スコアが無いという状況を力業で捻じ伏せたわけで。

 

 

5月になって練習にも熱が入る…と書きたいし、漫画や小説なら一丸となって練習に勤しむ流れなんだろう。

 

 

 

が、現実ってやつはそんなに甘くはない。先にも書いたが、ウチは県大会へ行けるかどうかの当落上にある平凡な部である。そういう位置にあるので、3年生の部への入れ込み具合は千差万別だ。

 

東に受験に集中する人あらば、西に半ば引退した心持ちの者。北に全てを部活に賭けるものいれば、南に中途半端な者あり。

 

コンクールのA部門に出場する吹奏楽部というのは、須らく大所帯だ。だから部員をまとめるのは非常に難しい。なにしろ不安定なハイティーンの集団なので、様々な風がそよぎ、吹き荒れ、風向きを変えてゆく。

 

 

 

ウチも御多分に漏れず、そういう悩みを抱える部だった。名門校であれば、やる気の無い人間は淘汰されて終わりなのかもしれないけど、ウチにはそういう空気は皆無だった。

 

話し合い、相談し、悩んで困ってぶつかって、ああでもないこうでもないと言いながら前に進んでいくしかないのだ。

 

 

 

 

自然な流れで、色々な方向を向く3年生達をまとめていく必要が出てきた。こういうのは部長や副部長の役割である。つまり俺らの役目だ。

 

当時の俺は全ての力をコンクールの為に使っていた。大上段からは言えないけど、他の3年生にも頑張って欲しいと思っていた。

 

部活あるあるで、みんなでやる気出して頑張っていこうぜというアレが行われたのだ。

 

が、「もっとやる気だせよ」と強くは言えない。受験は人生の大事でもあり、それを一時放棄してまで練習しろなんて言えないのだ。数多のOBやOGにお世話になってる環境で部長だ副部長だと役付きを続けてると、そういうことを理解してしまう。これが大人になるってことなのか。

 

それでもハイティーンの集まりである。多少の衝突は起きる。起きないわけがない。

 

 

 

流石に細かい経緯は覚えていないけど、俺はその場で親友Sから「みんな、おまえじゃないんだよ」と言われたのだ。この言葉は今でも思い出して胸をチクチクする痛みを発することがある。

 

少し解説が要る。

 

嘘のような話だが、俺は3年に上がった時点で行きたい大学の推薦を取れることが、ほとんど決まっていた。定期試験は頑張っていたのだ。よーいドンで勉強を始めたら中程度の成績だと思うけど、人より先にスタートしてアドバンテージを稼いでいた。兎を出し抜いて前日にスタートした亀である。

 

だから3年生になったのに、大して勉強していなかった。Sの言葉にはそういう背景がある。

 

 

 

上手く言葉にできないけど、自分は何かを間違えていると思った。だからSの言葉は素直に聞けた。今、またチクチクしてる。核心を突かれると人は機能停止するらしい。

 

強豪校には強豪校なりの、平凡な学校には平凡なりの、力を発揮するための最善の方法が違うのではないか?と今ならそんな言葉で説明するところだ。利害で結ばれた関係ならまだしも、部活っていう場ではね。

 

 

俺らは、話して悩んでぶつかってを繰り返して、ああでもないこうでもないと言いながら進む以外に無いのだ。すっごい指導者が現れて、圧倒的な実力とカリスマでみんなを導くなんてのは現実ではお目にかかれない。

 

何十人ものハイティーンをまとめあげるようなカリスマ性が俺らには無いことを確認しただけの、ほろ苦い話だ。