∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.99
「The revealing of a secret」
「…もぬけの殻ね。」
拍子抜けする余裕はない。しかし襲い来る罠、そして死角から飛び出してくる数え切れない敵は予想していた。その全てを突破する覚悟があった。それにしては余りにも手応えがないことに、ユウキ隊長もさすがに驚きを隠せなかった。
舞台は東京都心の超高層ビル内。占拠された東京湾のJSMR怪獣対策本部基地から抜け出したブルーチームが、確信を持って黒幕と推察するシルバーチーム・レイドウ参謀を倒す為、その本部が置かれた超高層ビルに乗り込んだところである。
地下フロアへのルートは固く閉ざされていたものの、上の階へと進むルートは全て解放されていた。目指すは最上階付近の作戦司令室。エレベーターすら動いていたが、さすがに缶詰状態で襲われたらひとたまりもないので、階段を登って上を目指した。その間、障害となるものは一切なかった。人海戦術よろしくシルバーチーム隊員が押し寄せてもおかしくないのに、ビル全体が死んでいるかのように、まるでヒトの気配がなかった。
「…既に逃亡した可能性もありますね。」
同行するブルーチームメンバー、カザマ隊員が汗を拭ってそう呟いた。さすがに約1000メートル、階数にして約200の超高層ビルを階段で登るのは肉体的に辛いものがあった。
「…いえ、
レイドウ参謀はここにいます。
根拠はありませんが、
とにかく存在を感じます。
待ち構えています。
恐らく相手も解っている筈です。」
サエキ隊員が、やはり汗だくでそう言った。彼はトゥエルヴ・タイプD。『星の記憶』を宿した彼の第六感とでも言うべき直感は、信じるに値する。
「…構わないわ。
敵がチームを利用してこないのなら
むしろ好都合。
余計な争いをせずに済むわ。
標的はあくまでレイドウ参謀。
彼を仕留めることができれば、
シルバーチームは崩壊する。
解放されると言うべきかしら?
恐らく洗脳されているのよ。
アイツはイラストレーターとしての
能力を存分に活かして、
得体の知れない教祖さまにでも
なったつもりでいるのよ。
いい加減、
化けの皮剥いでやんなきゃね。」
そう言うユウキ隊長は、レイドウ参謀の顔でも思い浮かべているのだろうか、憎たらしそうに表情を歪めながらそう言った。
…随分な言われようだねぇ
その時、何処からかスピーカーを通して嫌らしい口調の男性の声がした。間違いなくレイドウ参謀であった。
…そう警戒することもない
…早くワタシの所まで来たまえ
…それとも怖くて及び腰かな
…ワタシはとうに待ちくたびれている
「…レーダーに反応出ました!!
やはり190階付近の作戦司令室に
人体の熱源反応!!
そこにレイドウ参謀がいる模様です!!」
上空を旋回するファイターWXに搭乗するサジマ隊員からの通信。それを受けたユウキ隊長は、一気にそこを目指して階段を駆け上った。有酸素運動の疲労と緊張がピークに達していたのか、レイドウ参謀のあからさまな挑発に怒り心頭。冷静な判断を求められるところだが、元より罠に飛び込むつもりで挑んでいるのだから、彼女の中では何等問題はなかった。
そうして目標の階に到達すると、作戦司令室と思わしきフロアの扉の左右にカザマ・サエキ隊員が陣取り、正面にユウキ隊長。アイコンタクトの後に扉を蹴破って一気に突入した。
「…ようこそブルーチーム諸君。」
フロアの照明は消えていた。しかし全面ガラス張りの窓際に、僅かな月明かりで浮かび上がる人影があった。オールバックに嫌らしい口髭で、白いスーツに身を包む男性。紛れもなくレイドウ参謀そのヒトである。刹那、その眼が赤く煌めいて…。
「…バイザーオン!!」
叫ぶユウキ隊長。すると瞬時に、メンバー全員の目許にバイザーが装備された。フルフェイスのメットは装着していない。しかし左耳に装着されたヘッドホンのような通信機器から、内蔵されていたバイザーが展開されたのである。
「…フフフ、
そんなにワタシに
眼を見られるのが怖いかね?
