大手町のゴースト2024 21 僕、勇気します | 新庄知慧のブログ

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私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

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「それでびっくりした・・・やっぱり課長、初めてだったんですね、消えるのを見たのは」

 

  熱田くんは落ち着きはらっていました。課長はややいらだちました。

 

「すると君は、初めてじゃないのか?」

 

「はい」

 

「はじめてじゃない。どこで見たんだ?」

 

「トイレです」

 

「トイレ。わが社のトイレか」

 

「ええ。課長に救助いただいた晩です」

 

「・・・・」

 

「課長が私を救ってくださる直前に、あの方が現われて・・・」

 

「ひょっとして・・・君の首にまきつけたロープを・・・」

 

熱田くんは無言でうなずき、「ええ、切ったんです。どうやって切ったかはわからないんですが。そして、ふっと消えてしまいまして・・・・その後私は床に落下して気絶したようです」

 

「はあ・・・」課長は熱田くんを見ます。相変わらず何を考えているのかわからない平板な表情、課長はその平板に問い、

 

「・・・あの彼は、君の命の恩人か」

 

しかし熱田くんは急に話題を変えました。

 

「課長、じつは、私のところに、よくメールが来ます」

 

「メール。スマホのメールか?」

 

何だろう急に?

 

「はい。それが、ちょっと変なメールで。たとえば・・・」

 

熱田くんはスマホをポケットから取り出し、メール画面を呼び出して読みました。

 

「もう死んでしまいたい」

 

「・・・」

 

「私は、もう死んでしまいたい」

 

「おい、」

 

何だ。幽霊と不倫現場を見て刺激されて心が変調して、また変な具合になってきたのか?

 

課長は何かいおうとしましたが、熱田くんはかまわず続け、

 

「わかるでしょ、あなたも?」

 

  ぷちっと言葉を切り、スマホ画面眺めて感じ入ったかの様子。

 

  異様な迫力を感じました。変に言葉をかけないほうがいいかもしれないと、課長は思いました。

 

  しばらく沈黙が続き。ケータイ画面を見たまま、熱田くんは彫像になってしまった。

 

「・・・」

 

何だよ。何が書いてあるんだよ。もったいつけないでください、熱田くん。

 

質問し催促しようと思ったが、へたに刺激するのはやめよう。じっと我慢の子でいてあげよう。

 

しかし、こういう甘いだけの上司というのが一番の害悪な存在かも。

 

「課長・・・」

 

  ぼつっ、と熱田くんが口を開きました、

 

「僕、勇気します」

 

・・・・つづく