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私はミラーを見た。
バイクがセダンの脇に迫っている。バイクは2台に増えていた。バイクライダーがセダンに何か投げつけた。
すると、セダンのスピードが落ちて、後方に遠く小さくなった。
前方に日本道路公団が設置した道案内の緑色のボードが見えた。
ボードの字を見おとした。分岐点か出口。
金沢あたりのはずだが、私はその分岐の左を選んだ。
すぐにヘアピンカーブ。今走ってきた道が見え、セダンとバイクが走ってくる。
セダンとバイクは、さかんに子競りあいしているように見えた。
しかし、バイクは必死に戦うが、黒いベンツにはかなわないように見えた。
一台、バイクが転倒したのが見えた。ライダーが無事ならいいが・・・。
前方に料金所が迫ってきた。
私はポケットから札入れを出して紙幣をつかみ、窓をあけて料金所を通過するときに、その紙幣を投げつけた。
釣りはいらない、と料金所の緑色の制服の老人に怒鳴ったが、聞こえなかったらしい。老人は、ただ目を丸くしていた。
高速道路を降りると、淋しい場所だった。
再開発で工場用地になりかかった、埋め立て地。道はだだっ広く、舗装されていた。
暗闇の中に、四角く黒い、倉庫らしき建物がいくつも続いた。
私の車は必死に走り続けた。セダンはあっという間に、私の車に急接近していた。
そしてまた、銃が火を噴いた。眩しい。暗闇に、フラッシュが焚かれたようだ。
私の車に衝撃が加わった。スピードが落ちた。車のどこかを撃たれたらしい。
「何よ、馬鹿!」
女がまた叫んだ。
誰に向かって怒鳴っているのかわからなかった。
セダンの男たちに対してのようにも、銃で撃たれてスピードを落としてしまった私または私の車であるホンダに対してなのか、わからなかった。
倉庫なのか、輸出車を駐車するパーキング・ビルかわからないが、大きな建物にはさまれた少し広い場所に私の車は迷い込んだ。
前方に壁が迫った。
「まずい。行き止まりだ!」
と 私は叫んだ。
お嬢さん、申し訳ない、と私は心の中で謝ったが、一方でカーチェイスにはあきあきしていたので、正直いってほっとした気分でもあった。
「馬鹿!とんま!まぬけ!」
女が悪口の限りをつくして私をののしった。
「あの、セダンと戦ってたバイクの連中の、援護軍はいないですか。あれは、あなたの味方でしょう?」
私はミラーをのぞいた。
バイクが1台、セダンの後ろからやってくる。
私は行き止まりの壁ぎりぎりにターンして車をストップした。
遅れてバイクが、もう2台やってきた。
セダンが止まる。バイクも止まる。またセダンの窓から、消音銃の音・・・
フラッシュが火を噴く。威嚇射撃の閃光。
バイクライダーたちは驚いてその場に伏せた。すぐさまセダンから人が降りた。4人いや5人。
バイクライダーたちは立ち上がり、セダンの男たちに飛びかかった。
また、乱闘。黒いコンクリートの塀に囲まれた空間で、男たちの殴り合う音がした。
私は狂気の運転から開放されて息をつき、唾をのみこんだ。女は窓にかじりつき、銃を両手で構えていた。
しかし、かなたの乱闘は、車やバイクのライトに照らされて、男たちが入り乱れて行われており、ぶっぱなしたら、誰にあたるかわからなかった。
女は、畜生、畜生、とつぶやきながら、くやしそうな顔をしていた。
・・・・つづく
