黒野研究室・7 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

「紙を2回折ると4倍の厚さになるのは解るね?





では、紙を50回折るとどれだけの厚さになると思う?」










以前、秋川は黒野教授にそんなことを尋ねられた。





さて、皆さんはどう思いますか?





想像出来ない、そう思う人は紙を用意して!





実際に折ってみれば解るさ。





1枚の紙を半分に、半分に折った紙をまた半分に、それをまた・・・








君が紙を折っている間、僕はお話を続けるとしましょう。











これはおよそ2ヶ月前の話。





秋川が教員採用試験を受けるちょっと前の話。








「おや、秋川君。勉強かね?」





「はい。来週、教員採用試験なんです」





「そうか、君ももうそんな時期か。頑張りなさいよ」





「はい。でも自信がありません。この倍率を見てください。中学校数学の最終倍率、30倍近いんです」





「ふむ」





「もう、この数字見るだけで逃げ出したくなりますよ」





「おやおや。まあ、しかし分からんでもないな」








教授は手を後ろで組み、自分の机へと向かって歩く。





やがて机の前で立ち止まり、何やら考え始めた。





やがて教授は紙を1枚手に取った。








「秋川君、これを見たまえ」








教授はその紙を空中で半分に折り、それをまた半分に。








「紙を2回折ると4倍の厚さになるのは解るね?





では、紙を50回折るとどれだけの厚さになると思う?」








教授は2回折り畳んだその紙をピラピラと揺らした。





秋川はそれをしばらく見つめ、その問い掛けに答えた。








「つまり、紙を“2の50乗”重ねた厚さ、ということですよね?」





「その通りだ。紙を3回折ることは、4枚の紙を重ねて折るのと同じことだ。おそらく普通の紙なら7回も折ったらもうそれ以上折れないだろう」








教授は7回目の折り目を付けた紙を机の上に放り投げた。








「紙を“2の50乗”重ねた厚さとは一体どれほどのものだと思う?」








秋川は首を傾げる。





教授はニヤリと笑う。








「ヒントを与えると、アメリカの少女は紙の12回折りに成功した。その厚さは約50cmだったという」





「ということは、どうでしょう?超高層ビルに匹敵するくらいの高さでしょうか?」





「いや、」








教授は首を振る。








「太陽に達するよ」





「驚きました」





「暇なときに“2の50乗”を計算してみたまえ」








秋川は軽く2、3度頷いた。








「つまり何が言いたいかというと、」








教授は話を続ける。








「『紙を折る』という行為は誰にでも出来る行為だ。





紙を50回折ることが出来れば、月なんて軽く越え、太陽へ到達する。





人類は月に辿り着くのをどれだけ待ち焦がれたことか。





誰にでもチャンスはある。





チャンスは皆平等に与えられている。





頑張る価値はある。








ただし、さっきも言ったが、それは容易なことではない。





紙を50回折るということは、“2の49乗”枚重ねた紙を折るのと同じことだ。





一筋縄ではいかないぞ。」





「先生らしい励ましの言葉です。ありがとうございます。」








秋川はこうして試験へ挑んだ。











さて、50回折り終わりましたか?





無事に太陽まで辿り着けたでしょうか?





実際には、この普通の紙を50回折り畳むのは不可能でしょう。





しかし『塵も積もれば山となる』という言葉があるように、こんな薄っぺらい紙切れだって“2の50乗”枚集めれば・・・。





例えが途方もありませんが、僕はこれを知ったとき、もの凄く勇気が出たのです。







きっと届くと。


何かに。