RED EYES -3ページ目

RED EYES

ウルトラ小説

∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.99
「The revealing of a secret」

「…もぬけの殻ね。」

拍子抜けする余裕はない。しかし襲い来る罠、そして死角から飛び出してくる数え切れない敵は予想していた。その全てを突破する覚悟があった。それにしては余りにも手応えがないことに、ユウキ隊長もさすがに驚きを隠せなかった。
舞台は東京都心の超高層ビル内。占拠された東京湾のJSMR怪獣対策本部基地から抜け出したブルーチームが、確信を持って黒幕と推察するシルバーチーム・レイドウ参謀を倒す為、その本部が置かれた超高層ビルに乗り込んだところである。
地下フロアへのルートは固く閉ざされていたものの、上の階へと進むルートは全て解放されていた。目指すは最上階付近の作戦司令室。エレベーターすら動いていたが、さすがに缶詰状態で襲われたらひとたまりもないので、階段を登って上を目指した。その間、障害となるものは一切なかった。人海戦術よろしくシルバーチーム隊員が押し寄せてもおかしくないのに、ビル全体が死んでいるかのように、まるでヒトの気配がなかった。


「…既に逃亡した可能性もありますね。」

同行するブルーチームメンバー、カザマ隊員が汗を拭ってそう呟いた。さすがに約1000メートル、階数にして約200の超高層ビルを階段で登るのは肉体的に辛いものがあった。

「…いえ、
 レイドウ参謀はここにいます。
 根拠はありませんが、
 とにかく存在を感じます。
 待ち構えています。
 恐らく相手も解っている筈です。」

サエキ隊員が、やはり汗だくでそう言った。彼はトゥエルヴ・タイプD。『星の記憶』を宿した彼の第六感とでも言うべき直感は、信じるに値する。

「…構わないわ。
 敵がチームを利用してこないのなら
 むしろ好都合。
 余計な争いをせずに済むわ。
 標的はあくまでレイドウ参謀。
 彼を仕留めることができれば、
 シルバーチームは崩壊する。
 解放されると言うべきかしら?
 恐らく洗脳されているのよ。
 アイツはイラストレーターとしての
 能力を存分に活かして、
 得体の知れない教祖さまにでも
 なったつもりでいるのよ。
 いい加減、
 化けの皮剥いでやんなきゃね。」

そう言うユウキ隊長は、レイドウ参謀の顔でも思い浮かべているのだろうか、憎たらしそうに表情を歪めながらそう言った。

…随分な言われようだねぇ

その時、何処からかスピーカーを通して嫌らしい口調の男性の声がした。間違いなくレイドウ参謀であった。

…そう警戒することもない
…早くワタシの所まで来たまえ
…それとも怖くて及び腰かな
…ワタシはとうに待ちくたびれている

「…レーダーに反応出ました!!
 やはり190階付近の作戦司令室に
 人体の熱源反応!!
 そこにレイドウ参謀がいる模様です!!」

上空を旋回するファイターWXに搭乗するサジマ隊員からの通信。それを受けたユウキ隊長は、一気にそこを目指して階段を駆け上った。有酸素運動の疲労と緊張がピークに達していたのか、レイドウ参謀のあからさまな挑発に怒り心頭。冷静な判断を求められるところだが、元より罠に飛び込むつもりで挑んでいるのだから、彼女の中では何等問題はなかった。
そうして目標の階に到達すると、作戦司令室と思わしきフロアの扉の左右にカザマ・サエキ隊員が陣取り、正面にユウキ隊長。アイコンタクトの後に扉を蹴破って一気に突入した。

「…ようこそブルーチーム諸君。」

フロアの照明は消えていた。しかし全面ガラス張りの窓際に、僅かな月明かりで浮かび上がる人影があった。オールバックに嫌らしい口髭で、白いスーツに身を包む男性。紛れもなくレイドウ参謀そのヒトである。刹那、その眼が赤く煌めいて…。

「…バイザーオン!!」

叫ぶユウキ隊長。すると瞬時に、メンバー全員の目許にバイザーが装備された。フルフェイスのメットは装着していない。しかし左耳に装着されたヘッドホンのような通信機器から、内蔵されていたバイザーが展開されたのである。

「…フフフ、
 そんなにワタシに
 眼を見られるのが怖いかね?
 心を覗き込まれるのは
 恥ずかしいと見える。
 まあ懸命な判断だね。」

バイザー越しに見るレイドウ参謀の眼は、確かに赤く煌めいていた。間違いなく、レッドアイズそのものである。

「…15年前のレッドアイズ事件、
 その一人と推測される人物、
 キラサワミキオの消息が途絶えたのと同時に、
 レイドウミキオという人物がこの世界に
 存在するようになった。」

ライフルの照準を相手に向けたまま、ユウキ隊長は語り始めた。

「…アナタは世界初のイラストレーター。
 いわゆる超能力者として、
 その能力を公に認めざるを得ない存在。
 これまでに数々の奇跡を起こし、
 偉業と称賛されるだけの人命を救ってきた。
 神の如き預言者として、
 その存在が民衆を混乱させる
 原因になるとまで信じられ、
 だから政府が公にそれを認め、
 JSMRに組み込むことで、
 事態の収拾とした。
 国がその力を共有財産として
 有効利用する為にね。
 それ程の人物なのよアナタわ。」

だが彼女は今、そんな彼に銃口を向けている。

「…証拠は何一つない。
 アナタの命を狙うということは、
 国家反逆罪に等しい。
 それでも確信を持って、
 アナタは我々の敵だと、
 人類の敵であると、
 ワタシは信じて疑わない。
 問い詰めるだけの材料はない。
 そんなつもりもない。
 その赤い眼が何よりの証拠。
 もう隠し続ける気はなかったんでしょう?
 何がレイドウよ、
 偽名なんか使って何がしたかったの?
 国家の中枢に入り込んで、
 いえ、このJSMRが目的よね?
 そこで何がしたかったっていうの?」

