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RED EYES

ウルトラ小説

∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.102
「The battle simulation」

…眩しい

         あれから数時間は経過していた。

…朝日が眩しい

         日の出の時刻は当に過ぎていた。

…息苦しい

           雲の上まで顔を出していた。

…ここは何処だ

      その高さからの視界は果てしなく広い。

…海の先まで見える

     しかし足許の悲惨な状態は目に入らない。

…オレは何をしていたんだ

               何もしてはいない。

…解らない

                そこにいるだけ。

…思い出せない

          存在自体が、世界を破壊する。
…唯

       ヒトとしての意識は既に薄れている。

…その先に大切なモノがある

         それでも忘れられぬモノがある。

…コトリ

       愛するモノを求めずにはいられない。

…コトリ…エ





「…JSMRウルティメイト
 アタックモード起動!!」

それは超々大型巨人ツガイ出現から約3時間後のこと。東京湾沖のJSMR怪獣対策本部基地内作戦指令室、ユウキ隊長の指令。手元のモニター下のキーボード横に突出した部位に何やらカードキーを差し込んでいた。オペレートルームのタザキ隊員も、同様の作業をしていた。それはJSMR最高指揮官と、本部基地の頭脳とも言うべきオペレーターが、同時に承認することで初めて起動が許可される、本部基地最大のシステム。
するとにわかに本部基地が振動し、徐々に上昇しているようであった。本部基地は東京湾沖に停泊する滑走路むき出しの平たい超大型航空母艦のように見えたが、それは海面上に見える一部分に過ぎない。甲板上のピラミッド型の建造物が作戦指令室等のある心臓部であることに違いはないが、水面下では海底部まで繋がった巨大な建造物なのである。それが今、海底部との連結部分を破棄し、浮上を始めていた。

「…まさかこのシステムを
 起動することになるとは思いませんでした。」

とカザマ隊員。

「…そもそも完成していたことが驚きですよ。」

続けるサジマ隊員。

「…何年前からここに基地あると思っているのよ。
 ずっと工事中ってことになってたけど、
 とっくに完成してたわよ。
 言葉は悪いけど世界中どこだって
 国ごと吹き飛ばせるだけの秘密兵器持ってますなんて、
 口が裂けても言えないわ。 
 ま、試し撃ちもしたことない、
 っていうかできないか、
 ぶっつけ本番だけどね。」

答えるユウキ隊長。この基地は15年前のレッドアイズ事件の頃から、この場所に根を下ろしていた。某大帝国との軋轢で、表立って強大な軍事力を有することはできない。しかしあくまで対怪獣兵器として、或いは地球外の未知なる脅威に対して、レッドアイズに対しての備えは必要不可欠であった。それがこのシステムなのである。
甲板上のピラミッド型の建造物は、それ自体が単独で大型移動要塞式戦闘艦、略称BS艦として稼働することができるが、本部基地の基盤そのものとなると、その大きさは全長500メートル強であった。それが激しく水飛沫を上げて、とめどなく垂れ落ちる海水を引きずって浮上していた。そして甲板が真っ二つに割れ、未だ海中に浸っている下部構造部もスライドして変形していく。その様子はまるで観音開きの化粧箱を展開しているかのようであった。徐々に超大型空中移動要塞の形状を見せ始めていた。

「…超々大型巨人ツガイは、
 破壊するだけでも溢れ出す質量で
 ニッポン全体が押し潰されてしまうかも知れない。
 でもだからって手をこまねいていれば、
 地球そのものが破壊されてしまう。
 ニッポン中に緊急避難指令は出した。
 地下シェルターにこもってもらうしかないけどね。
 例え地表が更地になろうとも、
 一か八か今ここでやるしかない。
 溢れ出す質量含めて一撃で消し飛ばす。
 現時点でそれが可能かも知れない唯一の攻撃手段。
 それがウルティメイトアタックモード。
 これしかないのよ。」

悲壮感漂う険しい表情でそう説明するユウキ隊長。しかしこれでこのシステムの存在が世間に明るみになったことになる。今後の対応を考えると煩わしい限りだが、まず生きてこの危機を乗り越えることが先決なのである。

「…チームイエローの皆さんにも協力してもらうわ。
 この作戦には移動型空間相転移シールドを
 多く使用することになる。
 ファイターを飛ばせる頭数は多い方が良い。
 ウルティメイトアタックと空間相転移シールド、
 これがセットで初めてひとつの兵器になる。
 これは大きな賭けよ。
 試運転のダメモト一発勝負、
 でもやらないよりはマシ。
 人為的ミスは一切許されないわ。」

そう言われてチームイエローも了解の意を示す。まず、本部基地指令室のあるBS艦の主砲は、巨人の必殺光線と同様の威力がある。ウルティメイトアタックモードと呼ばれる超大型空中移動要塞の主砲は、大きさからしてそれを大幅に上回ることが容易に想像できる。それを更に、空間相転移シールドシステムによって増幅する。つまりはそういうことである。
例えば水風船をライフルで狙撃したとしたら容易に貫通できるが、溢れ出る水は止めることができない。ならば水風船よりも大きな、例えば大砲で吹き飛ばしてしまえば、溢れ出る水が飛び散る前に、全て消滅させることができるかも知れない。そういう単純な作戦である。
JSMRはこれまで幾度となく強大な敵と戦い続けてきた。最終決戦ともなればいつも人智を越えた力、大きさを目の当たりにしてきた。それを踏まえて対抗手段として練り上げられてきた結果が、ウルティメイトアタックモードなのである。それなりの威力はあると信じたい。
それだけの力がありながら、何故これまで使用しなかったのかと問われたなら、それはヒトの心の弱さ故である。人類の手に余る力を保有すること、又、行使することに臆病であったから。しかしそれはヒトとしての良心でもあった。一線を越えてしまうことを軽んじぬ強さであった。
それを今、超々大型巨人ツガイを前にして解放してしまうのだから、どれだけ追い詰められていることか…。





「…やれやれ、
 想像以上の暴れっぷりだね。」

見渡す限り瓦礫の山が広がる東京都心、シルバーチーム本部の入った超高層ビル跡地に立つレイドウ参謀が独り呟く。ツガイの大きな背中が遠くに窺えるが、彼は足許に視線を落としていた。

「…また一からやり直しか。」

足許に転がるヒトの形をした赤い土の塊を踏み潰した。それは本部内の何処かで秘密裏に生成していたヒトの形をした何か。クローンのようなものなのだろうか。至る所に、ヒトの形をしていたであろう残骸が転がっていた。ツガイ出現時のビル倒壊に巻き込まれ、全て破壊されてしまったようである。

