花・2 | ぼくはきっと魔法を使う

ぼくはきっと魔法を使う

半分創作、半分事実。
幼い頃の想い出を基に、簡単な物語を書きます。
ちょっと不思議な、
ありそうで、なさそうな、そんな。

家に帰るとまず母親に驚かれた。


「どうしたの?その花?」と訊かれ、「友達と採ってきた。」と素直に答えた。


階段を上り2階へ上がると部屋から出てきた姉と遭遇し、驚きの表情で母と同じことを訊かれたので同じ答えを返した。


僕が採ったのはオキザリソウだった。


誰に置き去りにされたのか、名前だけ聞くととても切ない花だ。


オキザリソウはその花を閉じかけていた。


サトル君が、昼間だけしか花は咲かず夜には閉じると言っていた。


僕はそれを日当たりのいい出窓に飾ることにした。



 

月曜日、出窓の花はすっかりしおれてしまっていた。


確かに前日には既に元気がなかったが、言われた通り水をやったし、日の光も浴びせたはずだ。


その日、学校に行くや否や僕はサトル君に話し掛けた。


彼はいつものようにジッと椅子に座り、何かを考えていた。


僕が「この前のオキザリソウ、元気がなくなっちゃった。」と言うと彼は笑顔で「今日家に持ってきて。」と
言った。


「わかった。」と返事をし、彼の席から離れると、クラスの仲の良い男の子が僕を取り囲んだ。


「どうしたんだよ?」「なんで仲良くしてんだよ。」とか訊いてきたから「なんでもないよ。」と軽くあしらった。

 

放課後、言われた通りサトル君の家にしおれたオキザリソウを持って行った。


「彼は一日預かってもいい?」と言い、僕は承諾した。


そして「また明日来て。」と彼は言った。


言われた通り次の日彼の家に行くと、元気になったオキザリソウを手渡された。


夕方だったので花は閉じかけていたが、葉も茎も水々しく、本当に驚くほど元気になっていた。


初めは元気なものと取り替えたんではないかと疑ったが、いや、間違いなく僕の預けた花だった。


 


次の週から夏休みに入ったが、僕は自分が育てている花に元気がなくなるとサトル君のところに持っていくようになっていた。


そして彼に預けた花は次の日には不思議なくらい元気になって帰ってくる。


8月に入り僕は父の田舎に遊びに行く事になったので、その間サトル君に花を預かってもらう事にした。


「いいよ。」と彼は快く承諾してくれた。


その時チラッと視界に入った彼の家の中は、初めて来た時とほとんど変わっていなかった。


冷蔵庫と机と椅子1脚、机の上には牛乳瓶に挿したタンポポ。


そのタンポポもあの時と同じ、茎をしゃんと伸ばし、不思議なくらい美しく咲いていた。




父の田舎から帰って来て、預けた花を受け取ってからはしばらくサトル君とは会わなくなった。


それは、ある程度しっかりと花を育てることが出来るようになったからだった。


数日で花を枯らしてしまったり、しおれさせてしまったりすることはなくなり、例えしおれさせてしまっても彼には頼らず自分で何とかしてみようと思った。


夏休みが終わりに近づく頃には、自分の部屋には置き切れないほどの花を育てていた。


そこで、母親に頼んで家の庭の花壇を使わせてもらう事になった。


「あんた、ここ1ヶ月で凄く変わったね。」と母に言われ「いいわね、花。昔はこの庭も花でいっぱいだったのよ。いつからか無くなっちゃったけど。私も久しぶりに育ててみようかしら。」と続けた。


牛乳パックから1つづつ庭の花壇に植え替える、その作業をし終わった時、夏休みが明けたらサトル君にこの花壇を見せてあげようと思った。


それまでにもっと綺麗に花を咲かそうと。

 

しかし、それは実現することなかった。


朝、サトル君が教室にいないのを知った時に大体の予想は付いていたが、彼は両親の都合で転校になったと先生は説明した。


僕は先生に色々訊いてみた。


何処から来たのか、何処へ越して行ったのか、彼の事、彼の両親の事。


彼の家の事も説明してみたが、先生は首を傾げ「何もわからないわ、私もご両親とはあった事ないの。」と言った。


家に帰り母親にその事を話すと「不思議な話ね。」と言った。


「でもね、あなた彼のおかげで凄く変わったわよ。何ていうか、前より優しくなれたんじゃない?」悪戯っぽく微笑みながら「サトル君だっけ?感謝しなさいよ。お母さんも彼に感謝しないと。」と母親は続けた。

 

 


転校生というのは往々にして変なヤツが多い、というのは物語の中の話だと、僕はそう思っていた。


いや彼の場合、“変なヤツ”というのは不適切かもしれない。


転校生というのは往々にして“不思議なヤツ”が多い、と訂正しておこう。