心を覗き込まれるのは
恥ずかしいと見える。
まあ懸命な判断だね。」
バイザー越しに見るレイドウ参謀の眼は、確かに赤く煌めいていた。間違いなく、レッドアイズそのものである。
「…15年前のレッドアイズ事件、
その一人と推測される人物、
キラサワミキオの消息が途絶えたのと同時に、
レイドウミキオという人物がこの世界に
存在するようになった。」
ライフルの照準を相手に向けたまま、ユウキ隊長は語り始めた。
「…アナタは世界初のイラストレーター。
いわゆる超能力者として、
その能力を公に認めざるを得ない存在。
これまでに数々の奇跡を起こし、
偉業と称賛されるだけの人命を救ってきた。
神の如き預言者として、
その存在が民衆を混乱させる
原因になるとまで信じられ、
だから政府が公にそれを認め、
JSMRに組み込むことで、
事態の収拾とした。
国がその力を共有財産として
有効利用する為にね。
それ程の人物なのよアナタわ。」
だが彼女は今、そんな彼に銃口を向けている。
「…証拠は何一つない。
アナタの命を狙うということは、
国家反逆罪に等しい。
それでも確信を持って、
アナタは我々の敵だと、
人類の敵であると、
ワタシは信じて疑わない。
問い詰めるだけの材料はない。
そんなつもりもない。
その赤い眼が何よりの証拠。
もう隠し続ける気はなかったんでしょう?
何がレイドウよ、
偽名なんか使って何がしたかったの?
国家の中枢に入り込んで、
いえ、このJSMRが目的よね?
そこで何がしたかったっていうの?」
矢継ぎ早に言葉を叩き付けるユウキ隊長。その間、レイドウ参謀は太い葉巻に火を着けて優雅に吹かしていた。濃厚な煙がフロアに漂い始める。いわゆる煙草の煙とは一味違う。これまでに嗅いだことのない香り、というか異臭。まるで粉を撒き散らしているかのようで、淀んだ空気の重さに色彩をもたらしていた。
「…ヒステリックだねぇ。
ワタシは女性には優しい方なんだがね、
うるさい女は好みじゃあない。
うっかり首を締めたくなってしまうよ。」
冗談めかしてにやりと笑いながらそう言うレイドウ参謀。しかし目に見える程の殺気が滲み出ていた。その迫力に、ユウキ隊長は言葉を詰まらせてしまう。
「…レイドウ
…レイ…ドウ
…レ…ド
…レッド
…レッドアイズをもじってみたんだが、
…どうだろう悪くない苗字だろ?」
ぽつりぽつりと、レイドウ参謀がそう言った。おちょくるような口調であった。
「…レイドオオオオオオオオ!!」
瞬間、ユウキ隊長は頭に血が昇ってしまった。そしてレーザーライフルをぶっ放した。しかし光線はレイドウ参謀の直前で湾曲して四方八方へと飛び散ってしまう。
「…チイィッ!!」
ユウキ隊長はすぐさまライフルのスイッチを切り替え、次は実弾を連射した。カザマ隊員も慌ててそれに続いて連射する。先のレーザーの乱射でフロア中が被弾して散乱していたが、そこに弾幕も加わり、視界がすこぶる悪くなってしまう。
「!!」
刹那、弾幕がかき消えて姿を見せたレイドウ参謀。その差し出した掌の先で、数百発の弾丸が静止していた。念動力、とでも言うべきものだろうか。そして逆にユウキ隊長に集中して弾き返された。
しかしそれを食い止めたのは、紅きオーラまといしサエキ隊員であった。彼は咄嗟にユウキ隊長の前に出て、そのオーラで受け止めた弾丸を、更に弾き返した。フロア中が、戦火の直中のように荒れ果てていた。舞い上がる書類の類が、しかし全て床に落ちるまで、どちらも動かない。張り詰めた緊張感が静寂をもたらしていた。
「…サエキトウジ、
『トゥエルヴ』の記憶を持つ男。
ユウキ君の切り札かね?