「…こんなにヒトの命は召されているのにねぇ。」

空を見仰ぐ彼の視界には、他の人間には見えない光景が映っていた。空に向かって、無数の赤い光が立ち昇っていた。それはつまりヒトの命。魂のようなモノなのだろうか。

「…生命エナジー。
 殺すことで奪うことのできるエネルギー。
 かつてない程に集まってはいるのに、
 肝心の器が完成しない。」

空に昇った赤い光は、レイドウ参謀の下に吸い寄せられるようにして下降。その掌に吸収されていく。

「…魂が宿らない。
 どれだけ肉体を複製しても、
 魂が宿らなければ、
 それは肉の塊に過ぎない。
 生きることを拒んでいるのか?」

足許に転がる生首の髪の毛を掴んで持ち上げ、その眼を覗き込むようにしてそう問いかける。するとその手からエナジーが注ぎ込まれているのか、周囲の土塊が生首に集まって胴体を形成していく。

「…なあ、タクヤ。
 何が望みだ?
 ワタシは親として何もしてやれなかった。
 だからせめて我が闇をオマエに託してやりたい。
 望むがままの世界を作り上げ、
 永遠を生きてほしい。

 …ミズキ、と呼んでほしいのか?
 もう過去は忘れたいのか?」

下腹部まで構築されつつあるそれの顔は、ミズキの顔をしていた。イラストレーター・キサラギミライがミズキと名付けた男の顔をしていた。

「…これもダメだね。」

ミズキの眼に微かに赤い光が灯ったように見えた瞬間、ぐずぐずと崩れてしまう。髪の毛を掴んでいた筈のレイドウ参謀の手には、赤い土が僅かに残るだけ。

「…どれだけ手を尽くしても魂宿らず、
 失敗作の廃棄場所の中で突然生まれたモノ。
 その魂はタクヤではないと、
 ワタシは確信している。
 だがもしもオマエだったとして、
 ミズキとやらを演じていたいのなら、
 それでも構わないのだよ?
 オマエの好きにしたら良い。
 だから戻ってきておくれよ。」

その場に座り込んで、白いスーツが汚れるのも構わず、土をかき集めてこねくり回してみるが、それが形になることはなかった。

「…まあ良いさ。
 じきに世界は破壊される。
 例え一人になっても、
 ワタシは宇宙を生きて行けるだろう。
 時は永遠だ…。」

彼は死んだ息子の蘇生を望んでいた。その過程で生まれた失敗作こそが、ミズキであった。だが彼にとってそれは、愛する息子タクヤではなかった。だがもしタクヤとしての記憶が戻っていたなら、それは彼にとって魂が宿ったということになったのだろうか。
酷く歪んではいるが、息子の蘇生したいと願う親の愛情。その想いすら、闇の側に利用されているに過ぎないことを、彼自身はまるで気付いてはいない。魂の器を造ることだけが目的。『闇の王』の依代となる肉体を造る。唯、それだけの為に…。


「…簡単な作戦の概要を説明するわ。」

舞台戻ってJSMR怪獣対策本部指令室。ユウキ隊長がそう言うと、大きなモニターに東京湾の地図が表示された。この場にはユウキ隊長以下ブルーチームメンバーと、チーム・イエロー、キサラギミライが揃っていた。メディカルルームで療養中のサエキ隊員とアカバネユウトもモニター越しに繋がっている。オペレーター・タザキ隊員も当然繋がっている。

「…当該目標、
 超々大型巨人ツガイ。
 現在約3000メートル越えね。
 もうここまでくると細かい数値は関係ない。
 現時点で予測される被害は本土全域に及ぶ。
 今ここでやるしかないわ。」

ユウキ隊長がそう言うと、立体的な地図上、東京都心部に大きな人型のアイコンが、東京湾沖には本部基地を示すアイコンが表示された。

「…ツガイはどうやら、
 こちら本部基地に向かって進行している。
 人間体ツガマモルの意識が、
 娘コトリ・アレイを探しているようね。
 そしてここにいることを察知している。
 イラストレーター・キサラギミライが、
 そういうツガイの意識を感じ取っている。
 言葉は悪いけどコトリちゃんは囮に使える。
 このまま東京湾沖まで陽動させてもらうわ。」

地図上のツガイと本部基地を示すアイコンが、一定の距離を保ったまま移動し、ツガイが東京湾に誘き出されている状態を示した。

「…ツガイは『巨人の力場』で
 その形を維持していますが、
 やはりその自重作用によって動きは酷く緩慢です。
 しかしその巨体の歩幅は大きく、
 移動速度は決して遅くありません。
 海中においても、
 恐らくは『巨人の力場』の作用で、
 海底まで沈み込むことなく、
 まるで海面を歩いているかのように
 進行するものと予測されます。」

横から説明補足をするサジマ隊員。するとモニター上の地図が水平になり、陸地から海へと高さ変わらず進行する様子を示した。モニター上では再現されていないが、実際にはツガイの一歩でひとつの街が踏み潰され、地下まで踏み抜かれていたりもするし、海に入れば津波級の波紋が広がるが、それはもう大事の前の小事なのである。決して疎かにしてはいけないことだが。

「…とにかくツガイを東京湾まで誘導します。
 そこでブルーチームのファイターWX2機と
 チーム・イエローのファイター2機で取り囲み、
 移動型空間相転移シールドをドーム状に配置します。
 同時に東京湾のカントリーバリアシステムを発動。
 地形を利用して海面下にまで至る
 すり鉢状のシールドで完全に包囲します。
 それでどれだけ抑え込めるか、
 正直なところ予測不能だそうですが、
 シールドを上空に向けて解放し、
 ツガイの質量を上空に逃がす算段です。
 うまくいけば大気圏外に
 放出することができるかも知れません。
 最悪でも、
 太平洋側に逃がすことを目的としています。」

カザマ隊員が説明を続けた。移動型空間相転移シールドによっての防衛は、対パーフェクトウォリィア戦で経験済みである。更にカントリーバリアシステムとは、ニッポン全土を防衛することを目的としたものである。他国からの侵攻や地球外からの侵略を阻むのが目的だが、津波等の災害にも活用されている。

 

 

モニター上の地図、東京湾全域に表示されたシールドが、その中心で爆発して広がるツガイを塞き止めて、そのエネルギーを上空へと逃がしている様子を再現していた。あくまで希望的予測に基づくシュミレーションではあるが。

「…肝心なのはツガイへの攻撃手段ね。
 我がJSMR最大の秘密兵器、
 ウルティメイトアタックモードを使用するわ。
 基地全体を使った砲台のようなもの。
 BS艦主砲の250倍の威力があるわ。
 というより250倍のエネルギーに耐えられる、
 と言った方が適切ね。
 理論上はそれだけのエネルギーを放出できる。
 でもこれまで使わなかったのは、
 それだけのエネルギーを発生させることが
 できなかったからなのよ。」

