∽∽RED EYES∽∽
★THE STAR☆DUST FIVE★
Episode.102
「The battle simulation」
…眩しい
あれから数時間は経過していた。
…朝日が眩しい
日の出の時刻は当に過ぎていた。
…息苦しい
雲の上まで顔を出していた。
…ここは何処だ
その高さからの視界は果てしなく広い。
…海の先まで見える
しかし足許の悲惨な状態は目に入らない。
…オレは何をしていたんだ
何もしてはいない。
…解らない
そこにいるだけ。
…思い出せない
存在自体が、世界を破壊する。
…唯
ヒトとしての意識は既に薄れている。
…その先に大切なモノがある
それでも忘れられぬモノがある。
…コトリ
愛するモノを求めずにはいられない。
…コトリ…エ
「…JSMRウルティメイト
アタックモード起動!!」
それは超々大型巨人ツガイ出現から約3時間後のこと。東京湾沖のJSMR怪獣対策本部基地内作戦指令室、ユウキ隊長の指令。手元のモニター下のキーボード横に突出した部位に何やらカードキーを差し込んでいた。オペレートルームのタザキ隊員も、同様の作業をしていた。それはJSMR最高指揮官と、本部基地の頭脳とも言うべきオペレーターが、同時に承認することで初めて起動が許可される、本部基地最大のシステム。
するとにわかに本部基地が振動し、徐々に上昇しているようであった。本部基地は東京湾沖に停泊する滑走路むき出しの平たい超大型航空母艦のように見えたが、それは海面上に見える一部分に過ぎない。甲板上のピラミッド型の建造物が作戦指令室等のある心臓部であることに違いはないが、水面下では海底部まで繋がった巨大な建造物なのである。それが今、海底部との連結部分を破棄し、浮上を始めていた。
「…まさかこのシステムを
起動することになるとは思いませんでした。」
とカザマ隊員。
「…そもそも完成していたことが驚きですよ。」
続けるサジマ隊員。
「…何年前からここに基地あると思っているのよ。
ずっと工事中ってことになってたけど、
とっくに完成してたわよ。
言葉は悪いけど世界中どこだって
国ごと吹き飛ばせるだけの秘密兵器持ってますなんて、
口が裂けても言えないわ。
ま、試し撃ちもしたことない、
っていうかできないか、
ぶっつけ本番だけどね。」
答えるユウキ隊長。この基地は15年前のレッドアイズ事件の頃から、この場所に根を下ろしていた。某大帝国との軋轢で、表立って強大な軍事力を有することはできない。しかしあくまで対怪獣兵器として、或いは地球外の未知なる脅威に対して、レッドアイズに対しての備えは必要不可欠であった。それがこのシステムなのである。
甲板上のピラミッド型の建造物は、それ自体が単独で大型移動要塞式戦闘艦、略称BS艦として稼働することができるが、本部基地の基盤そのものとなると、その大きさは全長500メートル強であった。それが激しく水飛沫を上げて、とめどなく垂れ落ちる海水を引きずって浮上していた。そして甲板が真っ二つに割れ、未だ海中に浸っている下部構造部もスライドして変形していく。その様子はまるで観音開きの化粧箱を展開しているかのようであった。徐々に超大型空中移動要塞の形状を見せ始めていた。
「…超々大型巨人ツガイは、
破壊するだけでも溢れ出す質量で
ニッポン全体が押し潰されてしまうかも知れない。
でもだからって手をこまねいていれば、
地球そのものが破壊されてしまう。
ニッポン中に緊急避難指令は出した。
地下シェルターにこもってもらうしかないけどね。
例え地表が更地になろうとも、
一か八か今ここでやるしかない。
溢れ出す質量含めて一撃で消し飛ばす。
現時点でそれが可能かも知れない唯一の攻撃手段。
それがウルティメイトアタックモード。
これしかないのよ。」
悲壮感漂う険しい表情でそう説明するユウキ隊長。しかしこれでこのシステムの存在が世間に明るみになったことになる。今後の対応を考えると煩わしい限りだが、まず生きてこの危機を乗り越えることが先決なのである。
「…チームイエローの皆さんにも協力してもらうわ。
この作戦には移動型空間相転移シールドを
