GO HOME~実家に帰らせて頂きます♪~35~last episode
~ 35 ~ last episode「なぜミオがおらん?!!」「それはシグマ、あんたがまだ魔道具を完成させてないからさ」「それに私達はアティーシャを迎えに来ただけですから」語尾を荒げるシグマに、邪美が呆れた様に、静香が困った様にそう告げる。「ミオは元気なのか?お腹の子はどうなんだ?!」流石にシグマもミオのことに関しては、俺様然と構えていることが出ないようだ。それに加えて身重ともなれば、尚更なのだろう。「ミオちゃんだったら心配しなくても大丈夫よ。あそこは元々私と静香の傷を治す為の治癒空間だから、むしろ今のミオちゃんにはいいんじゃないかな」「ミオも気分が悪くならいと言っているしな」カオルと烈花の言葉から、どうやらミオには悪阻があるらしい、と察したシグマは、そうか、と少しだけ落ち着いた様に呟いた。ミオの妊娠を知ってから式典までの間シグマが家に籠っていたのは、妊娠から出産までについて魔戒から市井の世界まで様々なモノを調べ尽くしていた為だ。それだけシグマにとっても、ミオの妊娠は気に掛かるものだったのだ。「リリン、あの空間はどういう仕組みになっている?何を基に治癒力を高めているのだ?」だがシグマは次に、その空間自体に対してリリンに質問をし始めた。「ちょいとシグマ!あんたには先にやるべきことがあるだろう?!」「そうだぞ!お前が"思変の魔道具"を完成させない限り、ミオは帰って来ないんだぞ!」「シグマ様はお先に皆さまが望まれている魔道具をお作り下さい。それが完成されましてから、ゼルナ様にお伺いされたらよろしいかと存じます」邪美、烈花そしてリリンからも今の現状を鑑みたもっとな事を言い返されたが、やはりシグマは珍しくそれ以上は言い募らなかった。「だったら兄さんが"思変の魔道具"を作っている間、代わりに僕がその空間に行ってゼルナから詳しい事を教わってきます!」そこに空かさずレオが、名案だと言わんばかりに名乗りを上げた。「レオ!お前また一人だけ抜け駆けする気かよ!!」零に、ずりーぞ!、と言われながらも、レオは自分の正当性を更に主張する。「零さんも考えてみてください。もし、その空間の力が人間界でも使えるのなら、ホラーとの闘いで負傷した人達をもっと多く救えるかもしれないんですよ!」「うっ・・・それは、まぁ~そうだけど・・・・・」「ですから僕が行きます!兄さんもそれでいいですよね?!」レオはいつにない強気な態度で零を説き伏せると、シグマにも同意を求めた。「ふん、好きにしろ」レオに対しては履き捨てるように答えたシグマだったが、改めて邪美達の方へと向き直ると だがな、と続けた。「こいつらも何とかしろっ!俺様に魔道具を作らせたいなら、もっと集中出来る環境を整えるべきではないのか?!!」「何だい?邪魔なのかい?」「毎日、毎日鬱陶しくてたまらん!!」邪美が可笑しそうに聞き返したのに対して、シグマは相当嫌そうに返した。「だって鋼牙、どうする?」シグマの言う事を受けてカオルが問うが、鋼牙はきっぱりとそれを否定した。「カオルが帰って来ない限り、俺も帰るつもりはない」「銀牙もそうなの?」「もちろん俺だって静香連れて帰るまでは帰れないね。だけどさぁ、どうして静香達までミオちゃんと一緒にこんなことやってるんだよ?」零の疑問ももっとなのか、鋼牙、翼、レオも問うような視線になっている。「それはね、私達だっていつかは子供産むわけでしょ?だから、ミオさんと一緒に色々勉強させてもらってるの」静香が放ったこの言葉に、シグマ以外の男性陣の表情が一変した。皆驚きで目を見開いてそれぞれの相手の顔を凝視してから、真剣に何やら考え込んでいる。そしてレオが恐る恐る、「あの~烈花さんも・・・・・そう・・・なんですか?」とお伺いを立てた。「そ、そうだとしたら何だって言うんだ!!」するとレオはもう一度目を見開いてから、今度は急に真面目な顔になった。「烈花さん!僕達も伴侶になりましょう!!」「な・・」「そうと決まれば早い方がいいです!