ユウキ隊長がそう説明すると、簡単な3D画像で変形した本部基地が表示された。真っ二つに開いた甲板の中央にシリンダーのようなものがあり、その先に砲身がある。左右に広がる翼と、海面下建造物構造の名残りが艦体下部にあり、まるで大きな拳銃のような形をしている。そのシリンダー部分に、人型のアイコンが表示された。

「…そこで今回、
 トゥエルヴ・タイプDを、
 エネルギー源として利用させてもらうわ。
 サエキ隊員、
 アナタがワタシ達の切り札なのは、
 このシステムに応用させてもらうことを
 前提としての意味だったの。」

ユウキ隊長がモニター越しにサエキ隊員を見つめてそう言うと、彼も既に聞かされていたのか、覚悟を決めた表情で頷いた。

「…サエキ隊員が巨人に変身した後、
 そのエネルギーをシステムに注入する。
 そしてラーム作用で増幅後に照射。
 それをBS艦搭載の
 移動型空間相転移シールドで、
 更に幾重にも増幅する。
 計算上は天文学的数値のエネルギーが
 照射されることになる。
 ツガイの質量が溢れ出す前に、
 一撃で消滅させる。
 現時点で考えられる唯一の作戦。
 ワタシ達はこれに賭けるしかない。」

ラーム作用とは、JSMRが開発した反物質消滅作用エネルギーのことである。これはブルーファイター等の武装にも応用されている。今回は、つまりトゥエルヴ・タイプDのエネルギーをプラスとマイナスに変換し、掛け合わせることで膨大なエネルギーを発生させようということである。反物質消滅作用とは、拳大の物質で大陸を吹き飛ばす程のエネルギーが発生する。そこに巨人をぶち込むというのだからとんでもない作戦である。それだけのエネルギーを発生させて照射するのに、砲台として耐えられる構造。これ自体がウルティメイトアタックモードなのである。

「…へぇ、
 だいぶ物騒なモノ隠してたんだな。
 オレ達巨人を弾丸代わりに装填して
 ぶっ放すってか?
 巨人を利用して世界征服できるな。
 っつーか世界を破壊できちまう。
 アンタさ~、
 自分がどれだけ危険なことしてるか
 理解してんのか?」

病室から横やりを入れるユウト。

「…人類の手に余る力を利用する。
 そこを言い訳するつもりはない。
 サエキ隊員の次は、
 アナタを弾込めしてあげるわ。
 ワタシはやるわよ。
 罪は背負うわ。
 勝つまでやるわ。」

悲壮なる覚悟を持ったユウキ隊長の言葉に、ユウトは返す言葉がなかった。

「…ねえ隊長さん。
 ツガイっていうか、
 ツガマモルさん??
 中の人、
 もう助ける手段はないのかしら?」

重苦しい雰囲気の中、ミライが言葉を発した。

「…確かに、
 ツガイは『星の記憶』とやらが具現化した姿。
 レッドアイズなのかも不明。
 闇の側に利用されてこうなったのは
 確かでしょうけどね。
 でも肝心なのは、
 巨大化し続ける巨人、
 という現在進行形の現象を食い止めること。
 これ以上は放置しておくことができない。
 救える手段があるなら考慮するけど
 何かあるのかしら?」

迷いなく自らの成すべきことを決断しているユウキ隊長の言葉に、やはりミライも返す言葉がない。何せツガイを思い描いてしまったのはミライ自身である。彼女は本来のツガイの優しさを知っている。倒すべき敵と憎むことができない。しかしやるしかないことは、彼女も理解していた。





…やれるもんならやってみろよ





何処かで誰かの声がした、ような気がして振り返るミライ。勿論、誰もいなかった。モニター上のツガイのアイコンを見て、よぎる不安を言葉にできずに飲み込む。そもそもこの作戦はあくまで机上の空論、なのである…。

~つづく~

∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.101
「field of the giant」

大きく斜めに傾いた室内に、窓の外のファイターWXから流し込まれたバルカン砲の火花と細かいガラスの破片が、まるでイルミネーションのように散りばめられていた。
傾斜に沿って落下する勢いを利用して迫り来るブルーチーム・ユウキ隊長。ライフルを捨てて、接近戦の隠し武器である高粒子トンファーを振りかざして、必死の形相で肉迫している。眼前で静止するトンファーは稲光りをまとっていた。触れたら最後、分子レベルで斬り裂かれてしまうが、今は小刻みに折り曲げられた針金のようにしか見えない。
少し視線を落とすと、滑り込むようにして接近して少女を抱きかかえるカザマ隊員が見えた。少女の名はコトリ・アレイ。その少女を守る為、ユウキ隊長は決死の特攻で接近戦を試み、その隙にカザマ隊員が少女を確保したのである。

「…時が止まっているね。」

シルバーチーム本部の入った都心の超高層ビルが崩壊したそのその瞬間を、まるでカメラで撮影してフィルムに焼き付けたように、時間が静止していた。そのことを把握できているのは、ユウキ隊長の振りかざすトンファーを眼前にして驚きもしないレイドウ参謀、唯一人であった。時間の静止した空間において彼も又、身動きが取れない状態であった。しかし彼はその直中で意識を保ち、視線くらいは動かすことができて、事態を把握することも容易であった。

「…ナイスタイミングだね、
 あと0.5秒でも遅ければ、
 ワタシはこの女を殺していたよ。」

この女とは、眼前に迫るユウキ隊長のこと。彼は誰に話しかけているのか、独り言のように呟いた。しかしそれに応えるように、室内の天井から床までの高さを無視して、空間そのものに亀裂が走った。まるでチャックを開くように、空間に穴が開く。その奥に覗き見えるのは、黄金色の巨人ドラゴニックフォーム・ジークライトであった。

「…アンタ見えているのか?」

そう応えたのは、ジークライトの内なるアカバネユウト。言いながら、空間の歪みからぬっと手を出し、ユウキ隊長とカザマ隊員と少女を優しく握って回収していく。彼は崩壊の瞬間、デルタの翼を解放、ドラゴニックフォームとなって時間を止めた。そして空間を斬り裂き、位相空間を通って、ここまで来た。