多く使用することになる。
ファイターを飛ばせる頭数は多い方が良い。
ウルティメイトアタックと空間相転移シールド、
これがセットで初めてひとつの兵器になる。
これは大きな賭けよ。
試運転のダメモト一発勝負、
でもやらないよりはマシ。
人為的ミスは一切許されないわ。」
そう言われてチームイエローも了解の意を示す。まず、本部基地指令室のあるBS艦の主砲は、巨人の必殺光線と同様の威力がある。ウルティメイトアタックモードと呼ばれる超大型空中移動要塞の主砲は、大きさからしてそれを大幅に上回ることが容易に想像できる。それを更に、空間相転移シールドシステムによって増幅する。つまりはそういうことである。
例えば水風船をライフルで狙撃したとしたら容易に貫通できるが、溢れ出る水は止めることができない。ならば水風船よりも大きな、例えば大砲で吹き飛ばしてしまえば、溢れ出る水が飛び散る前に、全て消滅させることができるかも知れない。そういう単純な作戦である。
JSMRはこれまで幾度となく強大な敵と戦い続けてきた。最終決戦ともなればいつも人智を越えた力、大きさを目の当たりにしてきた。それを踏まえて対抗手段として練り上げられてきた結果が、ウルティメイトアタックモードなのである。それなりの威力はあると信じたい。
それだけの力がありながら、何故これまで使用しなかったのかと問われたなら、それはヒトの心の弱さ故である。人類の手に余る力を保有すること、又、行使することに臆病であったから。しかしそれはヒトとしての良心でもあった。一線を越えてしまうことを軽んじぬ強さであった。
それを今、超々大型巨人ツガイを前にして解放してしまうのだから、どれだけ追い詰められていることか…。
「…やれやれ、
想像以上の暴れっぷりだね。」
見渡す限り瓦礫の山が広がる東京都心、シルバーチーム本部の入った超高層ビル跡地に立つレイドウ参謀が独り呟く。ツガイの大きな背中が遠くに窺えるが、彼は足許に視線を落としていた。
「…また一からやり直しか。」
足許に転がるヒトの形をした赤い土の塊を踏み潰した。それは本部内の何処かで秘密裏に生成していたヒトの形をした何か。クローンのようなものなのだろうか。至る所に、ヒトの形をしていたであろう残骸が転がっていた。ツガイ出現時のビル倒壊に巻き込まれ、全て破壊されてしまったようである。
「…こんなにヒトの命は召されているのにねぇ。」
空を見仰ぐ彼の視界には、他の人間には見えない光景が映っていた。空に向かって、無数の赤い光が立ち昇っていた。それはつまりヒトの命。魂のようなモノなのだろうか。
「…生命エナジー。
殺すことで奪うことのできるエネルギー。
かつてない程に集まってはいるのに、
肝心の器が完成しない。」
空に昇った赤い光は、レイドウ参謀の下に吸い寄せられるようにして下降。その掌に吸収されていく。
「…魂が宿らない。
どれだけ肉体を複製しても、
魂が宿らなければ、
それは肉の塊に過ぎない。
生きることを拒んでいるのか?」
足許に転がる生首の髪の毛を掴んで持ち上げ、その眼を覗き込むようにしてそう問いかける。するとその手からエナジーが注ぎ込まれているのか、周囲の土塊が生首に集まって胴体を形成していく。
「…なあ、タクヤ。
何が望みだ?
ワタシは親として何もしてやれなかった。
だからせめて我が闇をオマエに託してやりたい。
望むがままの世界を作り上げ、
永遠を生きてほしい。
…ミズキ、と呼んでほしいのか?
もう過去は忘れたいのか?」
下腹部まで構築されつつあるそれの顔は、ミズキの顔をしていた。イラストレーター・キサラギミライがミズキと名付けた男の顔をしていた。
「…これもダメだね。」
ミズキの眼に微かに赤い光が灯ったように見えた瞬間、ぐずぐずと崩れてしまう。髪の毛を掴んでいた筈のレイドウ参謀の手には、赤い土が僅かに残るだけ。
「…どれだけ手を尽くしても魂宿らず、
失敗作の廃棄場所の中で突然生まれたモノ。
その魂はタクヤではないと、
ワタシは確信している。
だがもしもオマエだったとして、
ミズキとやらを演じていたいのなら、
それでも構わないのだよ?