矢継ぎ早に言葉を叩き付けるユウキ隊長。その間、レイドウ参謀は太い葉巻に火を着けて優雅に吹かしていた。濃厚な煙がフロアに漂い始める。いわゆる煙草の煙とは一味違う。これまでに嗅いだことのない香り、というか異臭。まるで粉を撒き散らしているかのようで、淀んだ空気の重さに色彩をもたらしていた。

「…ヒステリックだねぇ。
 ワタシは女性には優しい方なんだがね、
 うるさい女は好みじゃあない。
 うっかり首を締めたくなってしまうよ。」

冗談めかしてにやりと笑いながらそう言うレイドウ参謀。しかし目に見える程の殺気が滲み出ていた。その迫力に、ユウキ隊長は言葉を詰まらせてしまう。

「…レイドウ

 …レイ…ドウ

 …レ…ド

 …レッド

 …レッドアイズをもじってみたんだが、
 …どうだろう悪くない苗字だろ?」

ぽつりぽつりと、レイドウ参謀がそう言った。おちょくるような口調であった。

「…レイドオオオオオオオオ!!」

瞬間、ユウキ隊長は頭に血が昇ってしまった。そしてレーザーライフルをぶっ放した。しかし光線はレイドウ参謀の直前で湾曲して四方八方へと飛び散ってしまう。

「…チイィッ!!」

ユウキ隊長はすぐさまライフルのスイッチを切り替え、次は実弾を連射した。カザマ隊員も慌ててそれに続いて連射する。先のレーザーの乱射でフロア中が被弾して散乱していたが、そこに弾幕も加わり、視界がすこぶる悪くなってしまう。

「!!」

刹那、弾幕がかき消えて姿を見せたレイドウ参謀。その差し出した掌の先で、数百発の弾丸が静止していた。念動力、とでも言うべきものだろうか。そして逆にユウキ隊長に集中して弾き返された。
しかしそれを食い止めたのは、紅きオーラまといしサエキ隊員であった。彼は咄嗟にユウキ隊長の前に出て、そのオーラで受け止めた弾丸を、更に弾き返した。フロア中が、戦火の直中のように荒れ果てていた。舞い上がる書類の類が、しかし全て床に落ちるまで、どちらも動かない。張り詰めた緊張感が静寂をもたらしていた。

「…サエキトウジ、
『トゥエルヴ』の記憶を持つ男。
 ユウキ君の切り札かね?
 だがワタシ達の話し合いには、
 やはり邪魔だね。」

沈黙を破ってレイドウ参謀がそう呟くと、何処からともなく影の中からゆらりと人影が出現した。

「…ハァ
    …ハァ
       …ハァ」

その人物、暗闇に紛れる程に肌が黒光りしていた。しかし衣服まとわぬ上半身と顔に浮き出る青いラインと赤い眼が、はっきりとそこにヒトの形をしたモノがいることを示していた。

「…アサカさん!!」

思わずサエキ隊員が叫んだ。しかしアサカと呼ばれた人型のソレは、見る影もなく異形であった。辛うじてヒトの形をしてはいたが、黒く変色した皮膚がひび割れ、血が迸るかのように、しかし青い光が漏れていた。その皮膚の傷は、まるでトゥエルヴ・アンファンスのそれであった。ヒトの肉体に収まり切らない星の力が漏れ出していた。





腰に巻かれたベルトから下は、いぶし銀のプロテクターを装着したままであった。それは紛れもなくイレブン。もはやアサカはヒトの姿を維持していることもできぬ状態にあった。

「…キミの力をコピーさせたまでは
 良かったのだがね、
 どうにも肉体が追い付かない。
 そろそろ限界らしくてね。
 ここまでくると使い物にならない。
 コレもやはり消耗品ということか。
 最後くらいは、
 せいぜいキミとの一騎打ちで
 存分に力を発揮させてくれたまえ。」

レイドウ参謀のその言い草に、ブルーチームメンバーは怒りに心を震わせていた。しかしゆっくりとこちらに向かってくる変わり果てたアサカを前に、怒りに身を任せるより前に、脅威として感じずにはいられなかった。

「…アサカさんはオレが食い止めます。
 場合によってはこれが最後、
 決着を付けます。」

視線を交わす余裕もない。サエキ隊員はそう小声で呟いた。

「…隊長達は外のサジマ隊員と連携して、
 どうにかここを脱出して下さい。
 アイツはヒトの力で
 どうにかできる相手じゃありません。」

「…しかしさっきから外界との通信が
 シャットダウンされている。
 このフロアに入った途端にだ。
 どうにもならんぞ。」

サエキ隊員の提案に、耳打ちレベルに小声で答えるカザマ隊員。

「…オレが外に出ますから、
 何とかしてみます!!」

そう言って、サエキ隊員は駆け出した。同時に速度増すアサカ。果たしてフロア中央で衝突した両者は、しかし組み合った瞬間、サエキ隊員が窓際まで押し切り、その勢いのままガラスに突っ込んだ。両者は組み合ったままガラスを突き破って外へと飛び出してしまう。
地上約1000メートル上空からの落下、両者の悲鳴のような叫び声がすぐさま遠くなっていき、そして眩い閃光が立ち昇って…。

「…おっと、
 よそ見をしている場合じゃないよ。」

レイドウ参謀の言葉によって、はっと気付いて再びライフルを向けるユウキ隊長とカザマ隊員。

「…その玩具が無意味なことは、
 十分に理解してくれていると思うが。
 …さて、
 ワタシ達の物語を進めるとしよう。」

その間にも、ビルに何かが激突しているかのような衝撃がフロアを揺るがしていたが、レイドウ参謀は一向に気にするふうではなかった。

「…ワタシはね、
 15年前は何もしていないことに
 なっているのかな?
 赤い眼の使者予備軍といったところか。
 だがそれは違う。
 赤い眼の神を見て開眼する前に、
 まだヒトであった頃に、
 赤い眼の神の覚醒を促す役割を担っていた。
 赤い眼の神にヒトの心を捨てさせる。
 そんな大役を仰せつかっていた。
 まだヒトであったのにね。
 偶然という名の必然。
 ワタシは選ばれしモノだった。」