「…イラストレーターは一緒かい?
 どうやら彼女の力は本物だ。
 認めたくはないがね。」

身動きひとつできない割りに、余裕のある発言のレイドウ参謀。彼の言うイラストレーターとは、キサラギミライのこと。

「…いや、
 彼女は助けられたことも未だ認識せずか。
 ナイト役も楽じゃないねぇ。」

挑発するレイドウ参謀。

「…吹っ飛ばしてみろよ」

しかしジークライトの返した言葉は、レイドウ参謀の意に反していた。

「…無かったことにしてみろよ」

意味が分からなかった。

「…アンタも時空操作できるんだろ?
 オレには解かる
 何をドコまで戻せるのか試してみろよ」

両者の対面は今回が初。しかしレイドウ参謀の能力と、それが万能ではないことを、時空操作を扱う身となったユウトは見抜いていた。結論、『ツガイ』の覚醒まで巻き込んで無かったことにするしか、今の状態を無かったことにすることはできない。そのことを直感的に把握していた。

「…今ここでワタシを
 殺さなくて良いのかい?
 もう次のチャンスはないかも知れんよ?
 解かっているだろう?
 そのデルタの翼はヒトの手に余る。
 その能力を使えば使うだけ、
 キミの命は削られていく。
 勇者とは名ばかりの使い捨ての駒だね。」

挑発してみるも、しかし空間の歪みが閉じていくことを妨げることはできない。

「…だから無かったことにしてみろよ
 アンタこそ今この場で
 オレを殺さなくて良いのか?
 今オレが動けてるのは
 デルタがどうとか関係ねーよ
 アンタが嫌う愛ってやつだ
 アンタはそれを止められなかった
 オレの勝ちだ…」

そう言い残して、ジークライトが潜った空間の歪みは完全に消滅した。

「…愛ねぇ、
 息子もそんなこと言ってたな。
 ちょっと笑えないねぇ…。」

そこで時は動き出し、せき止められていた崩壊の瞬間が爆発する。唯一人残されたレイドウ参謀は、豆腐のように崩れる超高層ビルの崩壊に巻き込まれて…。





一方、都心の超高層ビルが崩壊していく様子に、殴り合う拳を止めて凝視していたトゥエルヴ・タイプDとイレブン・タイプB。街中を覆い尽くす、濛々と立ち込める土煙。巨人の視点から見ても、そこからぬっと聳え立つ超々大型巨人ツガイは大きかった。完全に地上へと出たツガイは、その時点で目測1500メートルは下らない。





しかも毎分毎秒、その肉体は肥大し続けていた。その巨大な肉体が夜空の月をも遮って、周囲を月明かりのない暗闇へと塗り変えてしまう。

「…あれが『ツガイ』か
 デカブツ野郎め
 よくも邪魔してくれやがったなぁっ!!」

イレブンBは自分の戦いに水を差されたことに怒りを露わにして、ツガイ目掛けてその場で跳躍した。トゥエルヴDはというと、余りに巨大な存在に気圧されて戦意喪失。しかしそれは正しい反応であったことを、次の瞬間に理解することになる。

「!!」

刹那、ツガイの握り拳が無造作に振り下ろされ、まるで虫でも潰すかのようにイレブンBを叩き落とした。地面に叩き付けられたイレブンBは、たったの一撃で、完全に意識を断たれてしまう。地面にめり込んでぴくりとも動かなくなってしまった。何せ質量が違う。パワーの差は一目瞭然であった。

「…アサカさん!!」

その光景を目の当たりにしたトゥエルヴD、その内なるサエキトウジは、この期に及んでイレブンBの内なるアサカのことを心配していた。駆け寄って起こすも当然、イレブンBに反応はない。眼の光も全身の引き裂くライン模様も消え失せ、完全に沈黙。それでも肩に背負って、引きずるようにしてその場から遠ざかろうとするが、トゥエルヴDも活動限界を越えていて、思うように力が発揮できない。

「!!」

再びツガイが動いた。今度は一歩、その大きな足を踏み出したのである。山のように大きな足の裏が見えたかと思うと、それが今度はトゥエルヴDの頭上に落とされようとしていた。迫り来る山のような、圧倒的な圧力。成す術のない恐怖に、トゥエルヴDは身体が麻痺して動くことができなくて…。


…そいつは無理だ置いてけ

その瞬間、不意に声が聞こえた気がしたが、ツガイの足は容赦無く叩き付けられた。アスファルトを踏み抜き、地下に広がる構造物を無視して、その一歩を踏み下ろした。まるで滑らかにしなる高層ビルの如く、ツガイは揺らめいていた。しかし崩れることなくバランスを取り、その場に留まった。

「…サエキィィィィッ!!」

超高層ビル崩壊に巻き込まれず上空に回避して旋回していたファイターWX搭乗員サジマ隊員が、踏み付けられたトゥエルヴDの安否に絶望し、怒りに任せてレーザーを撃ち込んだ。それはツガイの左肩のアーマー部分に命中、焼き切る勢いでそのまま照射を続けた。
彼は既にパニック状態に陥っていた。危険を承知でユウキ隊長達を救出せんとビル内を攻撃した瞬間、謎の巨人が出現したのである。救出作戦は失敗、切り札のトゥエルヴDも下敷き、この状況下で冷静な判断はできなかった。大きさからして、戦闘機のレーザー程度が通用する筈もない。それでも恐怖と混乱から攻撃せずにはいられなかった。
傍から見ればまるで無意味な攻撃であることは明白であったが、しかし予想に反してレンガ作りの壁が崩れるようにボロボロと破片が飛び散り、アーマーの先端が崩壊して…。

「!!」

破裂。崩れ去った破片は小さなビルひとつ分程度であった。しかし本体から寸断された瞬間、まるで圧縮されていたかのように、思いもよらぬ膨大な質量の砂のような物体となって街に降り注いだ。街の全てを飲み込み、なぎ倒し、押し潰していく。余りに予想外の出来事に、サジマ隊員は待避して見守るしかなかった…。





…あ~あ
…目覚めちゃったか

…ぬるい世界だったな
…ヒトの姿で暮らせる優しい世界

…ちょっとは楽しめたかい?
…オレはすこぶる楽しかったぜ?