これから直ぐにグレス様に報告に行かないと!!」そう言うが早いかレオは烈花の返事を待つことなく再び抱き上げ、「それでは皆さん、僕達は急用が出来ましたのでこれで失礼します」とスタスタと歩き出し近くの壁に魔界道を開いたかと思うと、何やら叫んでいる烈花を連れたまま本当に入って行ってしまったのだ。残された一同は唖然とその様子を見送り、シグマまでもが渋い顔をしているが言葉を発する様子が無い。暫くの間、レオと烈花が消えた方角を見ていた零だったが、「あいつ・・・・もしかしてキレてたのか?」とぼそりと呟いた。「そう言えば、さっきから態度がいつになく強気だったな」「分かり辛いな」翼と鋼牙も思わぬレオの行動に驚いている様子だ。「レオくん・・・烈花連れてっちゃったね」「そうね・・・ほんとにあのままグレス様の所に行くのかしら」「行くんじゃないのかねぇ。烈花も気持ちは決まってたからねぇ~」とやはりカオル、静香、邪美もぼんやりと同じ方向を見ていたが、そこにリリンの声が掛かる。「皆様、アティーシャが先に帰る、とのことでございます」今度は慌てて零達も遼生とアティーシャが居た場所を振り返るが、そこには既に2人の姿はなかった。「あいつ、マジで行きやがった」遼生がすでに一度女装させられていることを知らない零は、信じられないといった様子で呟いた。「やった!これで絵が描ける!!」そこにカオルが思わず本音を漏らしてしまう。「ちょっとカオル!」静香が慌ててそんなカオルの口を塞ごうとするが、もちろん時すでに遅し。「俺も行く。カオル、連れて行け」と鋼牙がずいっとカオルに近付いていった。『おいおい鋼牙、カンベンしろよなぁ。俺様は"牙狼"の魔導輪なんだぜ。ケバイ女の装飾にされるなんて二度とごめんだぜ』そう以前鋼牙が女の姿になった時、ザルバは色とりどりの宝石に周りを飾られたそれはそれは豪華な指輪にされていたのだ。「はぁ?!!え?何?お前もしかして・・・」鋼牙も既に一度女装していることを知らなかった零が、かなり引き気味に驚いた。翼とシグマまでもが目を見開いている。そんな遣り取りの横でリリンを介してミオと通話していた邪美が、「大勢で帰ってもミオの負担になるからねぇ。あたし達は少しここでゆっくりしてから、戻ろうじゃないか」とカオルと静香に言い出した。「そうですね。だったらミオさんのお家をお借りして、お夕飯を皆で頂くっていうのはどうかしら?」すると邪美も直ぐにミオのOKを貰ったらしく、「好きに使ってくれってさ。リリン何か作っておくれよ」と言い少し離れた距離にいた永斗と優斗に、「あんた達も一緒にどうだい?」と誘ったのだが、2人は慌てて後退ると丁寧に辞退し逃げる様に居なくなってしまった。「なんだいツレナイねぇ。シグマ、あんたはどうするんだい?」「俺様はいらん」と言い、「いいか貴様ら!これ以上絶対に俺様の邪魔をするな!!いいなっ!!」と鋼牙、零、翼に捨て台詞を残し、さっさとまた工房へと戻っていった。「銀牙達ってそんなに邪魔になるってるのかしら?」そんなシグマの様子に静香が不思議にそうにしていると、リリンがもっともな理由を教えてくれた。「静香様、称号騎士達が持つ"覇気"は魔戒の者にとって、かなり大きなプレッシャーになるのでございます。シグマ様もそんな称号騎士のお一人でございますから、尚更それを感じ取ってしまわれるのはないでしょうか」「そうなのね、知らなかったわ」静香はそれで納得したようだったが、カオルは首を傾げている。「鋼牙もそうなの?私にはよく分からないんだけど?」『私からしたらあなた達の方が変わってるわよ、静香、カオル。絶狼や鋼牙の"覇気"だったら魔戒の者だけではなく、市井の人間だって普通なら卒倒するほどなのに、どうして平気なのかしら?』更に不思議そうに言うシルヴァには邪美が可笑しそうに返した。「それは"ドンカン"ってヤツじゃないのかい?あの式典での凄まじい覇気が混在している中に居ても、この2人は平気だったんだからさ」「邪美さんヒドイ!」「そうですよ!せめて"慣れてる"って言って下さい~」「はいはい、そういうことにしててやるよ。