製氷室のマリア9 大いに危険だ | 新庄知慧のブログ

新庄知慧のブログ

私のいろんな作文です。原則として3~4日に一度投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

9

 

 

 

 

 

 

「あの車に、その事件の犯人が乗ってるのか」

 

運転手はどなった。

 

「そうかもね」

 

うんざりした口調で私はいった。

 

 「そりゃあ危険だ」

 

運転手は緊張した声色でいった。

 

「運転手さん、あんた、尾行上手いね」

 

私はまた話題を変えようと思い、いった。

 

しかしこれは皮肉だったかもしれない。さして混雑していない、この片側数車線のまっすぐな高速道路でなら、猿の運転手でも尾行に失敗するはずがない。しかし運転手は胸をはって自信ありげにいった。

 

「そうなんだ。尾行、得意なんだ、俺」

 

「すごいよ」

 

「だしょ?」そういって、背筋を伸ばし、やにわに運転手はいった。

 

「あの毛皮の女性、危険なんだな、きっと。殺人鬼なんじゃないか。

 

オバサンが、いろんな殺人事件の犯人だったって小説とか映画、よくあるよね。

 

恐いなあ。急に、こっちを銃撃してくるとか、あるんじゃないの?」

 

車は羽田空港への車線へ入った。

 

運転手は、饒舌にまくしたてた。

 

「直接、後ろにつけることはしないからね、撃たれたら大変だからさ。でも、もし撃たれたら、前の車の人、お気の毒だね…。

 

あ、やっぱり、空港に行くなあ。出発の方だ。こりゃあ、どっかへ高飛びじゃないか」

 

私はしばらく、運転手がしゃべるにまかせていた。

 

美咲セツ子の乗った車は、羽田空港のタクシー降場で停まった。一台おいて、私のタクシーも停まった。

 

運転手は緊迫した面持ちで、セツ子の乗った黄色いタクシーを凝視し、小さな声でいった。

 

「降りてくる。旦那、降りてきますぜ」

 

私は答えた。

 

「ああ。ご苦労さま。よくやってくれました」

 

「銃は、あのハンドバックの中かな」

 

「そうかね」

 

「違うのか」

 

それには答えず、私は冷たい、威厳のある声で言った。

 

「顔を覚えられたようだぜ」

 

「え?」

 

「あんたの顔。あのおばさんに」私は振り返った運転手の顔を指差していった。

 

「まずいのか」

 

「大いにまずい」

 

「危険か」

 

「大いに危険だ」

 

「そうか…」運転手は絶望的な表情をしてみせた。

 

「まあ、気を落とすことはないさ。じゃあ、ありがとう」

 

私は財布から出した札を渡そうとした。

 

「いいよ、金なんて・・・・」

 

・・・・つづく

 

 

 

↓テンポのいい、おしゃれなスウィングって感じ!大変よいと思います。