北村薫文学
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北村薫さんの、時と人シリーズの三部作、「スキップ」「ターン」「リセット」を読み終わりました。よかったです。私の中では小説として久々のヒットです。
小説ですから、これから読まれる方にストーリーがわかってしまっては楽しみが半減しますので、そこは触れませんが、とにかくおすすめ。では何を話せばよいでしょう。・・魅力、やっぱ魅力はどこにあるのかについてでしょうか。
まず一つには、文章がきれいです。
誰でも見ている風景の中で、なにか心にふと感じるものがあっても、なかなか言葉にできず、せいぜい「きれいだね」という言葉を発するも、そうじゃない、もっと違う何かを表現したいのに、と思うようなこと。そういう思いに言葉を与えてもらうような感覚です。たとえば・・
海が広がっている。
あるいは緑を帯び、あるいは輝いて白く。波の動きと日の光によって、刻々と、豊かに色を変える平面も、はるか遠くの水平線だけは、すっと細筆に青を含ませて引いたかのようだった。一方、空の裾は、ほの白く、巨大な魚に似た雲を泳がせていた。 「ターン」第四章より
あ、そうそう、そんな感じ、と思い、文章から記憶の映像がよみがえってくるような・・そういう文章がちりばめられています。
それから、語り手が心地よくシフトします。文章のトーンもガラッと変わります。変わった瞬間は、頭の中は「?」でいっぱいです。これは誰が語ってるの?何の事を話してるの?これまでの話とどうつながるの?
でもその「?」が一つ一つつながりを見せるとき、あ、そうだったのかという驚きと嬉しさを感じます。違う角度から光が当てられることで、平面だったものが急に立体感を帯びるように。読んでる私の方に、発見の喜びがあるんです。特に「ターン」では、そのシフトがすごく効いているなと思いました。(「スキップ」には、語り手のシフトはないけれど、同じ一人の人間の中の時間のシフトがあります。)
私は、子どもの頃、「夜のパパ」という本が大好きでした。マリア・グリーぺという人が書いた本ですが、静けさやエッチングの挿絵による独特の雰囲気を「ターン」に重ね合わせながら読みました。やはり「夜のパパ」でも、ユリアという女の子と夜のパパの交換日記のような語り手のシフトで物語が進められます。会話だけでは語れないこと、このときにこう思ったとか、こんな雰囲気を感じたということが、より緻密に描かれていると思います。
あと、時をテーマとした物語にすこし踏み込めば、一日一日を義務のように生きているのでなく、かけがえのないものとして生きたい!と強く思いました。「こんなことやってなにになるの?」とか「そんな結果がでないことをやってもしょうがない」と決めてかかって、結局何もしないことが多くあると思います。でも、何になるかなんて結果を求めても、重要なのはそこではなくて、それをやる自分、プロセスの中で自分に何がのこるか、そういうことだけが重要なのだと改めて気付かされました。
それから、これはごくごく個人的なこと。「ターン」で重要な、つながり続ける一本の電話。たった一本の生命線。これは、今のパートナーと遠距離だったころを思い出して切ないものがありました(^^)。