それはクロイワヒロトの愛するモノの命を、交通事故という偶然の悲劇で奪ったこと。それをきっかけに、クロイワヒロトは赤い眼に覚醒する。

「…だが愛するモノを失ったのは、
 赤い眼の神だけではなかった。
 ワタシも失った。
 …愛とは何か?
 ワタシにとっては性欲であり、
 種の保存、
 生存本能でしかない。
 それでも愛するモノがいた。
 結婚もした。
 子供もできた。
 大切な家族がいた。
 人並みに幸せを感じていた。
 これが愛情というのなら、
 ワタシにも確かに
 愛するモノがいたことになる。」

淡々と語り出したレイドウ参謀。何を言っているのか、ユウキ隊長達には理解できなかった。

「…もう調べているだろう?
 事故を起こしたワタシは、
 家族を失うことになった。
 裏切られたのだよ。
 妻は家族としてワタシを支えることより、
 女として別の幸せを選んだ。
 最初はワタシの求めに応じないだけだった。
 いいやその時点で、
 だから冷めていたんだろうね。
 所詮、愛は性欲でしかないということ。
 解っていたのにね。
 一人息子は加害者家族として
 いじめの対象になってね。
 まだ高校生だったよ。
 多感なお年頃ってやつだったんだろうね。
 両親の離婚もその心を不安定にさせた。
 あの女は助けを求める息子の声を
 聞く余裕がなかった。
 所詮、女手ひとつでは生きていくので精一杯。
 守ってやれる家族がいなかった。
 ワタシは引き離されてしまっていてね。
 そんなに苦しんでいることを、
 知る由もなかった。
 …可哀想に、
 自ら命を絶ってしまったよ。」

彼が言う妻とは、間違いなくエチゼンユウコのこと。レッドアイズ・ダイヤモンドレディーであった女性。つまり彼は、裏切った元妻を異形の怪物に仕立て上げることで、復讐したのである。だがこれは全て彼の勝手な言い分である。自分にも原因があることこと、その可能性を全て棚上げにした、身勝手な見解である。

「…その頃だ。
 ちょうど赤い眼の神が
 全てに決着を付けた頃。
 ワタシはひっそりと覚醒した。
 その能力は『リセット』すること。
 あるモノをなかったことにし、
 なかったモノをあることにする。
 歴史の改竄すら自由自在。
 この能力を以て、
 ワタシは超能力者として崇められる
 新しき人生を歩み出した。
 しかし覚醒したワタシにとって、
 超能力なんてものは手品に過ぎない。
 こんな能力でもちょいと演出してやれば、
 ヒトの心は容易く掴めた。
 真の能力は『リセット』すること。
 例えばこんなこともできる。」

そう言って彼が指を鳴らすと、割れ砕けて落下していった筈のガラスの破片が逆流してきて、ガラス張りの窓が元通りに直った。それだけではない。窓ガラスが割れたことによって流れ込んだ風によって荒れ果てたフロア内も、まるで時間が逆流したかのように、綺麗に整頓されていた。

「…窓が割れた、
 という事実をなかったことにしてみた。
 これがワタシの能力だよ。」

この能力で、彼はキラサワミキオからレイドウミキオへと変わった、ということなのだろうか。容易には理解し難い。

「…目的は、
 15年前に成し得なかった
 赤い眼の神の覚醒、…かな?
 覚醒せずに永遠の闇をもたらせなかった、
 という事実を『リセット』する。
 それがワタシの役目なのだろう。
 その為にヒトを喰らった。
 その命その魂そのエナジーを、
 赤い眼の神の憑代となる肉体に注ぐ。
 ヒトは性欲という快楽に
 身を委ねているときが
 一番美味くてねぇ。
 ワタシも男だからね、
 若くて美しい肉体を持て余す女を、
 食い散らかしてきたよ。
 その数は…」

「…もういいわ!!」

嫌らしく舌なめずりをして恍惚の表情で語るレイドウ参謀を、ユウキ隊長が遮った。

「…こんな男を!!
 こんな化け物を!!
 諸悪の根源を!!
 これまでワタシ達JSMRが
 匿っていたなんて!!
 おぞましいにも程があるわ!!」

吐き捨てるように叫んだユウキ隊長。そして改めてライフルの照準を狙い定めて差し向けた。

「…おっと、
 だからヒステリーはやめたまえ。
 これから可愛いお友達を
 紹介しようというのに、
 泣かれたら困るよ。」

レイドウ参謀がそう言うと、彼の背後から唐突に少女が姿を現わした。





胸元の赤い素地に白い十字架ラインがあしらわれ、ひらひらとした白いワンピースを着ていた。きらきらと輝く青いペンダントが、胸元の十字架の中心を彩っていた。癖のある長い黒髪の先がくるりくるりと跳ねている。垂れ目気味の大きな瞳が可愛らしい少女であった。

「…ママはどこ?」

少女はきょろきょろと周囲を見回して、不安げに呟いた。状況が飲み込めていない様子であった。これまでそこに隠れていた、というふうでもなかった。これも『リセット』という能力なのであろうか。少女が存在する、という事実を作り上げたのかも知れない。

「…ママはね、
 もうすぐお迎えに来てくれるよ。
 それまでもう少しオジサンと
 一緒に遊んで待っていようか?」

少女に目線を合わせるようにしゃがんで、優しげに語りかけるレイドウ参謀。しかし少女は今にも泣きそうな顔をして、後ずさりしてしまう。だが一歩下がったところでぴたりと身体が止まった。足の裏が床に張り付いたかのように、そこから逃げることはできなかった。

「…フフフ、
 可愛いもんだね。
 この子の名前はコトリ・アレイ。
 所謂、人質ってやつだ。
 キミ達は幼女相手に、
 その物騒な玩具を向けられるのかい?」

その少女は、ユウキ隊長達は知る由もないが、このビルの何処かに監禁されているツガマモルの一人娘であった。そう、この物語には『ツガイ』という名の『星の記憶』が絡み合っている。この少女こそが、カタストロフィーへのトリガーなのである…。