だがワタシ達の話し合いには、
やはり邪魔だね。」
沈黙を破ってレイドウ参謀がそう呟くと、何処からともなく影の中からゆらりと人影が出現した。
「…ハァ
…ハァ
…ハァ」
その人物、暗闇に紛れる程に肌が黒光りしていた。しかし衣服まとわぬ上半身と顔に浮き出る青いラインと赤い眼が、はっきりとそこにヒトの形をしたモノがいることを示していた。
「…アサカさん!!」
思わずサエキ隊員が叫んだ。しかしアサカと呼ばれた人型のソレは、見る影もなく異形であった。辛うじてヒトの形をしてはいたが、黒く変色した皮膚がひび割れ、血が迸るかのように、しかし青い光が漏れていた。その皮膚の傷は、まるでトゥエルヴ・アンファンスのそれであった。ヒトの肉体に収まり切らない星の力が漏れ出していた。
腰に巻かれたベルトから下は、いぶし銀のプロテクターを装着したままであった。それは紛れもなくイレブン。もはやアサカはヒトの姿を維持していることもできぬ状態にあった。
「…キミの力をコピーさせたまでは
良かったのだがね、
どうにも肉体が追い付かない。
そろそろ限界らしくてね。
ここまでくると使い物にならない。
コレもやはり消耗品ということか。
最後くらいは、
せいぜいキミとの一騎打ちで
存分に力を発揮させてくれたまえ。」
レイドウ参謀のその言い草に、ブルーチームメンバーは怒りに心を震わせていた。しかしゆっくりとこちらに向かってくる変わり果てたアサカを前に、怒りに身を任せるより前に、脅威として感じずにはいられなかった。
「…アサカさんはオレが食い止めます。
場合によってはこれが最後、
決着を付けます。」
視線を交わす余裕もない。サエキ隊員はそう小声で呟いた。
「…隊長達は外のサジマ隊員と連携して、
どうにかここを脱出して下さい。
アイツはヒトの力で
どうにかできる相手じゃありません。」
「…しかしさっきから外界との通信が
シャットダウンされている。
このフロアに入った途端にだ。
どうにもならんぞ。」
サエキ隊員の提案に、耳打ちレベルに小声で答えるカザマ隊員。
「…オレが外に出ますから、
何とかしてみます!!」
そう言って、サエキ隊員は駆け出した。同時に速度増すアサカ。果たしてフロア中央で衝突した両者は、しかし組み合った瞬間、サエキ隊員が窓際まで押し切り、その勢いのままガラスに突っ込んだ。両者は組み合ったままガラスを突き破って外へと飛び出してしまう。
地上約1000メートル上空からの落下、両者の悲鳴のような叫び声がすぐさま遠くなっていき、そして眩い閃光が立ち昇って…。
「…おっと、
よそ見をしている場合じゃないよ。」
レイドウ参謀の言葉によって、はっと気付いて再びライフルを向けるユウキ隊長とカザマ隊員。
「…その玩具が無意味なことは、
十分に理解してくれていると思うが。
…さて、
ワタシ達の物語を進めるとしよう。」
その間にも、ビルに何かが激突しているかのような衝撃がフロアを揺るがしていたが、レイドウ参謀は一向に気にするふうではなかった。
「…ワタシはね、
15年前は何もしていないことに
なっているのかな?
赤い眼の使者予備軍といったところか。
だがそれは違う。
赤い眼の神を見て開眼する前に、
まだヒトであった頃に、
赤い眼の神の覚醒を促す役割を担っていた。
赤い眼の神にヒトの心を捨てさせる。
そんな大役を仰せつかっていた。
まだヒトであったのにね。
偶然という名の必然。
ワタシは選ばれしモノだった。」
それはクロイワヒロトの愛するモノの命を、交通事故という偶然の悲劇で奪ったこと。それをきっかけに、クロイワヒロトは赤い眼に覚醒する。
「…だが愛するモノを失ったのは、
赤い眼の神だけではなかった。
ワタシも失った。
…愛とは何か?
ワタシにとっては性欲であり、
種の保存、
生存本能でしかない。
それでも愛するモノがいた。
結婚もした。
子供もできた。
大切な家族がいた。
人並みに幸せを感じていた。
これが愛情というのなら、
ワタシにも確かに
愛するモノがいたことになる。」
淡々と語り出したレイドウ参謀。何を言っているのか、ユウキ隊長達には理解できなかった。
「…もう調べているだろう?