…オマエは愛するモノを見付けられたし
…オレはソレを壊すことができた

…もう十分だよな
…オレはもう飽きたよ

…ここはオレ達の居場所じゃない
…壊してしまおう

…破滅の始まりだ





超々大型巨人ツガイ出現から間もなく、東京湾沖のJSMR怪獣対策本部基地上空に空間の歪みが発生した。そこから出現したジークライトとトゥエルヴD。ツガイの足に踏み潰される瞬間、ジークライトが瞬間移動よろしくトゥエルヴDの背後に出現、間一髪トゥエルヴDを引っ張り込んで救出したのである。その際、活動停止していたイレブンDは置き去りにせざるを得なかった。
二体の巨人が消滅すると、甲板上にキサラギミライをはじめユウキ隊長とカザマ隊員、そしてコトリ・アレイの姿が出現。僅かに遅れて光の粒子が収束してヒトの姿を形作り、アカバネユウトとサエキトウジもその場に出現した。
ユウキ隊長達は時間停止の間に救出された為、次の瞬間に本部基地にいることに驚き、状況が飲み込めずにいた。サエキ隊員も、思い返してみればそれはジークライト=ユウトの声であったのだが、そこから記憶が途切れていた。

「…いやーうちのヒロインって我が儘だからさ、
 みんな助けてほしいって
 思ってるに決まってんじゃん?
 ちょいキツかったわ。
 ちょっと命燃やし過ぎたかな?
 出血大サービスだ…ぜ…」

ユウトはおちゃらけてそう言いながら、文字通り大量の鼻血を流して倒れてしまう。それだけでミライには、彼が何をしてくれたのか察することができた。
ユウキ隊長はすぐに現場のファイターWX、搭乗者サジマ隊員に通信すると、幸いにも無事であることが確認できた。それはツガイに一撃見舞って理解不能の災害が起きた直後であり、皆が無事であることを伝えた後、直ちに撤退を指示することになる。
しかし問題はツガイだけではなかった。ジークライトが時空の歪みを利用して戻ってきた場所がJSMR怪獣対策本部基地であったことは、些か問題があった。他に思い付く場所もなかったが、ここは現在、JSMR常任理事委員会直属のチーム・イエローによって占拠されているのである。
だがそれはすぐに解決に至った。ユウキ隊長達がレイドウ参謀と対決している間の様子を、これはユウキ隊長達の戦闘服に仕込まれているレコーダーからの再生なのだが、それを開示することによって、本当の敵が誰なのかを理解してもらえることとなる。今は人間同士で仲違いしている場合ではなかった…。





「…それで?
 何が解ったっていうの?」

それから一時間後、JSMR怪獣対策本部基地作戦司令室に集まったブルーチームメンバー。サエキ隊員とユウトは巨人化の影響で著しく体力を消耗して危険な状態であったので、メディカルルームにて療養中。緊急事態の為、一般人であるミライも同席していた。チーム・イエローの隊長以下数名も、指揮系統的には別なのだが、今はブルーチームに協力する為に同席している。

「…超々大型巨人、
 コードネーム・ツガイ。
 出現時のピークで全長1500メートル強。
 その後も少しずつ巨大化を続けて、
 一時間経過した現在、
 約2000メートル強となっています。
 一時間で約500メートル、
 毎分約9メートル、
 毎秒約14センチ、
 絶え間なく巨大化し続けています。」

そう報告したのはオペレートルームから通信するタザキ隊員。

「…生きている限り巨大化し続ける巨人。
 言葉に偽りなし。
 どこまで大きくなるのかしらね。」

ユウキ隊長はモニターに映る望遠で撮影されたツガイの影を見ながらそう言った。

「…恐らく無限に大きくなりますね。
 そういう能力と解釈する他ありません。
 巨人であるという能力を
 最大限に特化させた存在としか
 説明できません。」

そう答えたのはサジマ隊員。そう言われても、誰も意味が解らなかった。詳しく説明してと、ユウキ隊長は先を促した。

「…常に成長し続けているので、
 1500メートル強の時点を
 元に説明を進めます。
 その時点で推定体重約18億トン。
 これはしかし重すぎるのです。
 以前出現したと推測される
 全長80メートル級の巨人についての
 推察と重複しますが、
 改めて説明していきます。」

それは黒鉄の巨人ガイストのこと。

「…今回採取した細胞データも、
 やはり人間の細胞に極めて近い物質でした。
 だとすると全長約1500メートルは、
 人間の成人男性の平均身長の約882倍。
 体重に関しては平均体重から換算する際、
 縦横厚みが加算されて、
 約5000万トンが妥当なのです。
 しかし実際は約18億トン。
 極めて人間に近しい細胞ですが、
 その密度は約40倍と極めて高く、
 巨人の肉体は極めて重い未知なる物質で
 構成でされていることになります。」

淡々と説明する解析担当サジマ隊員であったが、細かい数字を述べても意味がないと判断したのか、全て四捨五入というか、ざっくり大雑把な数字で説明していた。
それにしても難解。ガイスト事件の事柄を思い出し、要するに重すぎて地球上に存在できない云々てやつでしょ、とユウキ隊長。

「…そこです。
 そこが肝心なところなんです。
 ツガイに関しては余りに巨大すぎて
 いまいちピンとこないと思います。
 例としてトゥエルヴ・タイプDを元に、
 全長50メートル級を基本サイズとしますが、
 それでもやはり人間の平均体重から換算する
 適正体重の約40倍なのです。
 ツガイにしろトゥエルヴにしろ、
 仮に適正体重であったとしても、
 物体として重すぎて地球上に立って
 存在できる筈がないのです。
 それでも地球上に存在し、
 地上に立って歩くことができて、
 地面に沈んでしまうこともありません。」

だからそれが何を意味しているのか、何が言いたいのか、説明を聞いている誰もが解らなかった。実際にそこに存在するのだから、そういう不思議な存在として受け止めるしかないのではないか、と反論したくなる。

「…そこでひとつの仮説が浮かびました。
 巨人であること自体が、
 ひとつの能力なのです。
 ある一定のサイズを越えた時、
 科学の常識と照らし合わせて、
 又は自然の摂理に反した存在になった時点で、
 ある種の力場を発生させるのです。
 その力場をまとうことで、
 巨大な生命体として
 そこに存在することを許されるのです。
 これは恐らく我々の存在する宇宙、
 この世界そのものが、
 存在する筈のない矛盾した存在を
 受け入れる為の救済処置。
 なのではないでしょうか?」

そう力説するサジマ隊員であったが、誰もその内容についていけてはいなかった。

「…そもそもです。
 身長が伸びるということは、
 それに比例して縦横厚みも増していくのです。
 その体重を自分で支えるには、
 ピラミッド状の不恰好な体型で
 なければならないのです。」

象が大木のような足をしているのは自分の体重を支える為って聞いたことある、とミライが口を挟んだ。

「…しかし巨人が人間と変わらぬ
 プロポーションを維持していられるのは、
 巨人という容器の中に、
 本来の質量を押し込めている、
 としか考えられないのです。」

その押し込められた質量というのが大量に溢れ出す砂鉄のような物体か、と少し納得したカザマ隊員。

「…その通り。
 その現象を説明するには、
 この仮説が妥当だと思われます。
 これがツガイの能力。
 巨人の力場はこれまでの統計から
 全長50メートル級が平均値と推測。
 その限界を遥かに超えて無限に大きくなる。
 つまり巨人の力場を拡大することができる。
 それが超々大型巨人ツガイの能力なのです。」

