「紙を2回折ると4倍の厚さになるのは解るね?
では、紙を50回折るとどれだけの厚さになると思う?」
以前、秋川は黒野教授にそんなことを尋ねられた。
さて、皆さんはどう思いますか?
想像出来ない、そう思う人は紙を用意して!
実際に折ってみれば解るさ。
1枚の紙を半分に、半分に折った紙をまた半分に、それをまた・・・
君が紙を折っている間、僕はお話を続けるとしましょう。
これはおよそ2ヶ月前の話。
秋川が教員採用試験を受けるちょっと前の話。
「おや、秋川君。勉強かね?」
「はい。来週、教員採用試験なんです」
「そうか、君ももうそんな時期か。頑張りなさいよ」
「はい。でも自信がありません。この倍率を見てください。中学校数学の最終倍率、30倍近いんです」
「ふむ」
「もう、この数字見るだけで逃げ出したくなりますよ」
「おやおや。まあ、しかし分からんでもないな」
教授は手を後ろで組み、自分の机へと向かって歩く。
やがて机の前で立ち止まり、何やら考え始めた。
やがて教授は紙を1枚手に取った。
「秋川君、これを見たまえ」
教授はその紙を空中で半分に折り、それをまた半分に。
「紙を2回折ると4倍の厚さになるのは解るね?
では、紙を50回折るとどれだけの厚さになると思う?」
教授は2回折り畳んだその紙をピラピラと揺らした。
秋川はそれをしばらく見つめ、その問い掛けに答えた。
「つまり、紙を“2の50乗”重ねた厚さ、ということですよね?」
「その通りだ。紙を3回折ることは、4枚の紙を重ねて折るのと同じことだ。おそらく普通の紙なら7回も折ったらもうそれ以上折れないだろう」
教授は7回目の折り目を付けた紙を机の上に放り投げた。
「紙を“2の50乗”重ねた厚さとは一体どれほどのものだと思う?」
秋川は首を傾げる。
教授はニヤリと笑う。
「ヒントを与えると、アメリカの少女は紙の12回折りに成功した。その厚さは約50cmだったという」
「ということは、どうでしょう?超高層ビルに匹敵するくらいの高さでしょうか?」
「いや、」
教授は首を振る。
「太陽に達するよ」
「驚きました」
「暇なときに“2の50乗”を計算してみたまえ」
秋川は軽く2、3度頷いた。
「つまり何が言いたいかというと、」
教授は話を続ける。
「『紙を折る』という行為は誰にでも出来る行為だ。
紙を50回折ることが出来れば、月なんて軽く越え、太陽へ到達する。
人類は月に辿り着くのをどれだけ待ち焦がれたことか。
誰にでもチャンスはある。
チャンスは皆平等に与えられている。
頑張る価値はある。
ただし、さっきも言ったが、それは容易なことではない。
紙を50回折るということは、“2の49乗”枚重ねた紙を折るのと同じことだ。
一筋縄ではいかないぞ。」
「先生らしい励ましの言葉です。ありがとうございます。」
秋川はこうして試験へ挑んだ。
さて、50回折り終わりましたか?
無事に太陽まで辿り着けたでしょうか?
実際には、この普通の紙を50回折り畳むのは不可能でしょう。
しかし『塵も積もれば山となる』という言葉があるように、こんな薄っぺらい紙切れだって“2の50乗”枚集めれば・・・。
例えが途方もありませんが、僕はこれを知ったとき、もの凄く勇気が出たのです。
きっと届くと。
何かに。