映画『川っぺりムコリッタ』 | From Rabbit House

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アマプラで、まもなく見放題終了する映画の中から選んだのが『川っぺりムコリッタ』

 

「以前(公開当時)予告を見たことがあるな・・ほっこりした映画かな?」と思い観始めたんだけれど

 

確かに ほんのり「ほっこり まったり」テイストではあるものの、その中に不穏なものが見え隠れする。

 

その正体は『死』

 

映画.comさんから

画像をお借りしています

 

 

(以下ネタバレあり)

 

富山にある水産加工場で働くことになった山田(松山ケンイチ)

 

捌いているイカの臭いが こちらにも漂ってきそうな生々しさだ。

 

社長(緒方直人)からの『更生』というワードで山田が元 犯罪者であることが序盤で示唆される(人を騙して金を奪ったことが後に判明)

 

 

突然 山田の元に届いた封書、それは市役所からで「父親の死」に関するものだった。

 

幼少期に両親が離婚し、それ以来 疎遠になっていた父が孤独死したとのことで「遺骨引き取りに来てほしい」という。

 

ほぼ他人のようだし引き取るつもりもなかったが「ハイツ ムコリッタ」の おかしな隣人 島田(ムロツヨシ)から「引き取らなきゃいけない」と諭される。

 

 

この島田、とても図々しく そしておせっかいで一見 不気味なキャラクターである。

 

山田が引っ越してきた日に いきなりやってきて「風呂が壊れたので貸してほしい」と言うのだ。

 

そのうち勝手に部屋に上がりこんで山田の作った夕飯まで食べる始末。

 

 

ご飯と言っても炊きたての白米味噌汁、そして職場で貰ってきた塩辛と質素なもの。

 

だが山田にとっては ご馳走だ。

 

そこに島田が小さな庭で育てた野菜など(手作りの漬物)も加わる。

 

採れたて野菜はキュウリやトマトで、瑞々しく実に美味しそうなのだ。

 

 

誰にも心を開こうとしない山田には多少 強引でも島田のような人間が必要だったのだろう。

 

荒療治ともいうべきか。

 

周りの人たちとの交流によって、少しずつ心が解きほぐされていく。

 

「更生」=「人生の再生」の物語。

 

 

仕事、或いは畑仕事をしてをかき、湯舟にゆっくり浸かる。

 

風呂上りの一杯の牛乳。誰かと一緒に食べるご飯。

 

そんなささやかな幸せで良いのだ・・と自称ミニマリスト(自給自足 生活者)の島田は、そして この映画は語りかけてくれる。

 

見栄を張らなくても「お金がないです」と手を挙げたら誰かが助けてくれる。

 

自分が死んだ時に泣いてくれる人がひとりでもいれば良いのだ・・と。

 

生きる術を教えてくれる。

 

 

 

この作品には「死」と向き合いながら「今を生きている」人たちが たくさん登場する。

 

●山田の父の遺体と遺骨のお世話をした市の社会福祉課の職員(柄本佑)

 

●幼い息子と一緒に墓石の訪問販売をしている溝口(吉岡秀隆)

 

●島田の幼馴染だという寺の住職・ガンちゃん

 

●妊婦を見ると蹴り飛ばしたくなる(もちろん実際にはしない)と言いつつ、死んだ夫の遺骨を部屋に置き 夜中にこっそり愛撫するハイツの大家(満島ひかり)

 

死んだ妻の骨をすり潰して花火と一緒に打ち上げた元花火師のタクシー運転手(笹野高史)

 

「いのちの電話」の相談員(薬師丸ひろ子(電話の音声のみの出演)エンドロールを見て「あれ?薬師丸ひろ子出てた??」ってなった)

 

●「ハイツ ムコリッタ」に現れる元住人である幽霊の岡本さん

 

●“川っぺり”のブルーシートで暮らすギターを弾いているホームレス(知久寿焼)

 

 

「生」「死」の狭間での生活(特にハイツの住人は限りなく死に近い所にいる)は、まるでムコリッタのよう。

 