でもその割りに容易く破壊できたのは何故なのか、と新たな疑問を投げかけるユウキ隊長。

「…先程は巨人の力場を容器に例えましたが、
 イメージ的には風船のようなものなの。
 極薄のフィールドをまとっている状態。
 本来はどの程度のサイズがベストなのか
 定かではありませんが、
 察するに50から80メートルが
 妥当なところと思われます。
 そこまでは無理なく質量を詰め込めるとして、
 際限なく質量を詰め込みすぎて、
 風船が限界を越えてはち切れんばかり。
 それが現在のツガイの状態です。
 だから針が触れただけで崩壊する。
 WXのレーザーで破壊できたことの理由は
 それだと思われます。」

我々の攻撃手段が通用するのならこれ以上大きくならないうちに倒してしまうのが先決なのではないか、とチーム・イエロー隊長が進言する。

「…しかし破壊できるからと言って、
 その巨人の力場を破ってしまうと、
 本来の質量となって溢れ出してしまう。
 このような現象はツガイが初めてです。
 恐らく巨人の力場に特化してしまった為に、
 物質そのものを自らで維持できない。
 巨人の力場を失うと細胞分裂してしまう。
 現在のツガイの全質量が溢れ出すと、
 恐らく都心はおろか本土全体が
 壊滅してしまいます。」

ここでサジマ隊員の長々とした説明が一旦途切れた。

「…要するに、
 迂闊に攻撃することもできないって訳ね。」

ユウキ隊長はしかめっ面でそう呟いた。難しいことは正直理解できていなかったが、重要な点はそこなのである。倒さなければ無限に大きくなって被害は拡大するばかりだが、倒しても地上壊滅。正に八方塞がりであった…。

~つづく~

∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.100
「Super supersized giant」

「…こちらサエキ!!
 緊急事態です!!
 大至急、当該作戦司令室より
 ユウキ隊長達を救出して下さい!!
 レイドウ参謀は
 人間の敵う相手ではありません!!」



そう叫んだのは、シルバーチーム本部の入った都心の超高層ビル、約200階の窓を突き破って外に投げ出されたサエキ隊員。

「…よそ見してんじゃあねぇぇぇよおっ!!」

そうして殴り掛かってきたのは、同じく外に投げ出されたアサカ。下半身にいぶし銀のプロテクターを残し、上半身は黒く変色した裸体。皮膚を食い破るようにして巡る青いラインと、赤い眼。もはやヒトの形を維持していることのできぬ異形の怪物である。
両者共、地上約1000メートルという絶望的な高さから、パラシュート無しの自由落下。まるでパチンコ台を転がり落ちる玉のように、殴り合うというよりはもつれ合っている感覚。弾かれて離れては、また超接近。間近でスクロールするビルの壁面なんて、まるで視界に入らない。ほんの数十秒後には地面に叩き付けられることに恐怖する余裕すらない。唯ひたすら、目の前の相手だけを視界に捉え、殴り合う。それは傍から見れば子猫のじゃれ合いのように滑稽な、しかし命懸けの殴り合い。
そのうちサエキ隊員が、アサカの拳を避けるのとタイミング合わせてクロスカウンター一閃。アサカはビルの壁面に叩き付けられ、ガリガリと壁を窓を抉り、背面から肉が削がれて骨が砕かれていく。しかしその摩擦でブレーキがかかって僅かに両者の距離が離れた一瞬、

「…いってええええなああああああああ!!」

アサカの肉体が刺々しいオーラと共に膨張した。稲妻が走ったかのような衝撃と共に、一切の視界を奪う程の輝きを放ったかと思うと、ヒトの肉体その細胞が急速に分裂増殖し、瞬く間に全長50メートル級の巨人へと変態していく。

「…うううぅぅぅおおおおああああああ!!」

その大きな手で鷲掴みされてしまうサエキ隊員。しかし彼も咆哮を上げると同時に開眼、太陽の如き閃光を放つと、その肉体が光の粒子となって夜空に全長50メートル級の巨人を描き出す。

「!!」

はたして月夜に照らされた超高層ビルに沿って降る紅き巨人と闇色の巨人。顔を突き合わせるようにして肉迫、どつきあいながら尚も落下していく。そうして地上に激突すると、アスファルトを砕いて揺さぶり凄まじい爆炎が立ち昇った。


…殴って殴られ絡み合う


衝撃が、地響きとなって都心を揺さぶる。それは落下の衝撃だけではない。舞い上がる土煙の中から重く響き渡る、殴り合いの音。視界を遮るモノを掘削し合うかのように、互いに足を止めて殴り合っていた。
全力全開ラッシュの激突。その拳圧が巻き起こす風圧は凄まじく、まるでハリケーンのようであった。その中心に、僅かに見え隠れする2体の巨人。
一方はサエキ隊員が変態した紅き巨人、トゥエルヴ・タイプD。祖父サエキリョウイチがその身に宿したスターダストトゥエルヴの遺伝子という『星の記憶』から、新たに描き出されたモノ。ダイナマイトの如く刹那に弾けるタイプD。




もう一方はアサカが変態した闇色の巨人。イレブンとは本来、トゥエルヴの偽物という『星の記憶』から生み出されたものであった。その容姿は、トゥエルヴと瓜二つ。赤銀模様をネガ反転させたかのような、黒と青緑のカラーリング。トゥエルヴがサウスポースタイルなら、イレブンはオーソドックススタイル。鏡写しの如くコピーした存在なのである。
そのエネルギー波長も反転、トゥエルヴに対して反物質となる。両者のエネルギーが衝突したならば、正反物質消滅作用が起こり、例えばニッポン領土が根こそぎ吹き飛ばされてしまう。だからトゥエルヴは、イレブンに対して光線技を使えずに苦戦を強いられる。というのがイレブンという『星の記憶』の本来持つ恐ろしさなのである。





しかしイレブン・タイプDは違う。似ても似つかぬ歪な姿へと変態していた。胸部中心、心臓とも言えるカラータイマーはなく、中心から皮膚を破って放射状に広がる青いラインが肉体を引き裂いていた。肩と腕と脚には、本来のライン模様の意匠が残る鋭利なプロテクターがある。膨れ上がって見える筋肉は、否、亀裂の走る皮膚が今にも破裂寸前に膨張しているだけ。