~つづく~

∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.98
「Continue becoming gigantic」


「…今、揺れたわよね?」

そう呟いたのはユウキ隊長。

「…いえ、
 現在地震は計測されてませんね。
 震源はごく近辺、
 恐らくこのビルです。
 中で何かが起こっているようです。」

そう答えたのは、共に行動するカザマ隊員。隣りにはサエキ隊員もいる。ブルーチームメンバーは、シルバーチーム本部である東京都心の超高層ビルの正面にいた。
東京湾沖に停留する航空母艦のようなJSMR怪獣対策本部基地は、常任理事委員会の命により動くチーム・イエローによって占拠されていた。隊長は更迭、ブルーチームもその権限を剥奪され、軟禁状態であった。しかしユウキ隊長以下ブルーチームメンバーは、行動に出た。
占拠されたと言っても、オペレーター・タザキ隊員は基地自体のシステムを完全に掌握しており、そのサポートがあれば抜け出すことは造作もない。全員でファイターWXに搭乗して発進。それを追撃させることは、基地に残ってシステムを操るタザキ隊員が許さなかった。逆に基地内にチーム・イエローを閉じ込めていた。
この場にいないサジマ隊員は、ファイターWXに残り、光学迷彩で夜空に紛れ、超高層ビル上空を旋回している。いざとなれば爆撃する準備を整えていた。

「…アサカ隊員も、
 ここにいるのでしょうか?」

サエキ隊員が誰に問うでもなくそう言った。

「…さあね、
 話を聞く限り、
 彼はまだ死んではいない。
 でもだからって
 彼はもうヒトではない。
 遭遇したなら躊躇はしないこと。
 良いわね?」

そう言うユウキ隊長に、頷いて応えるサエキ隊員。

「…さてと、
 常任理事会まで動かして
 ワタシ達を孤立化させて、
 いい気になって油断してるところ
 逆に夜襲決行してみたものの、
 敵の総本山はがら空き、
 警備のけの字もないわね。」

見仰ぐ超高層ビルを前に、ユウキ隊長は不敵な笑みを浮かべていた。

「…上等じゃない。
 これも計画のうちかしら?
 ワタシ達ってば
 相手の掌で踊らされてる?
 ならせいぜい派手に
 踊ってやるだけよ。
 …覚悟を決めて。
 全力で正面突破よ!!」

ユウキ隊長の言葉に、同行するカザマ・サエキ両隊員も、上空のサジマ隊員も、基地に残るタザキ隊員も、皆大きく頷いて応えた。そうしてブルーチームは闇の巣窟に飛び込んでいった…。





…助けてくれ

夢の中のまどろみ彷徨うキサラギミライに、何者かの声が届いた。

…ツガイを助けてくれ

アナタは誰?

…ツガマモルを助けてくれ

答えてくれないのね

…オレがいなきゃ
…アイツはダメなんだ

随分と自信あるのね

…ひとりにしちゃダメなんだ

ウザがられているかもよ?

…アイツの痛みは
…アイツの苦しみは
…オレが受け止める

盾になっていたとでも言うの?

…アイツの怒りは
…オレが解き放つ

そんなのおかしいわ。過保護もいいとこ、自由を奪っているだけよ。

…せめてこの世界では
…ヒトとして生きてほしかったから

ヒトは痛みを感じて強くなるし、苦しみを乗り越えて成長していくもの。怒りは原動力になることもある。それがヒトよ、ヒトとして生きていくってそういうことじゃない?

…ツガイの力は
…ヒトではいさせてくれない

『星の記憶』のことかしら?

…制御できない
…暴走してしまう
…オレのようになってしまう

だからアナタは誰なのよ!?

…闇に堕ちた別の可能性

その割りには随分と優しいのね?

…闇に染まるのは
…オレだけで良い
…それがオレの存在価値
…アイツがアイツでいなければ
…オレの存在理由は失われる

屈折してるわね、もっと自分を信じてみたら良いのに。

…もう手遅れなんだ

ワタシに何をしろって言うの?

…コトリを
…コトリエを
…守ってくれ

誰のことなの?

…オレの愛した女
…この世界では
…オレにとっての娘

子供を守れば良いの?

…愛しいモノに
…どう接すれば良いのか分からなかった
…暴力で支配し
…恐怖で束縛する
…独占することでしか
…愛せなかった

最低じゃん。

…何とでも言えば良い
…だがオレは愛していた
…食べてしまいたい程に

悪いけど協力できそうにないわ。

…しかしこの世界のツガイにとって
…ツガマモルにとって
…娘は唯一のトリガー

でもその可愛い娘に手を上げてちゃ意味がないわ。親である資格がない。

…存在自体が
…唯一の希望
…失われたなら
…ヒトとしての理性は奪われる

散々傷付けておいて、取り上げられたら怒るっていうのね。勝手な言い分にしか聞こえないわ。

…ひとたび解放されたなら
…この世界は破滅する
…力だけが独り歩きしてしまう

いい迷惑よ!!そんなの倒すしかないじゃない!!

…できるものならやってみろ
…オレは強い
…ツガイはもっと強い

どうしろっていうのよ!?





