ちょうど今、この作品を読み返しているところなので、紹介させてください。
暑い。
とにかく暑い。
バナナの木、バナナ料理、冷房設備のない家、マツブチくんという存在。
無駄に夏の暑さが伝わってくる。
でも夏になると読みたくなるような。
そんな小説でした。
『林檎の木の道』
広田悦至は高二の夏休みを自宅の屋上で過ごしていた。
屋上にはバナナの木が茂る庭がある。
彼はそこで一所懸命に池を掘っていた。
ひょうたん型の池を掘り、ワニでもピラニアでもなく、金魚を飼うつもりだ。
植物学者のシングルマザーと、その彼氏・新聞記者の笹村さん、
小料理屋「はりまや」で働く孝子さんと、パトロン兼彼氏兼共同経営者の祖父さん、
そして同級生のマツブチくん。
悦氏と彼らの付かず離れずの夏は、悦至が以前付き合っていた由実果の自殺で一変する。
― 気まぐれで面倒なやつだったけど、自殺するような子でもなかった ―
誰もが疑わなかった由実果の自殺。
悦至は林檎の木幼稚園の同窓で幼馴染の涼子(すずこ)と由実果の自殺を調べ始める。
やがて、由実果の遺留品からあるものを見つけたことで、事件は殺人だったと確信する。
由実果のことを調べていくうちに、事件の真相と、悦至も涼子も知らなかった彼女の姿が明らかになる。
そして悦至の同級生、その意外な姿までも…
直木賞候補作家・樋口有介さんの青春ミステリです。
樋口さんの青春ミステリは以前にも紹介しました。
同じく夏になると読みたくなる、デビュー作の『ぼくと、ぼくらの夏』です。
樋口さんの青春ミステリにはパターンがあります。
主人公は根性の曲がった男の子。
一緒に事件を調べるのは気が強くて意地っ張りな女の子。
夏に同級生が事件に巻き込まれ、その真相を探る。
主人公は片親。
などなど。
今回の『林檎の木の道』と『ぼくと、ぼくらの夏』はまさにこのパターン。
でも、個性的な登場人物、軽妙な会話シーン、同級生の意外な姿を知ることになる夏の日々。
そして、それらを通じて成長する主人公たち。
その描写が読者を飽きさせない。
自分目線で考えてみると…
ぼくは十七の夏をどうして過ごしていたのだろうか。
彼らのような濃厚な夏、こんなにも成長できるような夏を過ごせていただろうか。
そんな風に考えると、ちょっと切なくもなります。
ぼくは『ぼくと、ぼくらの夏』で樋口さんのファンになり、彼の小説を読み漁りました。
長らくデビュー作を越える満足感に出会えていませんでしたが、この『林檎の木の道』、
読み終わったとき「デビュー作を越えた!?」と感じた、のはここだけの話。
(でもやっぱり一番は「ぼくと、ぼくらの夏」)
『ぼくと、ぼくらの夏』、『林檎の木の道』と直木賞候補作品『風少女』は、
ぼくの中のお気に入りの樋口有介小説。
『風少女』の舞台は冬。
なので、紹介は冬に入る前に。