト…リ
しかし去年、離婚していた。親権は母親に託され、母娘は親戚を頼ってニッポンへと移住していた。
…手を出すな
彼はスーパースターとしての凱旋帰国とは別に、別離した元妻や娘との再会も期待していた。
「…だが酷いもんだな?
…DVだってな?
…温厚そうな顔しやがって
…裏の顔ってやつか?」
離婚の原因は、夫のそれにあった。子供が産まれてからは、その矛先は娘にまで及び始めた。だから離婚し、娘を連れてニッポンに逃げたのである。
…何を言っているんだ?
だが彼には何のことだか理解できなかった。
…オレがそんなことをする筈がない
渡米直後に出会って一目惚れして結婚。異国の地で孤独にバスケに打ち込む自分を支えてくれた大切なヒト。
…愛していた
授かった娘は天使のように可愛かった。選手としてのモチベーションも更に上がった。
…守るべき存在だった
しかし離婚。原因が、分からない。思い出せない。記憶が曖昧だった。
…手を出して良いのは
だが彼は今、霞がかる記憶の彼方の真実を垣間見始めていた。
…オレだけだ
自分ではない別の誰か。
…嘘だ
他人事のように感じてしまう、自分以外の存在。
…嘘だ!!
内なるもう一人の自分。
…オレだけのモノなんだ!!
死に至る極限状態に陥った今、フラッシュバックする記憶と共に何かが目覚めようとしていた…。
一方、JSMR怪獣対策本部作戦司令室にて。ユウキ隊長はブルーチームメンバーを招集していた。そしてレイドウ参謀=15年前のレッドアイズ最後の使者キラサワミキオ説を、ここで初めて打ち明けた。ユウキ隊長はかねてよりレイドウ参謀に不信感を抱いていたが、その原因がはっきりとした今、確信を持って説明した。
にわかには信じがたいメンバー。だが元メンバー・アサカ隊員がレイドウ参謀のシルバーチーム本部に頻繁に出入りしていた経緯を聞くと、特にサエキ隊員は思い当たる節があるのか、納得せざるを得なかった。
サエキ隊員が秘める紅き巨人トゥエルヴの『星の記憶』を、アサカがコピーしたのである。その結果、アサカは偽物の巨人という『星の記憶』と共に、イレブンDへと進化してしまった。未だ巨人にはなり得てないが…。
「…彼は闇を恐れていた。
生死を分かつ狭間で、
底の見えぬ闇を覗き込んでしまった。
その恐怖に打ち勝つ為に、
より強い力を望んでしまった。
当然、ヒトとして精一杯
努力していたと思うわ。
でも、それでも
越えられない壁は確かにある。
そして望んでも
得られぬ力を持つ巨人を
憎むようにもなっていった。」
ユウキ隊長は心の整理付かず棚上げ状態であったアサカのことを振り返る。
「…ワタシだって怖いわ。
いつだって蚊帳の外で
見ているしかない歯痒さ。
できることなら力が欲しい。
ヒトの心の弱さ。
闇の側に引きずり込まれる可能性は、
誰にだってあった。
彼は不幸な被害者だと、
ワタシは今でも思っているわ。」
彼女自身も、15年前の戦いで闇に呑み込まれた経験がある。呑み込まれて、帰って来れなかったヒトのことも知っている。だから理解できる。その言葉は決して軽くない。
「…できることなら救いたい。
でも、ワタシ達の
やるべきことはひとつ。
人々の生命を守る為の戦い。
その妨げになるのなら、
その時は彼を倒さなければならない。
情に流されることなく、…ね。
それが彼を救う唯一の手段、
…かも知れない。
残念なことだけれどね。」
彼女の決意は固かった。若かりし頃ならば心揺れることもあったであろう。しかし今、彼女はJSMR怪獣対策本部総司令官、なのである。これまで培ってきた経験が、彼女の中の優先順位を決定する。生半可な優しさが最も危険なことを、重々承知していた。
「…さてと、
既に感付かれているとみるべきね。
何せ相手はイラストレーター。
予知も予言も千里眼も読心術も、
なんでもござれの化け物だもの。
できればこれから乗り込んで
決戦を仕掛けたい。
この際、手段は選ばないわ。
暗殺だって何だって良い。
諸悪の根源レイドウ参謀を、
今この瞬間にも討ちたいの。
何一つ確たる証拠がないけれど、
ワタシはこの勝負に挑みたい。
きっと対面すればはっきりする。
目を見て話せば全てが解る。
そんな危うい戦いだけれど、
ワタシに付いてきてくれるかしら?」
彼女の呼びかけに、メンバーは一呼吸置いて深く頷いて返す。カザマ、サジマ両隊員と、サエキ隊員。作戦司令室とは別にオペレート室に籠るタザキ隊員。皆、隊長を信じて従うことに迷いはなかった。
「!?」
しかしその時、作戦司令室の照明が落ちた。全ての電源が寸断された。間もなく予備電源に切り替わると、作戦司令室の自動ドアが開閉した。すると黄色と銀のツートンに黒のラインがあしらわれた戦闘服の隊員が、10数名そこにいた。皆、ライフルを構えていた。本部基地の電源を一時的に寸断し、その隙に乗じて侵入してきたらしい。
「…そこまでだ。
我々はJSMR常任理事委員会より
派遣された新設部隊、
チーム・イエロー。
これよりユウキユイ隊長を
総司令官の任より更迭、
直属部隊の永久凍結を命ずる。
これは常任理事委員会より
下された決定事項である。
無益な抵抗はなされぬよう、
どうぞ速やかに武装解除されよ。」
リーダーと思わしき風格ある男性が、捜査令状よろしく何やら書類を突き出してそう宣言した。
「…超能力者様の
ご進言ってやつかしら?