…助けてくれ





そこで目覚めたキサラギミライ。ここはJSMR怪獣対策本部基地内メディカルセンター。入院中のアカバネユウトに付き添って、昼間はテレビで放送されていたバスケットボールの試合中継を見ていた。
病室で一緒に夕食を済ませ、また取るに足らない会話をだらだらと続けるだけ。世間話は、暇さえあればスケッチブックに向き合ってお絵描きする際の適度なBGMにもなってくれた。
それも言い訳に過ぎない。今はひとりになりたくなかった。一緒にいたかった。漠然と抱く不安に、彼女は後ろ髪を引かれて帰ることができなかった。バスケットの試合中継を見ている時に感じた不安も要因のひとつだったかも知れない。
そうしていたらユウトはさすがに病人、体力も落ちている。いつの間にか先に寝ていた。その寝顔を眺めながら、相手には内緒でラフにスケッチしてみたり。そのうち彼女もベッドの側で寝落ちていたようである。
しかし起きてみたら、見知らぬ黄色い戦闘服の隊員が部屋の入口を塞いでいることに気付いた。ライフルを構えてこちらに照準を定めていた。突然のことで、冷静な判断ができなかった。思考回路は空回り、恐怖を感じる余裕もなかった。

「!!」

刹那、ライフルが火を噴いた。銃弾の嵐が殺風景な病室をけたたましく破壊していく。

「…こんな時間に
 目覚ましかけた覚えはねーぜ!?」

だが銃弾は、ベッドの周囲には傷一つ付けてはいなかった。何故ならば、上半身を起こして右手をかざす赤毛のユウトが、そのオーラを以て守っていたから。

「…コロシテヤル!!」

隊員は血相を変えた。その眼は赤く煌めいており、黄色い戦闘服が銀色に輝き始め…。

「…させねーよ!!」

だがそれより早くベッドから跳躍したユウトの蹴りが、隊員を吹き飛ばした。そして相手に馬乗りになり、その首筋に手に持つ小刀『竜人の剣』を押し当てた。

「…汚ねぇ眼してるな。
 テメエの素性なんて
 知ったこっちゃねーよ。
 赤い眼したヤツは嫌いなんだ。
 悪く思うなよ。」

ユウトは冷淡にそう言って、躊躇なく相手の首筋を斬った。相手はヒトである。少なくともヒトの形をしたモノである。しかし彼は成すべきことを心得ていた。その判断に一切の迷いはない。

…肉体ノ死ヲ以テ
 我等ノチカラハ覚醒スル…

だが鮮血が迸ったその瞬間、隊員の肉体が闇のオーラを発して巨大化していく。黄色い戦闘服に偽装し、ミライ達の暗殺を企てる為にチーム・イエローに紛れ込んでいたその隊員は、紛れもなくシルバーチーム隊員であった。であるならば、その死は巨人化のきっかけとなるものであった。

「…くっそ!!
 オレが外に連れ出す!!
 ほんとマジ病み上がりに
 ナニさせてくれちゃってんだよ!!」

ユウトはそう叫びながら、自らも赤いオーラをまとって膨れ上がる隊員ごと包み込み、共に光の粒子となって天井を突き抜けていった…。

「…ユウト!!」

傷ひとつない天井を見上げて叫ぶミライ。
はたして東京湾沖、JSMR怪獣対策本部基地上空。基地からうねって立ち昇る龍の如き一筋の流星。それが弾けると、赤毛の巨人ジークライトと骸の巨人ボーンズへと実体化した。
だがしかし、ジークライトは昇り龍の如く拳突き上げていた。対するボーンズは、下腹部から胸そして顔面までごっそり抉られていた。変身直後に、勝敗は決していた。

『ドラゴニックレイ・
 セイバーシュトローム』

ジークライトは天にかざした手の先に光まといし巨大な竜人の剣を構えると、痙攣して動けぬボーンズ目掛けて一刀両断。まるで朝日を浴びて消滅する吸血鬼の如く、ボーンズは抹消された…。

「…ユウトってば大丈夫!?」

遅れて甲板に出てきたミライ。ジークライトは幾重にも滑走路が敷かれた真っ平らな甲板に降り立つと、まるでプリンセスの前に跪くナイトのように片膝付いた。

「…ミライさん、
 申し訳ありません。」

甲板上に流れる音声は、オペレーター・タザキ隊員の声。

「…もはやこの基地も
 安全とは言えないようです。
 ユウキ隊長にはくれぐれもアナタ方を
 最優先で保護するようにと
 申し付けられていました。
 しかしアナタはイラストレーター、
 何を見て何を感じ、
 どう行動するか、
 その行く末に未来が紡がれていく。
 それを止めることはできません。」

タザキ隊員の声をじっと聞くミライは、夢の中で出会った黒鉄の巨人を思い返す。とても好きにはなれない歪んだ愛の持ち主。でも、助けを求める気持ちに、嘘偽りは感じられなかった。そして食い止めなければならない未曾有の危機がそこにあると、残念ながら直感していた。

「…アナタ達の邪魔は
 誰にもさせません。
 ここで食い止めます。
 自由に未来を描いて下さい。
 …でも、
 勝手な願いを聞いて下さるなら、
 隊長達を助けてあげて下さい。」

微弱ながらイラストレーターであるタザキ隊員には、ほんの僅か未来に不安を読み取っていた。決戦を挑む相手は果てしなく強大である。ヒトである自分達の敵う相手なのか、不安を払拭することはできなかった。
そして邪魔者とは、チーム・イエローのこと。彼等は決して闇の側の使者ではなく、あくまでヒトではあったが、手駒として良いように使われていることに違いはない。中には正真正銘、闇の使者と化したシルバーチームまで紛れ込んでいる始末。もはや周りは全て敵、という状態なのである。
この状態を作り出すことのできる相手、世界を操り改竄し、思い通りに事を進めんとする強大な敵。先を見通せるからこそ感じずにはいられない恐ろしさを、彼女は理解していた。

「…そっか、
 ユウキ隊長、
 本当の敵が分かったのね。
 それは多分、
 ワタシ達の敵でもある。
 でも未来を描くとか、
 ワタシよく分からないの。
 っていうかワタシ
 戦うヒトじゃないし。」

ミライはそう言いながら胸に手を当てて、これまでの戦いを思い返す。いつも戦ってくれていたのは、運命のヒト。『星の記憶』に選ばれし5人。

「…でも、
 やるしかないじゃん。
 ワタシまだお絵描きしたいもん。
 世界中のみんなが、
 きっとまだまだ
 生きてやりたいこと沢山あるの。
 その可能性、
 未来への希望、
 勝手に夢を潰されるのは
 納得できないもん。」

