土居健郎『漱石文学における「甘え」の研究』1972・角川文庫-漱石文学を精神分析する | ゆうわファミリーカウンセリング新潟(じーじ臨床心理士・赤坂正人)  

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 2019年のブログです

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 土居健郎さんの『漱石文学における「甘え」の研究』(1972・角川文庫)を再読しました。

 この本もかなり久しぶり。

 土居さんの『漱石の心的世界』(1969・至文堂)という本が文庫本になったもので、当時の定価が180円(!)という小さな本。

 じーじはだいぶ前にこの本をどうしても読みたくて、古本屋さんでやっと見つけて読んだのですが、今読んでもやはり読みごたえのあるいい本です。

 『坊ちゃん』や『三四郎』などの漱石さんの小説を精神分析の理解を参考にして解読していきます。

 例えば、『坊ちゃん』では、主人公と清が互いに「甘え」ている様子が指摘され、『明暗』でも、津田とお延が互いに「甘え」ている心理が指摘されます。すごいです。

 また、『坑夫』では主人公のアンビバレントな心理が、『行人』では精神病の心理が、『こころ』では過ちの心理などが解読されます。

 漱石さんの小説を物語として味わうだけでなく、その心的世界を理解できるという贅沢ができるいい本だと思います。

 さらに、『彼岸過迄』では、真実とは人間を自由にする、という指摘がなされ、『道草』では、世の中に片付くものなって殆どありゃしない、というセリフが引かれるなど、土居さんは、漱石さんが小説の中で自己分析をしていた、という主張をします。

 土居さんによれば、フロイトさんとほぼ同時期に、フロイトさんのことを知らずに、漱石さんは深い自己洞察の作業をしていた、と指摘されます。

 漱石さんの小説をさらに深く味わい、理解をする手助けになるいい本だと思います。     (2019.7 記)

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 2022年夏の追記です

 今ごろ気がついたのですが、『道草』の、世の中に片付くものなんて殆どありゃしない、というセリフは、わからないことに耐えること、に関係がありそうですね。     (2022.8 記)