それより腹が減ったよ。リリン速攻で何か作っておくれ、仙露も忘れずにね」そう言いながら邪美は翼と、カオルは鋼牙、静香は零と並んで歩き出した。その時にはリリンの姿はすでになく、まるで手品のように瘴気の帯を駆使して料理に取り掛かっていた。結局その後も鋼牙達は"思変の魔道具"が完成するまで漣山に通い詰め、いつしかシグマとミオの家にはゴンザがおり、いつ誰が来ても温かい食事が食べられるよう用意されていたのだ。そして鋼牙が来ればカオルが、零が来れば静香が、翼が来れば邪美がというように、その時だけ"私達の家"から出て来て楽しい時間を過ごすようになっていた。もちろんそこには遼生とアティーシャやレオと烈花も加わり賑やかな食事となることもあれば、剣を合わせるといったことになるのも度々だった。更には例のとんでもない噂の巻き沿いとなった称号騎士達が、連日漣山に押し掛け一悶着一騒動起こすことも多々で、シグマが望んだ環境とは程遠いものとなっていた為に、「貴様ら全員とっとと家に帰れ!!俺様の邪魔をするなっ!!!」という雄叫びも毎日の日課のようになっていた。ミオがカオル達を巻き込んで"私達の家"に引き籠ったのは、シグマにとことん反省してもらい、二度と変なイタズラをさせない為だったのだ。いくら魔道具作りが好きなシグマでも、こうずっと鬱陶しい程の覇気を纏った称号騎士達が入れ代わり立ち代わり押し掛けて来ていたのでは、集中して作業に取り掛かることも出来ず、苛立っては誰彼構わず剣の相手をさせたりと作業から脱線することも多々あった。その為に元々シグマをしても困難な"思変の魔道具"作りは一向に進まず、最終的には1ヶ月以上の日数を費やす破目となったのである。そしてやっと魔道具が完成した時には、シグマはげっそりとしており、これにはミオも遣り過ぎたかと心配した程だった。しかし流石はシグマの作った魔道具だけあってその威力は素晴らしく、神官達の協力を得て各管轄内で順次発動させていった結果、1週間で全ての魔戒の者達の記憶が当初レオが設定した通りの"鋼牙とカオルの禁じられた愛"となり、それを貫いた2人は"神"からも祝福された夫婦と認識されたのだ。これによりカオルが危惧していた鋼牙に想い寄せて記憶を消される者も、今後現れないだろうということになった。そしてこの恐らく魔戒最高傑作の"思変の魔道具"は迷惑を掛けた詫びとして、鏃雲達に進呈されたのである。こうしてやっとミオやカオル達も"私達の家"からそれぞれの家に帰ることとなり、漣山と称号騎士達にも穏やかな日常が戻った。がそうもいかない者達もいた。「もう鋼牙!優斗さんが居るんだから大丈夫だってば!!」「気にするな。俺が勝手について行くだけだ」「自分の指令はどうしたのよ?!」「カオルを家に送り届けてから行く」そう、鋼牙の心配症というか過保護が急激に加速し緊急の指令で無い限り自分の指令を後回しにしてでもカオルの指令に同行するようになったのだ。優斗は少し離れた後方から付いて行きながらそんな2人の遣り取りを延々と聞かされ、自分帰ってもいいでしょうか、とホラーまでも鋼牙が倒してしまう為にほとんどすることが無く、ただひたすらに鋼牙とカオルのイチャイチャを見せ付けられるという苦行を強いられていた。そしてもう一人。「おい遼生!魔導馬召喚まで後少しだ!真魔界に行くぞ!!」「一人で行け!!」「新しい名品が完成したぞ!次の指令はいつだ?!」「他でやれ!!」「子供達の服を買いに行くぞ!」「まだ早い!!」などなどストレスが溜まりまくりのシグマによって、遼生は事ある毎に振り回され、挙句にはまたミオと喧嘩をして家を追い出されたとかで、本来ならまず遼生とアティーシャ以外入れない深い森の中の闇の中にある結界に守られた家に、無理やりリリンを使って押し掛けて来るなどいつにも増して遼生の被害は拡大していた。そしてほとほと困り果てた優斗と遼生が静香達"女子会"に、何とかしてくれ!、と女装してまで訴えに行き、新たなる騒動が巻き起こったのはまた別のお話というこで。おしまい♪