自覚があるかは関係ない。彼女こそが未来を描くイラストレーター。その想いが未来を描き出す。

「…ユウトお願い。
 危険は承知してる。
 でもアナタが守ってくれるんでしょ?
 ワタシを連れていって!!」

ミライがそう言って見仰ぐと、ジークライトはこくりと頷いて返した。そして大きな掌を甲板上に下ろす。ミライがその手によじ登り、ジークライトもそれを確認すると、すっと立ち上がり、そしてゆっくりと上昇していく。遥か上空に達すると、赤毛の巨人は流星となり、いざ決戦の地へと飛び立っていった…。







落雷の如き轟音が、超高層ビルを揺れ動かした。それは時を前後して、ユウキ隊長が感じた揺れであった。
それは一瞬の出来事であった。まるで網の上で焼かれた餅。膨れ上がる細胞が、狭いフロアいっぱいに広がった。壁という壁、天井から床まで、フロア内の空間を押し潰すように巨大化してしまったツガマモル。音を立てて膨張する筋肉が、皮膚を突き抜ける骨格が、フロア中を軋ませた。
しかし存外頑丈なフロアは僅かに亀裂が生じる程度で破壊されることなく、巨大化するツガマモルの肉体を鮨詰め状態にして留めていた。関節や骨格を無視した無理のある姿勢で折り畳まれたかのような、例えばくの字に曲がる、程度の表現では生ぬるい状態であった。ドラマで良く見るシチュエーション、トランクに詰めて運ばれる死体、よりもずっと無茶な姿勢。鮨詰め、としか言いようがない。

「…おいおい冗談は
 やめてくれたまえ。」

さすがに驚いたのか、レイドウ参謀はそう言った。彼の力によってガイストとして巨人化した際の記憶を思い出した瞬間、ツガマモルの肉体は暴走した。突如膨れ上がって巨人化したのである。このフロアは使い捨ての巨人ボーンズ達の戦闘訓練や実験を想定して特に頑丈な作りをしており、分かり易く例えるならば核シェルターのようなもの。そうでなければ建物自体が崩壊していた。

「…それだけの力を持ったまま、
 よくもまあ今まで
 ヒトとして過ごしてこれたものだ。」

それだけの力とは、『ツガイ』という『星の記憶』のこと。それを宿していた故に、ツガマモルとしての人生が構築されてきた。生い立ち境遇、心優しき性格、背の高さ、あらゆることが『星の記憶』に影響されて現在に至る。宿していなければ、高身長故に秀でたバスケット選手にもならなかったかも知れない。名は体を表す。そもそもツガマモル、ですらなかったかも知れない。

「…なる程ねぇ、
 ガイストとかいうもう一人の人格が、
 キミがヒトでいる為の
 ストッパーだった、
 のかも知れないね?
 察するにガイストはキミ自身の闇。
 しかしそれが、
 キミがヒトであることを
 望んでいたのか?
 皮肉なことだね。
 だがそれを失った今、
 キミは真の自由を得たと
 考えるべきだよ。
 存分に巨人の力を振るうが良い。」

レイドウ参謀の言葉が通じているのか定かではないが、窮屈そうに身動き取れぬ巨人化したツガマモルは、雷鳴の如き咆哮を上げた。そして首だけ伸ばして喰らい付くようにしてレイドウ参謀に迫る。
その時、レイドウ参謀はそっと手をかざした。その手がツガマモルの顔面に触れると、ぴたりと咆哮が止んだ。そして掌を通して何か注入されているかのように、ツガマモルの肉体にじわじわと波紋が広がった。すると乳白色をした切れ長な巨人の眼が、赤く染まっていった。

「…キミには期待している。
 異世界での物語なんざ
 ワタシには関係ない。
 正直、興味がないのだよ。
 巨大化し続ける巨人、
 という力を宿せしモノ。
 その事実だけが重要なのだ。
 些か危険すぎる『星の記憶』だがね、
 巡り会えてワタシはすこぶる嬉しい。
 興奮が抑え切れんよ。」

嫌らしい笑みを浮かべて呟くレイドウ参謀の表情には、理性というものが感じられなかった。

「…大いなる巨人よ、
 害虫の如く湧いてひしめき合う
 ヒトの世界を粛清したまえ。
 命を淘汰せよ。 
 盛大なカタストロフを
 もたらしたまえ。
 いっそ惑星ごと壊してみるか?
 それもまた一興。
 全てを闇に還すが良い。」

まるで呪文を唱えているかのようであった。巨人化したツガマモルは、既にレイドウ参謀の身体と重なっていた。巨人の肉体が広がる狭いフロアに、そもそもヒトが生きて存在できるスペースはなかった。同一空間に重なって見えた。いや、別の空間にいるからこそ、重なって存在できていた。

「…しかし申し訳ない、
 これから来客予定なんだ。
 招いちゃいないんだがね。
 なに、ちょっとしたパーティーだ。
 キミには少しの間、
 大人しくしていてもらおう。」

レイドウ参謀がそう言うと、巨人化したツガマモルの眼光が消え失せ、見る間に萎んでいった。そうして元いた場所、既に拘束されていた椅子など木端微塵に潰れていたが、そこにヒトの姿で戻った。死んだように意識なく寝そべっていた。相変わらず2メートル越えの身長に変わりはなかったが、今は一際小さく見える。

「…そうしていれば、
 可愛いもんなんだがねぇ。
 よもや破滅をもたらす存在には
 到底見えんよ。」

レイドウ参謀は、床に突っ伏し寝顔を晒すツガマモルを覗き込むようにしてそう呟くと、振り返って闇に紛れた。暗幕に引っ込む役者のように、闇に紛れて消えた。須らく舞台は整えられつつあった。各々が演ずる役割を果たす為に、或いは悲劇的な結末に向けて…。

~つづく~

∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.97
「The dual personality」


現場に駆け付けたチーム・イエローは、エネルギー反応中心部から山のように積み上がる砂鉄、のようなものが街の一区間を覆い尽くす光景を目の当たりにしていた。その量、実に約28万トン。

