形影相弔う① | コスプレとネトゲのしおしお部屋

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仄明るい昼の光がさす宿屋は夜の活気とは程遠く、
洒落た石造りのベランダに4人の男女がくつろぐだけであった。

彼らはおのおのに鎧や、ローブを着こみ、一目で冒険者であることがみてとれる。
彼らの表情は一様に明るく、今回の冒険の成功を称えあっていた。

「いやー、やっぱりセナの槍は威力あるねー!」

上機嫌で女性のうちの一人が声をかけた。


女性の頭上には形よく2つの猫耳が鎮座している。

白いローブ姿の彼女はミスラ族の白魔道士のようだ。
興奮を隠しきれないのか、ローブからのぞいた尻尾がゆっくりと左右に振れていた。
セナとよばれた男性は珍しい青い鎧を全身着こんでいた。
流れるようなデザインのそれは見た目よりもずっと軽い素材で作られているらしい。
彼は一瞬だけ呆けたように動きが止まり、彼女を見つめ返したが
ミスラが促すように眉をあげてみせると

ようやくその言葉の指す出来事に思いあたったのか、

得意げに口を開いた。

「ああ…ああ、あの時とどめをさせたジャンプは確かに手ごたえがあったよ。」


「キルとった人がえらいって風潮はどうかと思うな~!」
とセナの顔をのぞきこむようにしていたずらっぽく軽装の女性が笑った。
体の動きを制限することのないよう考えられた

シーフアーティファクトのデザインはともすれば挑発的で、
見慣れてはいても近づかれるとセナは少し照れてしまう。

「う…いつもヘイトコントロールオセワニナッテマス、ユウさん」
恥ずかしさを隠すようにおおげさに肩をすくめてみせると
ユウはセナの肩に手を置き、よろしい、というように鷹揚に頷いた。
長いポニーテールが顔の動きにつられて滑らかに揺れる。


独創的な赤い色の鎧を着こんだアイクはその黒髪を好ましく眺めていたが
セナとユウが再び軽口をはじめたのを見ると

逸らすようにして自分の左手に目を落とした。

戦士アーティファクトの手甲の合間からのぞく、
1センチくらの小さな黒いアザが目に入る。
けして目立つものではないにしろ、影のような黒いその存在はなにか不安を煽り
人知れずアイクは眉をしかめた。


「痛いの?」
ふいに声をかけられて、はじかれたように顔をあげた。
ミスラが不安げに首をかしげてアイクの様子をうかがっていた。
「いや…」
さして饒舌なタイプではないアイクはそういってまた、視線を落とした。
…実際さほど痛くはないのだ。
彼の黒いシミのような…火傷のような…1センチほどのちいさなアザは
いつついたのかはわからないが、気づいたのはごく最近の事だった。
鎧ずれか、何かで摩擦したかのようにもみえるそれは
たまに引き攣れるような違和感と熱さをもって主張する以外は
存在するのを忘れるくらいの、とるにたらないものだった。
「治す?」
「ケアルは生傷にしか効かないよ。」
「でも…」
「全然痛くないから大丈夫。」
左手を開いたり閉じたりを繰り返して、ひらひらと振ってみせた。
「そっか。」




「ねぇねぇ、そういえばさ、シャドウって知ってる?」
噂好きのユウがどこかから拾ってきたらしい話題を口にする。
不安げに瞳を揺らしていたミスラはその一言で、また二人に向き直った。
つられてアイクもユウの言葉に耳をかたむける。
「肉体をもった霊なんだって。」
「矛盾してないか?骨ならよくみるけどな。」
アイクが食いついたことに、ユウは満足げにほほ笑んだ。
「そうなのよー!われらの天敵の骨はね、あちこちにいるんだけど。
でもそのシャドウっていうのはちゃーんと肉体があって、しかも全身が真っ黒なんだって。」
「へぇ。」
「ほんとうか~?それってゾンビってやつだよな?
肉体が腐ってるならまだしも黒くなってるってのが意味わかんねーなー。」
なげやり気味なセナの発言を無視して
「白ならなんか聞いたりしたことない?」
ユウはミスラに尋ねた。
「んーシャドウか~。」


ミスラは少し逡巡し
「あるにはあるけど…基本的に禁忌だからね~」
といい、3人をみやったが、全員が話の続きを待っているのはあきらかだった。
「こんな昼間っからする話でもないし…あくまでも噂だから、教会には秘密にしといてよ?」
と前おきをして、ミスラは話はじめた。


「シャドウはね…すごくすごーーーーく、未練のある死に方をした人をしたり
すごくすごーーーくこの世に恨みをもった人が死ぬとなる、らしい。
死んだことすらわからずにね、現世をさまようんだって。
…骨と違うのは肉体があるから、思考もするし
生前と変わらず会話もできるとかなんとか…。」
「それって…怖いね」
ユウが眉をしかめた。

死んだことすらわからず、苦しい記憶をひきずったままさまよい続けるなんて

…ぞっとする。

「誰か話したことなんてあるのか?」
「うん…教会でもさ…。昔の大戦中はいろいろあって。
暗殺やら謀略やらさ…で、その怨念をもった枢機卿がーよなよな監獄にあらわれて
司祭のだれだれが鎮めるために話を聞いてあげた…とか……
ま、噂だけどね。だから教会はなおさら過敏なの。」
「ふえー、教会こわっ!」
おおげさにユウが身をだきよせてみせた。



少しトーンを落とした声でミスラが続ける。

「でもさ…ほんとに怖いのはシャドウじゃなくてフォモル、なんだよね…。」
うつむいたその顔は影になり、表情を読み取ることができない。
「死んでから怨念で動くのがシャドウ。現世に落とされた影のようなあやふやな存在だけど…
フォモルはね…生きた人間が変化するの」
「生きたまま?」
「そう、生きたまま。
生と死のはざま、肉体と精神のはざま…時間が止まった状態で
恨みやつらみや嫉妬や欲望…いろいろな黒い感情を持っている人が悪魔に魅入られて
…人じゃないものに堕ちるの」
「それってどうなるんだ?」
神妙な顔でアイクがきく。
「見た目はね、シャドウとよくにてて…絶望で全身が真っ黒に染まってしまうんだって。
ただ、目だけが黄色く濁って光るとか…。」


「まぁモンスターって点ではどれももかわんないけどなぁ。」
暗い空気を振り切るように、明るい声でセナがいう。
「倒せばいいだけだよ!」
「骨じゃないからってセナ強気だね~。」
ユウがからかうように言うと、場の雰囲気がにわかになごんだ。
「そうだね!ただフォモルだけは気をつけてね。死体じゃない分かなり強いって話だよ。」
ミスラもそういって軽く忠告するだけにして、ほほ笑んだ。
つられてアイクも笑ってみせたが…
いつのまにか強く、左手を握りしめていたのに気付いて
白く固まった指をゆっくりと開いた。




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