事故を起こしたワタシは、
家族を失うことになった。
裏切られたのだよ。
妻は家族としてワタシを支えることより、
女として別の幸せを選んだ。
最初はワタシの求めに応じないだけだった。
いいやその時点で、
だから冷めていたんだろうね。
所詮、愛は性欲でしかないということ。
解っていたのにね。
一人息子は加害者家族として
いじめの対象になってね。
まだ高校生だったよ。
多感なお年頃ってやつだったんだろうね。
両親の離婚もその心を不安定にさせた。
あの女は助けを求める息子の声を
聞く余裕がなかった。
所詮、女手ひとつでは生きていくので精一杯。
守ってやれる家族がいなかった。
ワタシは引き離されてしまっていてね。
そんなに苦しんでいることを、
知る由もなかった。
…可哀想に、
自ら命を絶ってしまったよ。」
彼が言う妻とは、間違いなくエチゼンユウコのこと。レッドアイズ・ダイヤモンドレディーであった女性。つまり彼は、裏切った元妻を異形の怪物に仕立て上げることで、復讐したのである。だがこれは全て彼の勝手な言い分である。自分にも原因があることこと、その可能性を全て棚上げにした、身勝手な見解である。
「…その頃だ。
ちょうど赤い眼の神が
全てに決着を付けた頃。
ワタシはひっそりと覚醒した。
その能力は『リセット』すること。
あるモノをなかったことにし、
なかったモノをあることにする。
歴史の改竄すら自由自在。
この能力を以て、
ワタシは超能力者として崇められる
新しき人生を歩み出した。
しかし覚醒したワタシにとって、
超能力なんてものは手品に過ぎない。
こんな能力でもちょいと演出してやれば、
ヒトの心は容易く掴めた。
真の能力は『リセット』すること。
例えばこんなこともできる。」
そう言って彼が指を鳴らすと、割れ砕けて落下していった筈のガラスの破片が逆流してきて、ガラス張りの窓が元通りに直った。それだけではない。窓ガラスが割れたことによって流れ込んだ風によって荒れ果てたフロア内も、まるで時間が逆流したかのように、綺麗に整頓されていた。
「…窓が割れた、
という事実をなかったことにしてみた。
これがワタシの能力だよ。」
この能力で、彼はキラサワミキオからレイドウミキオへと変わった、ということなのだろうか。容易には理解し難い。
「…目的は、
15年前に成し得なかった
赤い眼の神の覚醒、…かな?
覚醒せずに永遠の闇をもたらせなかった、
という事実を『リセット』する。
それがワタシの役目なのだろう。
その為にヒトを喰らった。
その命その魂そのエナジーを、
赤い眼の神の憑代となる肉体に注ぐ。
ヒトは性欲という快楽に
身を委ねているときが
一番美味くてねぇ。
ワタシも男だからね、
若くて美しい肉体を持て余す女を、
食い散らかしてきたよ。
その数は…」
「…もういいわ!!」
嫌らしく舌なめずりをして恍惚の表情で語るレイドウ参謀を、ユウキ隊長が遮った。
「…こんな男を!!
こんな化け物を!!
諸悪の根源を!!
これまでワタシ達JSMRが
匿っていたなんて!!
おぞましいにも程があるわ!!」
吐き捨てるように叫んだユウキ隊長。そして改めてライフルの照準を狙い定めて差し向けた。
「…おっと、
だからヒステリーはやめたまえ。
これから可愛いお友達を
紹介しようというのに、
泣かれたら困るよ。」
レイドウ参謀がそう言うと、彼の背後から唐突に少女が姿を現わした。
胸元の赤い素地に白い十字架ラインがあしらわれ、ひらひらとした白いワンピースを着ていた。きらきらと輝く青いペンダントが、胸元の十字架の中心を彩っていた。癖のある長い黒髪の先がくるりくるりと跳ねている。垂れ目気味の大きな瞳が可愛らしい少女であった。
「…ママはどこ?」
少女はきょろきょろと周囲を見回して、不安げに呟いた。状況が飲み込めていない様子であった。これまでそこに隠れていた、というふうでもなかった。これも『リセット』という能力なのであろうか。少女が存在する、という事実を作り上げたのかも知れない。
「…ママはね、
もうすぐお迎えに来てくれるよ。
それまでもう少しオジサンと
一緒に遊んで待っていようか?」
少女に目線を合わせるようにしゃがんで、優しげに語りかけるレイドウ参謀。しかし少女は今にも泣きそうな顔をして、後ずさりしてしまう。だが一歩下がったところでぴたりと身体が止まった。足の裏が床に張り付いたかのように、そこから逃げることはできなかった。
「…フフフ、
可愛いもんだね。
この子の名前はコトリ・アレイ。
所謂、人質ってやつだ。
キミ達は幼女相手に、
その物騒な玩具を向けられるのかい?」
その少女は、ユウキ隊長達は知る由もないが、このビルの何処かに監禁されているツガマモルの一人娘であった。そう、この物語には『ツガイ』という名の『星の記憶』が絡み合っている。この少女こそが、カタストロフィーへのトリガーなのである…。
~つづく~