「…一体何があったというのだ?」

砂鉄のようなそれを手ですくってみるも、風に吹かれて煙のように消滅してしまう。辺り一面覆うそれも、やはり徐々に消滅しているようであった。

「…物質の情報入りました。
 まだ解析完了には至りませんが、
 どうやら人体を
 形作る細胞に酷似したモノ、
 のようです。」

それはブルーチームオペレーター・タザキ隊員の報告。彼女は現場のチーム・イエローが得た情報をネットを介して先取りし、既に解析を始めていた。
ユウキ隊長以下メインメンバーは作戦司令室にてチーム・イエローの監視下にあったが、彼女だけは専用オペレートルームで別行動。まず以てその場所さえ特定されてはいない。彼女がメインコンピュータにアクセスできる環境にある限り、本部基地は彼女が掌握しているようなもの。彼女こそが本部基地の心臓部と言っても過言ではない。チーム・イエローによる本部掌握騒動も予測の範囲内、不要な戦闘による被害を出さぬ為に、むしろ招き入れただけのこと。

「…早いわね。
 光の粒子のように消滅する細胞、
 まるで『巨人』のようね。」

周りに聞こえぬ程の小声でそう呟いて答えたのは、ユウキ隊長。監視下にあるので目立って通信はできないが、しかし体内に仕込まれた通信システムは使えた。骨伝導システムを利用して、殆ど声を発さずにやりとりができているのである。

「…この物質、
 ヒトの細胞に近しいとすると、
 質量というか密度が、
 ヒトのそれに比べて
 異常に濃いようです。
 …重いと表現するべきでしょうか。
 仮に『巨人』だとしたなら
 全長約80メートル級、
 ということになるのですが、
 その質量が28万トンとした場合、
 重すぎて地球上に
 存在できる筈がありません。」

タザキ隊員の頭の中で何かしらの仮説が成り立ち、それに伴った膨大な演算が始まっていた。

「…推定身長から
 換算される適正体重の、
 この適正体重とは
 人間から換算してなのですが、
 比べて約40倍の質量ということに
 なってしまうのです。
 しかし…」

「…ちょっと、
 ワタシ数字苦手なのよね、
 何を言っているのか
 さっぱり頭に入ってこないわ。」

ユウキ隊長はたまらずタザキ隊員の言葉を遮った。

「…物質の解析は
 まとまったら後でお願い。
 それより今は、
 ワタシ達は次に
 どう動くべきか、…ね。」

総司令官の座を更迭されていようとも、彼女は何も変わらない。なすべきことの為に突き進む。その意志に揺るぎはなかった…。





…生きてくれ





そう囁かれた気がして、はっと目が覚めたのはツガマモル。悪夢にうなされていたかのようで、びっしょりとかいた嫌な汗が滴る音だけがする。

…ここは何処だ?

真っ暗だった。両手両足を拘束されて、椅子に座らされているらしい。

…怖い

思い出したように恐怖を感じた。

…自分しかいない

いつものように他人事として感じることができなかった。

…もう一人の自分がいない

現実から目を背けることができなかった。

…助けてくれ





「…ようやくお目覚めかね?
 キミをここまで招待するのには、
 随分と苦労させられたよ。
 …覚えていないのかね?」

暗闇に小さな火種が灯ると、声がした。遅れて臭ってくる嗅いだこともない異様な煙草の煙が目に沁みた。火種が僅かに葉巻を咥える人物の顔を照らし出す。オールバックの黒髪に口周りの髭、嫌らしい笑みで葉巻を吹かしているのは、レイドウ参謀であった。

「…正直、甘くみていたよ。
 生きている限り
 巨大化し続ける巨人、
 という『星の記憶』をね。」

言っていることが意味不明の見知らぬ人物。前にもこんなことがあった気がする。赤い眼をしていて…。

「…こんな眼だったかね?」

ぎょっとした。こちらを覗き込むようにして顔を近付けてきたかと思うと、その眼が赤く煌めいたのである。何よりも、心の中で思ったことと会話が成立していることに恐怖した。

「…すまんね、
 キミが随分と無口なもんだから。
 それにしても、
 座高、高いねぇ~。」

間近で煙を吹き付けてくる赤い眼の男に、心底恐怖する。こいつは化け物だ。夢なら醒めてくれ。そう祈らずにはいられなかった。

「…化け物とは酷いねぇ~。
 自ら巨人化しておいてよく言う。
 どっちが化け物だか怪しいもんだ。」

訳が解らない。

「…『ガイスト』とか
 名乗っていたもう1人の人格。
 アレはキミが
 自分を守る為に作り出したモノ。
 しかし残念ながら
 彼はもういない。
 キミの心を守る鎧は
 もうないのだよ。」

だから何を言っているのか解らない!!

「…キミは図体に反して心優しかった。
 虫も殺せぬ臆病さ。
 裏を返せば弱かった。
 幼少期を思い出してみようか。
 所謂いじめってやつだ。
 子供は残酷だからね。
 目立ちすぎる図体は
 標的になり易い。
 苦痛を感じているのは
 自分ではないと、
 思い込むことから始まった。
 客観的でいることで、
 苦痛は和らいだ。
 そしてその規格外の図体だ。
 有り余るパワーを
 吐き出さずにはいられない。
 しかし臆病なキミには
 それもできない。
 だからもう一人の自分は、
 反して狂暴化していった。
 自己防衛の為に、
 自分じゃないと
 言い訳したいが為に、
 もう一人の人格を
 形成したのだろう?」

畳み掛けられる言葉が刃物のように突き立てられ、剥き出しの心が抉られていく。

「…親に捨てられたのかい?
 生い立ちには同情を禁じ得ない。
 愛されることのなかったキミは、
 愛し方も解らなかった。
 ヒトとの接し方が解らないのだろう?
 だから良いヒトを演じてしまう。
 そう振る舞う方が楽だからね。」

…違う。

「…しかし気付けば恋もする。
 そこで大抵の人間は、
 人並みの感情ってやつを
 学習するもんだ。
 だがキミは違った。
 愛情表現が歪んでいた。」

…違う。

「…歪んだ愛は、
 時としてヒトを束縛する。
 そして暴力で支配する。
 裏切られるのが怖いんだろう?」

…違う!!

