池澤夏樹『春を恨んだりはしない-震災をめぐって考えたこと』2016・中公文庫-時間の大切さ | ゆうわファミリーカウンセリング新潟(じーじ臨床心理士・赤坂正人)  

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 2019年夏のブログです

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 池澤夏樹さんの『春を恨んだりはしない-震災をめぐって考えたこと』(2016・中公文庫)を読みました。

 これも旭川の本屋さんで見つけました。

 3年遅れの読書。

 やはりボーッと過ごしていたなと反省です。

 2011年9月11日発行の同名の単行本と「東北の土地の精霊」という「考える人」2012年春号(新潮社)に掲載されたエッセイからなります。

 単行本は震災後6か月での発行で、それまでの短い間の池澤さんの三陸各地の取材とボランティアの経験をもとに、鋭い観点から震災の被害を述べます。

 当初は情報がわからずに漠然とした不安の中にいた原発事故、その深刻さの判明とともに、将来への不安と、事故を全く反省しない政府と大企業への絶望感がつのります。

 そして、それ以上に池澤さんの大きな課題が、震災の死者とどのように向き合うかという問題、その真摯な思索が胸をうちます。

 おそらく、そのために書かれたのが、「東北の土地の精錬」、本書では、「東北再訪」と改題されて、掲載されます。

 これはすごく深いエッセイです。そして、いい文章です。

 やはり、深い思索のためには、時間が必要なのだろうと思います。

 池澤さんは、東北の歴史をいにしえの時からていねいにたどり、東北人の精神史に想いをはせます。

 勝手な想像ですが、池澤さんが北海道生まれのどさんこという存在とも関係があるのかもしれません。

 辺境にある者の想い、決して中央にあこがれず、辺境のよさをその身で生きていく生き方。

 そんなところから、深い思索と勁いエネルギーが湧いてくるのかもしれません。

 じーじ自身の生きざまも反省させられる、とてもいい本でした。       (2019.8 記)