それは悪魔に魂を売ったモノの歪な心を具現化したかのような姿であった。ヒトであるからこそ弱き心が闇を覗き込み、恐怖から力を欲して堕ちてしまった。その姿、巨人というよりは、もはやモンスター。
獣のように鋭い赤い眼と、こんな姿に成り果ててまで追い求めていた力を得て満足なのだろうか、笑っているかのように開口する口許。まるで堕天使。その一人ベリアルの頭文字を取って、イレブン・タイプBとでも命名するしかない。
高層ビルの立ち並ぶ都会のど真ん中で殴り合う巨人対巨人。両者の拳圧が周辺のビルを揺さぶり、まるで爆弾を叩き付けあっているかの如く、周辺の建物を巻き込み破壊していく。紛れもなく、巨人対巨人の戦い。
今のところ正反物質消滅作用は発生していない。恐らくは、両者共にオリジナルのトゥエルヴ対イレブンのことを知らない。認識していないからこそ、そのイマジネーションは具現化されない。巨人化しようと変わらない。唯、殴り合う為だけに、巨人となっているのである…。





「…おっと、
 下ではだいぶ派手に遊んでいるようだね。」

地上約1000メートルの超高層ビルともなると、その体感震度が大地震に匹敵する中、状況を把握しているレイドウ参謀は至って余裕な口ぶりでそう言った。
その傍らには可愛らしい少女、コトリ・アレイがいた。彼女は『ツガイ』という『星の記憶』を持つツガマモルの娘。別の世界では愛する女性だった存在の名前が、娘の名前に混じっていた。
断っておくが、この少女に『星の記憶』はない。強いて言うならツガマモルの『星の記憶』の断片。夢の中の思い出の欠片が、娘の名前としてこの世界に具現化しているだけ。名前がどうであろうと、ツガマモルにとって一人娘は愛する守るべき存在、なのである。

「…その子を利用して何をしようっていうの?」

対するブルーチームメンバー、ユウキ隊長はライフルを構えたままそう問うた。カザマ隊員も同様に、ライフルの照準はレイドウ参謀に固定されている。それが意味をなさないことは承知していたが、頼るべきものが他にないのである。

「…そうか、
 キミ達はまだ『ツガイ』の存在を
 把握していないのだね?
 生きている限り巨大化し続ける巨人、
 という『星の記憶』のことだよ。
 この少女の命は、
 その記憶を覚醒させるトリガーなのだ。」

レイドウ参謀がそう言ったことで、ユウキ隊長の脳裏で連想する何かがよぎった。人体を形作る細胞に酷似したモノ。ヒトの細胞に近しいとすると、質量というか密度が、ヒトのそれに比べて異常に濃くて重い。仮に『巨人』だとしたなら全長約80メートル級だが、その質量が28万トンとした場合、重すぎて地球上に存在できる筈がない。推定身長から換算される適正体重の、これは人間から換算してだが、比べて約40倍の質量となってしまう。
これはブルーチームのあずかり知らぬ所で出現した黒鉄の巨人ガイストを、現場の状況から分析して推測したに過ぎないことであったが、それが今、巨大化し続ける巨人というキーワードから不意に連想させられたのである。

「…その顔は、
 少しは察しているのかね?
 実に素晴らしい。
 アレはね、
 もう一人の自分だとかなんとか、
 まあそんなことはワタシにとっては
 どうでも良いことなのだがね、
 つまりアレは余興に過ぎないのだよ。
 それであの異常な数値だ。
 解るだろう?
 この地球上に存在することの許されない存在。
 未曾有の大災害、
 なんてレベルじゃないのだよ。
 地球そのものが破壊されてしまう。」

にやりにやりと気色の悪い笑顔を振りまいてそう言うレイドウ参謀。

「…やけに楽しそうね?
 そんな規格外のデカブツ呼び出して、
 地球を壊して何が楽しいの?
 アナタだって死ぬでしょ?
 何がしたいっていうのよ!!」

いい加減、頭に血が昇って冷静ではいられないユウキ隊長。

「…実に楽しいね!!
 ワタシが死ぬって?
 構わんよ、
 それで永遠なる闇がもたらされるならね。
 みんな死んでしまえば良いのだよ。
 共に無へと還元されようではないか!!」

仰々しく両手を広げて、レイドウ参謀はそう煽って返した。

「…ヒトが嫌いなのね。」

ユウキ隊長は、先程までとはうって変わって冷静に、蔑むような憐れむような視線と共に、たった一言、冷めた口調でそう返した。それに対して、レイドウ参謀は一瞬言葉に詰まった、ように見えた。

「…いいわ、
 漠然と闇って言われても解らない。
 ワタシ達が戦っている相手は、
 闇の使者レッドアイズ。
 ヒトの心の闇につけこみ、
 ヒトならざるモノへと変化させ、
 破滅をもたらす存在。
 その総称を闇、
 ということにしておくわ。
 でも無って何よ?
 アナタが死んだとして、
 誰が無という状態を認識するのよ?
 ヒトを殺して、
 地球を壊して、
 それが楽しいと感じる異常な精神。
 程度の差はあれそういう類の、
 心の病んだヒトっているわよね。
 だとしても、
 自分自身が死んでしまったら、
 消滅してしまったなら、
 無という状態を誰が感じるの?
 アナタが言っていることは破綻している。
 話にならないわ。」

ユウキ隊長は、冷淡な口調でそう言い連ねていたがその実、込み上げる怒りで身体が震えていた。目頭が熱くなり、涙が零れ落ちていた。こんな相手の為に、どれだけのヒトの命が奪われてきたかと思うと…。

「…無という状態を誰が感じるかって?
 そんなことも解らずにいたのかね?
 今まで何と戦っていたつもりでいたのだ?
 キミはどうやらワタシを
 憐れんでいるつもりらしいが、
 甚だ心外だよ。
 存在を感じることのできない程度の低さ。
 ワタシからすれば
 キミの方こそ憐れでならないよ。」

まるで負け惜しみのような言い草のレイドウ参謀。しかし彼は大真面目であった。彼は闇の使者であり、闇に仕えているのである。闇が望むままに、行動しているに過ぎない。漠然と闇と呼ぶそれが、無という状態を認識できる唯一の存在。それはつまり…。

「…キミと議論するつもりはない。
 だがしかし、
 せいぜい今は楽しませてくれたまえ。
 この少女を、
 ワタシが殺すのは簡単だ。
 だがそれじゃあつまらない。
 ヒト一人の命だけではない。
 それがきっかけで起こる未曾有の危機。
 その引き金を、
 キミ達に引かせたい。
 守りたいのに、
 救いたいのに、
 自分がきっかけで何もかもが
 崩壊していく様に
 絶望することしかできない。
 楽しいだろう?」

レイドウ参謀は金縛りにあったかのように動けぬ少女の小さな肩に手を乗せて、しゃがみ込んで怯える顔を覗き込みながら、しかしその言葉はあくまでユウキ隊長等に向けて嫌らしく囁いた。

