製氷室のマリア120 終章 | 新庄知慧のブログ

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私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

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「やあ。何かご用ですか?」

 

スマホの向こうから聞こえてきたのは、あの運ちゃんの声だった。私はいった。

 

「あの追跡のときはありがとう。急な尾行に協力してくれて。

 

無事に飛行機による追跡は成功して、犯人をつきとめました。

 

あの老婦人が真犯人ではなかったのだけれど・・・

 

あのときのタクシ―料金、支払いたいんですけれどね」

 

「そんなのいらねえっすよ」

 

「公安の経費で落ちますか」

 

「公安?おれ、公安警察だったの?」

 

「いや失礼、特命捜査班だったか」

 

「そうなの?」

 

「いまは色んな組織があるみたいだからね、しかも、はためにはわからないような名前になっているはずだから、名称も実体もいろいろだね。

 

日本グリーンベレー協会でもライオンズロータリークラブでもいいけど」

 

「あんたも面白い人だね。とにかく金はいらないって」

 

「じゃあどうだい、あの老婦人が監督した映画の招待券が2枚あるんだが。

 

あなたに1枚さしあげる。今後の捜査の基礎資料になるかもしれない内容だよ」

 

「そうか。公安特命秘密スパイの必見映画ってわけか。それじゃ、招待券、1枚送ってよ」

 

「了解した」

 

・・・

 

そして、美咲セツ子、第1回監督作品の試写会の日がやってきた。

 

その試写会は土曜日の夕方、ヨコハマの、「ジャック・アンド・ベティ」という名のいわゆる名画座で行われた。

 

1時間ちょっとの映画だったが、私はひきこまれた。

 

あらすじをいうと、だれかに犯されて妊娠した15歳の女の子が、電車に飛び込み自殺しようとする。聖母マリアがイエスを生んだときと同じ年、15歳の女の子。

 

彼女には、これから生まれる子の未来が見えてしまった。

 

苦しみ、苦しみ、人々を救ったのに、救った人々に裏切られて、断罪され、あげくのはてに、十字架にかけられて死んでしまう、という未来が見えてしまったのだ。

 

それでおなかの中の赤ちゃんといっしょに、電車に投身自殺してしまおうとしたのだ。

 

しかし、電車運転手のおかげで、すんでのところで、少女の命は救われた。

 

そして、それから、意外な展開が・・・いや、ここから先は、もうここでは話せない。

 

ひょっとしてこれは、私が次にとりくむ事件になるのではないか、その電車に乗り合わせた乗客の一人が私というわけだ。

 

そう思わせるほど興味深い、いい映画だったので、こんなところでこれ以上話すのは、はばかられる。

 

それより、映画の終演後、場内が明るくなると、私はあることに気づいた。

 

私の前方の席にすわって、ずっと映画をみていたのは、少女だった。

 

中学生くらいの、そう、15歳くらいの、今みた映画にでていたような少女。

 

まぼろしだろうか。彼女は、立ち上がり、振り向いてこちらを見た。

 

そして何かこちらに伝えたように思った。一瞬そんなそぶりをして、あっというまに少女は消えた。

 

しかし少女が伝えたのは何かとてもわくわくするようなことだと思った。

 

次のものがたりは、もうはじまっている、そういうことを告げているように思った。

 

私は映画館をでて、夜の町を歩き、夜空を見上げた。

 

ネオンのあかりにけがされきって、星一つ見えない星空だったのだが、何か、わくわくする、あかるい気持ちになった。

 

やっぱり次のものがたりは、もうはじまっているのだ。

 

私は、明日が、とても楽しみになった。

 

 

おわり

 

 

 

さいごはこれ↓ 玖村敦彦探偵シリーズのテーマにしてます。

 

 

 

 

 

みなさま、おこしいただき、まことにありがとうございました。

 

次回作は、「大手町のゴースト2024」というのを検討中ですが、今回作のさいごででてきた映画の原作「終電の君」というのもどうだろうかと思っております。なやんでます。

 

一方で、最近、横浜演劇鑑賞会に入会しました。企画部に所属し演劇をけっこう観ましたので、演劇のことなども投稿したいと思っております。楽しいことがいっぱいです。

 

今後ともよろしくお願い申し上げます。