ムコリッタとは仏教用語で「牟呼栗多」と書き 時間の単位を指し1/30日=約48分間で、昼から夜へと移り変わる狭間の夕暮れ時のようなものなのだそう。

 

 

 

父親が死ぬ前に何度も電話をかけていた先が「いのちの電話」だったため「自殺しようとしていたのか?」と社会福祉課の職員に尋ねる山田。

 

数多くの孤独死の現場を目にした職員は「自殺の兆候は見られない」という。

 

「ご遺体のそばには牛乳が置かれており、恐らく風呂上りに飲んだのでは?」と。

 

「ベランダには植物があり、丁寧な暮らしをしていて自然死だったのだろう」との見解を述べる職員の言葉に

 

自分との共通点を見出し 遠い記憶の中の父親を垣間見たように感じる山田だった。

 

 

納骨するお金はないけれど遺骨はすり潰して散骨すれば犯罪にはならないとのことで、川辺で遺骨を砕く山田に大家が「葬式をしよう」と提案する。

 

僧侶を先頭に「ハイツ ムコリッタ」の住人たちと共に葬列をなし川沿いを歩きながら散骨する山田。

 

きっと彼は この先もギリギリながらも周りの住人たちと支えあって生きていけるのだろう。

 

 

 

この作品は ちょっと奇妙で変わった人が多いけれど、水産加工場の社長だけは まともで本当に良い人だったなぁ。

 

かける言葉ひとつひとつが優しくて思いやりに満ちていて、こんな人の元で働けた山田はツイていると思う。

 

緒方直人は『アンチヒーロー』朝ドラ『おむすび』など、ここ数年TVの連ドラに出ていて「最近よく見るな」と思っていたけれど、歳をとって良い役者さんになったなぁ。

 

 

あと「いのち電話」相談員の「金魚が宙に浮かんで天に上って行った、実は あれがだったんじゃないか」というようなセリフがあるけれど

 

現実ではないけど私も昔 虹色に輝く鯉?のような魚が空中を悠々と泳いでいる夢をみたことがあります(夢かーいっ)アセアセ

 

でも凄く印象的だったんだよね。

 

 

山田の職場の先輩である江口のりこさんはマスクで顔が隠れてほぼセリフもないし、ペットの墓石に200万以上も払える お金持ちの奥様役で田中美佐子さんが一瞬だけ出ていたり・・と俳優陣は豪華だったな。

 

その収入で高級な牛肉を買ってすき焼きをしている墓石売り・溝口の部屋にハイツの住人たちが わらわら集まってきて一緒に食べるシーンは面白かったな。

 

ギブアンドテイク、持ちつ持たれつ・・・ですかね。

 

映画『川っぺりムコリッタ』

本編映像“すきやき”

 

このシーンのカメラワーク(※定点カメラ)も良き

松ケンが自分の部屋へ行った後

一直線に走って戻ってくるとことか

 

 

ガラクタ置き場でホームレス役の知久さん(バンド『パスカルズ』、元『たま』)が いつもの格好でギターを弾き、墓石売り・溝口の息子がピアニカを一緒に奏でているシーンも ほっこりして良かったですルンルン

 

映画『川っぺりムコリッタ』

本編映像“ゴミ山演奏”

 

 

食べることは、すなわち生きること。

 

『かもめ食堂』などを撮った荻上直子さんの作品らしいなと思いました。

 

そして死んでからの自身の弔いの方法に関して考える時間を与えられたような映画でした。

 

 

重いテーマなので多少ファンタジーな表現もあったけれど、それと同時に捌かれたイカの目玉や孤独死の現場のウジ虫など

 

ギョッとするようなシーンも散りばめられていました(松ケンやムロさんの嘔吐シーンなども)

 

「ファンタジーならファンタジーに全振りしてくれ!」とも思ったけれど「生きること、死ぬことは決して生易しいファンタジーなんかじゃなく、現実のことなんだぞ!」と言われた気がしました。

 

 

映画『川っぺりムコリッタ』予告編

 

※予告のイメージとは、だいぶ異なります

少なくとも私はそう感じた

ほっこりBGMとナレーションに騙されるな!