オマエの好きにしたら良い。
だから戻ってきておくれよ。」
その場に座り込んで、白いスーツが汚れるのも構わず、土をかき集めてこねくり回してみるが、それが形になることはなかった。
「…まあ良いさ。
じきに世界は破壊される。
例え一人になっても、
ワタシは宇宙を生きて行けるだろう。
時は永遠だ…。」
彼は死んだ息子の蘇生を望んでいた。その過程で生まれた失敗作こそが、ミズキであった。だが彼にとってそれは、愛する息子タクヤではなかった。だがもしタクヤとしての記憶が戻っていたなら、それは彼にとって魂が宿ったということになったのだろうか。
酷く歪んではいるが、息子の蘇生したいと願う親の愛情。その想いすら、闇の側に利用されているに過ぎないことを、彼自身はまるで気付いてはいない。魂の器を造ることだけが目的。『闇の王』の依代となる肉体を造る。唯、それだけの為に…。
「…簡単な作戦の概要を説明するわ。」
舞台戻ってJSMR怪獣対策本部指令室。ユウキ隊長がそう言うと、大きなモニターに東京湾の地図が表示された。この場にはユウキ隊長以下ブルーチームメンバーと、チーム・イエロー、キサラギミライが揃っていた。メディカルルームで療養中のサエキ隊員とアカバネユウトもモニター越しに繋がっている。オペレーター・タザキ隊員も当然繋がっている。
「…当該目標、
超々大型巨人ツガイ。
現在約3000メートル越えね。
もうここまでくると細かい数値は関係ない。
現時点で予測される被害は本土全域に及ぶ。
今ここでやるしかないわ。」
ユウキ隊長がそう言うと、立体的な地図上、東京都心部に大きな人型のアイコンが、東京湾沖には本部基地を示すアイコンが表示された。
「…ツガイはどうやら、
こちら本部基地に向かって進行している。
人間体ツガマモルの意識が、
娘コトリ・アレイを探しているようね。
そしてここにいることを察知している。
イラストレーター・キサラギミライが、
そういうツガイの意識を感じ取っている。
言葉は悪いけどコトリちゃんは囮に使える。
このまま東京湾沖まで陽動させてもらうわ。」
地図上のツガイと本部基地を示すアイコンが、一定の距離を保ったまま移動し、ツガイが東京湾に誘き出されている状態を示した。
「…ツガイは『巨人の力場』で
その形を維持していますが、
やはりその自重作用によって動きは酷く緩慢です。
しかしその巨体の歩幅は大きく、
移動速度は決して遅くありません。
海中においても、
恐らくは『巨人の力場』の作用で、
海底まで沈み込むことなく、
まるで海面を歩いているかのように
進行するものと予測されます。」
横から説明補足をするサジマ隊員。するとモニター上の地図が水平になり、陸地から海へと高さ変わらず進行する様子を示した。モニター上では再現されていないが、実際にはツガイの一歩でひとつの街が踏み潰され、地下まで踏み抜かれていたりもするし、海に入れば津波級の波紋が広がるが、それはもう大事の前の小事なのである。決して疎かにしてはいけないことだが。
「…とにかくツガイを東京湾まで誘導します。
そこでブルーチームのファイターWX2機と
チーム・イエローのファイター2機で取り囲み、
移動型空間相転移シールドをドーム状に配置します。
同時に東京湾のカントリーバリアシステムを発動。
地形を利用して海面下にまで至る
すり鉢状のシールドで完全に包囲します。
それでどれだけ抑え込めるか、
正直なところ予測不能だそうですが、
シールドを上空に向けて解放し、
ツガイの質量を上空に逃がす算段です。
うまくいけば大気圏外に
放出することができるかも知れません。
最悪でも、
太平洋側に逃がすことを目的としています。」
カザマ隊員が説明を続けた。移動型空間相転移シールドによっての防衛は、対パーフェクトウォリィア戦で経験済みである。更にカントリーバリアシステムとは、ニッポン全土を防衛することを目的としたものである。他国からの侵攻や地球外からの侵略を阻むのが目的だが、津波等の災害にも活用されている。
モニター上の地図、東京湾全域に表示されたシールドが、その中心で爆発して広がるツガイを塞き止めて、そのエネルギーを上空へと逃がしている様子を再現していた。あくまで希望的予測に基づくシュミレーションではあるが。