「…まあ、
 この期に及んで
 キミが二重人格だ、
 なんて話はどうでも良いことだ。
 それも『星の記憶』の影響かな。
 しかしその人格はもう死んだ。
 つまりはもうキミの心は
 丸裸なのだよ。」

…嘘だ!!

「…話が進まんね。
 いい加減、
 現実と向き合ってもらおうか…。」

そう言って、レイドウ参謀は葉巻を持たぬもう片方の手を、ツガの額に押し当てて…。





…ガイ
…オレはガイスト
…もう一人の『ツガイ』だ





フラッシュバックする記憶。暗転する脳内は時を遡り、路地裏での戦いにおいて覚醒した直後に戻る。
ひび割れた皮膚の下に見え隠れする、はち切れんばかりに膨張した筋肉。当に衣服は千切れていた。次第に黒く硬質化していく皮膚に、しかしそれでも浮き出る血管が赤いラインとなって、揺らめく炎の如き邪な模様を描き出す。この時点でツガマモルは全長10メートル級に変態していた。
巨大化するにつれ、毛髪が抜け落ちていった。食い縛った口許が、そして赤く煌めく切れ長の瞳が、表情を失った仮面の如き面構えに変化していく。鼻筋から伸びたラインが、頭頂部に角を飾り立てる。胸部中心に剥き出る菱形の宝玉が、漲るエネルギーを象徴するかのように、爛々と赤く輝いていた。
その容姿はもはやヒトのそれではなく、紛れもなく『巨人』であり、ヒトの名で呼ぶに相応しくなかった。現時点を以て、黒鉄の巨人を『ガイスト』と呼称する。

「!!」

刹那、路地裏に収まらぬガイスト目掛けて、周囲三方からワイヤーのようなものが放たれ、両腕と首に巻き付いて拘束した。それは身を潜めていた3名のシルバーチーム隊員によるものであった。その間にも、ガイストは際限なく巨大化して15メートルを越えていた。
肥大してもワイヤーは切れることなく、むしろ肉に食い込む一方。しかしガイストは構わず腕を振るった。そしてワイヤーの先の隊員達を水風船の如く振り回して壁に叩き付けた。
だが直後にシルバー隊員はマインドエネルギーを解放し、超人的な身体能力で受け身を取って回避。そしてライフルを一斉射。ガイストはたまらず両腕を振り上げて弾丸を受け止める。
その隙にもう1人の隊員が超人的な身体能力で跳躍し、その時点で20メートルを越えるガイストに向かって飛びかかった。しかしガイストはそれの上半身を鷲掴みにして握り潰すと、投げ捨てた。

「…肉体ノ死ヲ以テ」

それは実に奇妙な光景であった。空を舞うのは下半身のみ。上半身が握り潰されていた為に、下半身のみが巨大化していった。その巨大な下半身は繁華街に落下すると動くことなく沈黙。

「…我等ノチカラハ覚醒スル」

シルバー隊員は、死ぬことで巨人に変身することができる。残り2名も自らのこめかみをハンドガンで撃ち抜いた。はたして出現する2体の骸の巨人ボーンズ。





だがその瞬間、ガイストは夜空に跳躍していた。そして片方のボーンズに飛びかかる。この時点でガイストは30メートルを越えていたが、それでも全長50メートル級のボーンズからすれば、子供が相手のようなもの、の筈だった。
しかしボーンズの顔面目掛けて飛びかかっていたガイストは、その両拳を相手の両眼に突き刺して目潰し。脳髄にまで達した拳を交差させるとエネルギー爆発。ボーンズの頭部は破裂、首を失って糸の切れた人形のようにだらりと繁華街に倒れ込んでいく。

『ボーレイ・シュトローム』

3人目のボーンズが、両腕を十字に交差させて光線を照射した。ガイストは咄嗟に防御するも濁流の如き光線の波に飲み込まれ、その皮膚を焼かれてたまらず呻いた。しかし苦しげな声とは裏腹に、その肉体は巨大化を続ける。焼け爛れていく皮膚、削がれていく細胞よりも早く、肉体の異常な進化の速度が上回っていた。





ガイストは光線の波に打たれながらも、一歩一歩前進していく。その都度、見る間に巨大化していく。一歩ごとに筋肉が膨張し、一歩ごとにアスファルトを砕く足跡が大きくなっていく…。

…ちいせぇなぁ

ガイストがボーンズの眼前にまで迫った頃には、逆に見下ろしていた。全長80メートル級の、大型巨人へと進化していた。ガイストの膨れ上がった太股が、ボーンズの腰回りくらいはあった。

…コロシテヤル

刹那、ガイストは片脚を振り上げ、それから振り下ろした。地面を突き抜ける程の衝撃と共に、ボーンズの頭部を、上半身ごと踏み潰した。その一撃を以て勝敗は決した。

…咆哮

溢れ出す破壊衝動が街を震わし、全ての窓ガラスを砕いた。持て余す力を抑制できず、今にも破裂しそうな感覚。止まらぬ巨大化は、内なる欲望の具現化の如く…。





「!!」





刹那、ガイストの胸部が撃ち抜かれた。砕かれる宝玉。それは巨人にとっての心臓部。
その瞬間、ガイストは『巨人』としての形状を維持できずに崩壊した。全長80メートル級は確かに大きい。しかしそのどこにそれだけの質量が詰まっていたかと思う程に大量の、それは分裂した細胞の欠片なのか、砂鉄のような物体となって崩壊した。その質量、実に約28万トン。街の一区間を、その質量を以て押し潰した。

「…ハァ
 …ハァ
 …ハァ

 …デカブツめ、
 調子乗ってんじゃねえよ。」

その膨大な砂鉄の頂に、意識を失った衣服まとわぬツガマモルの姿があった。
それを見下して呟くのは、顔面の装甲を砕かれ、ヒトの顔を晒したイレブンDであった。彼が意識の外から放った必殺光線が、暴走する黒鉄の巨人を止めたのである…。

~つづく~