『風少女』 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。


赤城下ろし吹き荒れる前橋の街で斎木亮(さいきりょう)が初めに出会ったのは、川村千里(かわむらちさと)だった。
亮が中学時代に想いを寄せていた川村麗子(かわむられいこ)、その妹が千里だ。
“すっごい偶然”で出会った亮に千里はこう言った。

「あのね、麗子ちゃんね、ちょっと事故があって、もう死んじゃってるの」


『風少女
風少女

樋口有介さんの『風少女』を読みました。
初読ではありませんが、何度読んでも面白い。
今にも目の前に現れそうな、個性のある登場人物たちが、ぼくにその感情を与えます。

前述した通り、話は父親の危篤を受け故郷に戻った亮と、千里が出会ったことから始まります。
川村麗子の事故死を信じられない亮と千里は、事件を調べ始めます。
麗子の事故死がなぜ信じられないか。
亮はこう言っています。

「睡眠薬を飲んで、風呂場で滑って頭を打って、それで溺れて死ぬなんての、川村に似合うと思うか」

似合うか似合わないか、それが問題なんです。
亮がかつて、いや、死なれても今なお惚れている女性が、
一緒にいる普通に綺麗な子たちに影すら与えない、
怖いぐらい綺麗な川村麗子が、
そんな恥ずかしい死に様を他人に見せるわけがない、と。

亮は二十一歳の大学生。
中学時代は不良として名が通ってしまい、高校と大学を浪人しているという苦労人。
ちなみに危篤の父は亮の到着を待たずに亡くなり、実は二人目の父。
姉がいるが、二人目の父の連れ子。
妹の桜子は母の再婚後に生まれた子で、つまりこの桜子だけが家族全員と血の繋がりがあるというなかなかに複雑な設定。

そんな苦労人の中学の同窓たちも、様々な事情を抱え、前橋の街でなにやら“ごちゃごちゃ”やっていたらしい。
亮がその
“ごちゃごちゃ”に探りを入れ出すと、事件に進展があります。

二月の前橋に吹きすさぶ赤城下しが話全体に暗い印象を与えていますが、
そこは樋口有介独特の、登場人物たちのユーモアある会話で上手く補完されていいます。

樋口有介さんが得意とするのは、ただの謎解きミステリではなく、青年たちの生き様もしっかりと描いた青春ミステリです。
この『風少女』は特にその二つが上手く絡み合っているように思います。