「…そろそろかな?」

レイドウ参謀は何かを察してそう呟いた。そしてひとときの静寂がその場を支配して…。





「!!」


次の瞬間、窓の外にファイターWXが姿を見せた。それは上空で待機していたサジマ隊員搭乗機。窓を破って外に出たサエキ隊員からの通信を受けて、救出作戦に移行したのである。

「…撃っちゃダメ!!」

咄嗟にそう叫んで手を振るユウキ隊長。勿論、その声は届かないし、通信も遮断されている。

「…無駄だ、
 ファイターの彼には幻覚を見せている。
 キミ達は負傷して身動き取れず、
 化け物と化したワタシに、
 今にも食い殺されんとしている、
 ようにでも見えていることだろうよ。
 無論、少女の姿も認識できてはいない。
 さあ、間もなく撃つことだろう…。」

レイドウ参謀はそう言って僅かに少女から離れ遠ざかっていく。その隙を見逃さず、ユウキ隊長とカザマ隊員は少女目掛けて駆け出したが、その瞬間、ファイターWXのバルカン砲が火を噴き、けたたましく窓硝子が割れた。

「!!」

刹那、腹の底を抉られるかのような直下型の突き上げる衝撃がその場を襲って…。





…コ…ト…リ





…コトリ…エ






…コトリエ…ヲ





…キズ…ツケル…ナ





…コトリエ…ヲ…キズ…ツケルナ





同時刻、流星となって都心の超高層ビル付近にまで飛んできた赤毛の巨人ジークライトが、まるで壁にでも激突したかのように上空で急停止した。すると巨人の姿を取り戻し、その掌の上のキサラギミライもその場の空気に触れることとなる。

「…どうして止まったの?」

ミライは首を無理して曲げて上を見ながら、と言ってもジークライトの顎の先くらいしか見えないのだが、彼に対して問うた。

「…いや
 …なんか今
 …すっげー嫌な予感が
 …なんだこれ?
 …恐怖か?
 …嘘だろ?
 …身の危険を感じたような」

巨人となったジークライトは言葉を発さない。その内なるアカバネユウトの心がテレパシーとなって伝わってくるだけ。

「…そう、
 アナタも感じたのね。
 ワタシには声が聞こえてきたわ。」

一際高い当該ビルを見据えて、ミライは答える。

「…ちょっと遅かったのかも。
 だってワタシ、
 見えちゃってる。
『ツガイ』の姿が見えちゃってるの。」

彼女は想像力を具現化するイラストレーター。彼女の想いが形になる。

「…おいちょっと待てよ!!
 …考えるな!!」

その意味を一番理解しているユウトは焦って止めるも、時既に遅かった。上空にいるにも関わらず、大地を揺さぶる鼓動が大気をも振動させ、肌が痺れるような感覚に襲われていた。

「…アナタ
 …意外な程シンプルなのね
 …銀色がベース?
 …いいえ赤かしら?
 …落ち着きのある切れ長の瞳
 …額と胸の菱形の宝玉
 …逞しい赤い身体に銀の流星ライン」

ジークライトがもう片方の手で掌を覆うが、しかし視界が遮られようとも、彼女の脳裏によぎるイマジネーションは止められない。

「…いいえ
 …それだけじゃないわ
 …鎧が見える
 …鋼のように逞しい筋肉だけじゃ
 …物足りないの?
 …そっか
 …守護部隊の隊長さんか
 …部隊の装備なのかしら?
 …白銀の鎧をまとっている
 …左右非対称って素敵
 …左肩だけとっても大きいのね」

彼女は何かしらのイマジネーションと対話をしているかのようであった。言葉にして吐き出さずにはいられない。

「…頭の飾りは何?
 …兜って感じでもない
 …まるで暴れん坊のお猿の頭を締め付ける
 …何て言ったっけ?
 …戒めちゃう輪っか
 …法師様が唱えると痛いやつ
 …思い出せない
 …でも解ったかも
 …鎧で守りたいのは自分の身体じゃない
 …その身を縛って抑制しているのね」

彼女の言葉が、『星の記憶』に形を与え、色を塗っていく。心に飛び込んでくる膨大なイマジネーションが、溢れ出て止まらない。

「…生きている限り巨大化する病
 …治す方法がないのね
 …アナタは優しいヒト
 …でもその大きすぎる身体が
 …その手に余る膨大な力が
 …周囲を傷付けてしまう
 …いいえ
 …きっとアナタは優しいから
 …そんなことにはならない
 …でも怖いの
 …唯、大きいというだけで
 …みんなが恐怖する」

イマジネーションは外見上の肉体だけではない。その内側に飛び込んで潜り、より深く心の内を覗き込んでしまう。

「…悲しいよね
 …寂しいよね
 …でも
 …アナタは強いヒト
 …みんなを守る為に
 …忌み嫌われるその肉体を使う
 …どんなに疎まれようと
 …どんなに傷付けられようと
 …その身体を盾にして戦い続ける
 …いいえ
 …守り続けてきたのよね」

知ったふうな口と拒絶されようとも、彼女の思い描いたそれが、彼女にとって、この世界にとっての真実となる。

「…でも
 …待って
 …出てきちゃダメ
 …この世界にアナタは存在できない
 …受け止めきれない
 …アナタの大切なヒトは
 …絶対に守るか…ら…」

心の中に思い描くソレが余りにも大きすぎて押し潰されそうな感覚。彼女は不意に意識を失って…。






「!!」





その瞬間は突然やってきた。超高層ビルのふもとで一心不乱に殴り合いに興じていたトゥエルヴDとイレブンBも、その拳が止まった。大地の底から突き上げるような直下型の衝撃。巨大な何かがアスファルトを破って、噴火の如き大爆発が夜空を赤く染め上げる。
無機質な超高層ビルが、血を噴き出すかのように爆発し、飛散する肉片の如く瓦礫を撒き散らし、柔らかな豆腐のように崩壊していく様子が目に焼き付く。
その倒壊する超高層ビルに手をかけて、ぬっと顔を見せる巨人の姿に血の気が引いた。





全長50メートル級の巨人から見て、巨人と感じる程に巨大な、超々大型巨人の姿がそこにあった。下半身は未だ地下に埋もれ、確認できるのは上半身のみ。しかしそれだけでも凡そ500メートルは下らない。あくまで現時点では、の話だが。
それこそが娘の命をきっかけに巨人化したツガマモルの姿。そしてイラストレーター・キサラギミライが思い描いてしまった『星の記憶』のカタチ。この場所に集う偶然と思惑が、最悪の形で具現化してしまう。全ては必然。生きている限り巨大化し続ける『ツガイ』が、この世界に召喚されてしまったのである…。

~つづく~