どんな理由か一応
聞かせてもらいたいわね。
ったくみんな飼い慣らされちゃって。
権力の亡者共は予言者とかに
弱いって本当なのね?」
ユウキ隊長は動じない。これは予測でき得る事態であった。
JSMRのJはジャパンのJ。前身であるSMRは、ニッポンという国家の誇りを剥ぎ取られ、怪獣対策の専門家としての有益性故に残されていた。ジャパンを司りJSMRとなってからは、国家としてのニッポンを司る組織を兼任していたが、今は違う。武力を有する怪獣対策本部に全権を委ねている危険性等を配慮して、この配慮とは国内外に対する対面的なものなのであるが、とにかく一組織に降ったのである。そして国家としての祭り事を仕切るお飾りとして設立された常任理事委員会が、神の如き超能力者の傀儡に成り下がることは容易に想像できていた。
「…我々は命令に
殉じているだけですので。
しかしその様子では
心当たりがおありのようですね?
ならば話が早い。
我々もアナタ方に
手荒な真似はしたくはありません。
速やかなる投降を求めます。」
チーム・イエロー隊長の語り口は穏やかだったが、その文言は強制的なものであった。
「…緊急連絡!!
都心某所にて
レッドアイズ反応感知!!
急激なエネルギーの上昇を
認めます!!」
沈黙を破ってスピーカーから流れるタザキ隊員の報告。
「…心配ご無用。
これよりは我々チーム・イエローが
対処に当たります。
レッドアイズか、
このタイミングで出現とは厄介だな。
いや、好機とみるべきか…。」
モニターに映し出されるは、本部基地より飛び立つ黄色いファイターWXの映像。存在する筈のない機体の存在に、驚かずにはいられなかった…。
「…手を出すな」
舞台は戻って何処ぞの路地裏。血塗れのツガマモルが一言漏らした。
「…娘に手を出すな」
そして今にも千切れそうな身体を引きずって立ち上がる。
「…コトリはオレだけのモノだ」
顔を上げて見せたその表情は険しく、そして眼が赤く煌めいていた。皮膚が熱を帯びて焼け焦げていくかのように浅黒く変色していき、噴き上がる蒸気のようなオーラが髪の毛を逆立て、金色に染め上げていく。
「…ようやく本性出してきやがったか
…殺しがいがあるぜ!!」
イレブンDは嬉々として軽くステップを踏み、そして一気に踏み込んで肉迫、渾身の右ストレートで殴り掛かった。
「!?」
イレブンDの動きが止まった。ツガの顔面を殴った鋼鉄の拳が、しかし顔面を吹き飛ばすことできずに、頬に触れたまませき止められてしまったのである。
まともに顔面を殴られた筈のツガは、しかしにやりと嫌らしい笑みを浮かべていた。そして逆に相手の手首を掴んで捻り上げていく。鋼鉄のスーツに指が食い込んでばりばりと砕く音が鳴り響く…。
「…クソッ!!」
イレブンDは咄嗟に間合いを取ろうとするが、掴まれた手首を振りほどくことができなかった。余りの腕力に手首を潰されそうになりつつ、その体勢のまま、もう片方の拳で何度も何度も殴り付けた。しかしツガは微動だにしなかった。
そのうちに、相手がやたら大きく見えてきた。確かに強大な力を目の当たりにすると相手が大きな存在に見えることがあるが、そういう目の錯覚の類ではないことは、早い段階で認識した。肉体が膨張し、上着が千切れていく様子。そして掴まれた手首が、手首と言わず肘から下、腕を掴まれている状態になっていた。もはや右腕の感覚は痛覚を通り越して無きに等しかった。
「…これが『ツガイ』の力かぁっ!!」
イレブンDは闇に頼って克服した筈の恐怖を久方ぶりに感じて…。
「!!」
刹那、ツガが無造作に拳を思い切り振り上げてアッパーを繰り出した。
イレブンDは顎、というか拳が大き過ぎて頭部を跳ね飛ばされ、手首を残して路地裏から飛び出して表通りに転げ落ちてしまう。
「…違うな
…オレは『ツガイ』じゃあない」
引き千切って握ったままだった手首を投げ捨てて、ツガが呟き始める。
「…ガイ
…オレはガイスト
…もう一人の『ツガイ』だ」
そう宣言したツガは、全長10メートル強の赤い眼をした巨人になっていた…。
~つづく~