「…肝心なのはツガイへの攻撃手段ね。
我がJSMR最大の秘密兵器、
ウルティメイトアタックモードを使用するわ。
基地全体を使った砲台のようなもの。
BS艦主砲の250倍の威力があるわ。
というより250倍のエネルギーに耐えられる、
と言った方が適切ね。
理論上はそれだけのエネルギーを放出できる。
でもこれまで使わなかったのは、
それだけのエネルギーを発生させることが
できなかったからなのよ。」
ユウキ隊長がそう説明すると、簡単な3D画像で変形した本部基地が表示された。真っ二つに開いた甲板の中央にシリンダーのようなものがあり、その先に砲身がある。左右に広がる翼と、海面下建造物構造の名残りが艦体下部にあり、まるで大きな拳銃のような形をしている。そのシリンダー部分に、人型のアイコンが表示された。
「…そこで今回、
トゥエルヴ・タイプDを、
エネルギー源として利用させてもらうわ。
サエキ隊員、
アナタがワタシ達の切り札なのは、
このシステムに応用させてもらうことを
前提としての意味だったの。」
ユウキ隊長がモニター越しにサエキ隊員を見つめてそう言うと、彼も既に聞かされていたのか、覚悟を決めた表情で頷いた。
「…サエキ隊員が巨人に変身した後、
そのエネルギーをシステムに注入する。
そしてラーム作用で増幅後に照射。
それをBS艦搭載の
移動型空間相転移シールドで、
更に幾重にも増幅する。
計算上は天文学的数値のエネルギーが
照射されることになる。
ツガイの質量が溢れ出す前に、
一撃で消滅させる。
現時点で考えられる唯一の作戦。
ワタシ達はこれに賭けるしかない。」
ラーム作用とは、JSMRが開発した反物質消滅作用エネルギーのことである。これはブルーファイター等の武装にも応用されている。今回は、つまりトゥエルヴ・タイプDのエネルギーをプラスとマイナスに変換し、掛け合わせることで膨大なエネルギーを発生させようということである。反物質消滅作用とは、拳大の物質で大陸を吹き飛ばす程のエネルギーが発生する。そこに巨人をぶち込むというのだからとんでもない作戦である。それだけのエネルギーを発生させて照射するのに、砲台として耐えられる構造。これ自体がウルティメイトアタックモードなのである。
「…へぇ、
だいぶ物騒なモノ隠してたんだな。
オレ達巨人を弾丸代わりに装填して
ぶっ放すってか?
巨人を利用して世界征服できるな。
っつーか世界を破壊できちまう。
アンタさ~、
自分がどれだけ危険なことしてるか
理解してんのか?」
病室から横やりを入れるユウト。
「…人類の手に余る力を利用する。
そこを言い訳するつもりはない。
サエキ隊員の次は、
アナタを弾込めしてあげるわ。
ワタシはやるわよ。
罪は背負うわ。
勝つまでやるわ。」
悲壮なる覚悟を持ったユウキ隊長の言葉に、ユウトは返す言葉がなかった。
「…ねえ隊長さん。
ツガイっていうか、
ツガマモルさん??
中の人、
もう助ける手段はないのかしら?」
重苦しい雰囲気の中、ミライが言葉を発した。
「…確かに、
ツガイは『星の記憶』とやらが具現化した姿。
レッドアイズなのかも不明。
闇の側に利用されてこうなったのは
確かでしょうけどね。
でも肝心なのは、
巨大化し続ける巨人、
という現在進行形の現象を食い止めること。
これ以上は放置しておくことができない。
救える手段があるなら考慮するけど
何かあるのかしら?」
迷いなく自らの成すべきことを決断しているユウキ隊長の言葉に、やはりミライも返す言葉がない。何せツガイを思い描いてしまったのはミライ自身である。彼女は本来のツガイの優しさを知っている。倒すべき敵と憎むことができない。しかしやるしかないことは、彼女も理解していた。
…やれるもんならやってみろよ
何処かで誰かの声がした、ような気がして振り返るミライ。勿論、誰もいなかった。モニター上のツガイのアイコンを見て、よぎる不安を言葉にできずに飲み込む。そもそもこの作戦はあくまで机上の空論、なのである…。
~つづく~





