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○○地方は大雪注意、どこぞとどこやらには大雪警報が出ているとか、ああ、大変なこったなあと思いつつ、一分に一本の割合で、超スピードで喫煙した。
煙はもうもうと、さっき見たあの天空の砂嵐のようにして車内に満ち満ち、君は何度も咳こんだ。
突然、どしん、という音響。誰かが車の窓をたたいている。窓の外を見ると、煙草の煙の向こうに人影。
するすると窓ガラスを開けると女の子がそこにいた。君は我にかえり、煙を手で追いやり、視界を確保して、言った。
「チヒロさん?」
赤いワンピースのその小柄な娘は、こくんと頷いた。
・・・・・
チヒロを車に乗せて、とりあえず行ったのはハンバーガーを食べさせるファストフードレストランだった。
一から十までプラスチックで出来ているようなそのレストランに入って、細長い椅子に腰かけて、チーズハンバーガーを食べ、コーンポタージュを啜った。
チヒロはよくいう瓜ざね顔で色白で、黒目が大きくて、生まれたばかりの「ひよこ」みたいな印象の子だったが、美人だった。
身長は百六十はない。せいぜい百五十七センチ?小柄なわりに胸は大きくて形がいい。足首がきゅっと締まっていて細くて、そのへんも「ひよこ」という印象だった。歳は二十だそうだ。
彼女はハンバーガーを食べている間、終始無口で、必要最小限のこと以外は何も喋らなかった。
君は一通りの礼儀として、女の子が喜びそうなジョークを飛ばし、相手の容姿を褒め、音楽やテレビタレントの話をし、二人の時間を楽しいものにするよう努力した。
傍で見ていると君の会話というのはまるで軽薄で、何だか馬鹿みたいだった。
テープレコーダーに録音して君に聞かせてやりたい。会話というのはそんなものじゃないと教えてやりたい。
彼女は君のそんな話に対して、そこそこの受け答えをしていた。しかしやっぱりぎこちなかった。緊張しているのか、君のことを嫌っているのかのどちらかだった。
君は彼女のことを、特別にかわいいとは思わなかった。
しかし、さっき言ったように美人だとは思ったし、もっと話がしたいと思ったので、そのレストランを出ると、眺めのいい海沿いのドライブウェイを走ってあげることにした。
店からは、車でとばせば三十分くらいで行けるところだ。
大雪警報が乱れうちされているという重たい曇り空のもとにはあったが、広い海はそれを目にすると解放感が素晴らしかった。
空も海の彼方の世界も、いつもの百倍くらいの大きさになったように思えた。
その、素晴らしく大きな、冷たく凍りつきそうな空の下に広がる鉛色の海を横目に見て、
ぐんぐんとスピードを上げて、時速百二十キロを超えると鳴るスピードメーターの警報チャイムをオルゴールのようにして鳴らしながら走った。
・・・・つづく