大胆な方針転換により、まったく新しい道を行くことになったギルドとマスターの話。
RO界は大揺れであった。R化による諸々の変更はレベリングの過熱化という状況を生んだが、それに時間的、性格的等々の色々な理由でついていけない人達も生み出した。ある人は引退を選び、ある人は対人戦を止めることを選び、またある人は徹底的にレベリング方法を洗練させることを考えた。
今どうなってるかは知らないけど、あの当時はレベリングに生きるか趣味に生きるかのどちらかしか選べないような状況だったのだ。なにしろ時間は有限であるのに、経験値テーブルと実際の狩りにおける効率がアンバランスだった。
そういう中で、レベリングを趣味に出来たり、キャラが強くなることそのものを重要と思える人はまだしも幸いだったと思うが、そうでない人にはツライ仕様であり状況だったと思う。
ともあれ、ワタシの運営するギルドも大変動の末にGvから撤退し、PT重視勢とでも言うべきスタイルを取ることになった。
ちなみに「まったり」と評されるスタイルに近く見えるが、ワタシは自分でそれを名乗ることはしなかった。何故なら、中の人は一見すると「まったり」してるように見える環境を守るために四苦八苦しているからである。
マスターに限らず、メンバーそれぞれが小さな努力を積み重ねることで、平和的な「まったり」に見える環境が出来上がるのであって、そういうモノを作って守っていくというのは、結構大変なのである。
ギルド存立の目的は、仲間と一緒に楽しく遊ぶ、これだけである。
もちろんギルドである以上必要なルールはあったけど、そのことが本来の「遊ぶ」という目的の邪魔にならないようにと考えていた。
さて、意外と人が残ってくれたギルドである。
これは嬉しい誤算だった。かつての過疎状態をも覚悟していたのだ。幸運なことに再出発の時点で、後々ギルドの中核になる人々が揃ってもいた。
ともあれ、ギルドが落ち着いたころを見計らってメンバー募集をすることになった。Gv参加を目的にしていたギルドだけあって、ギルドレベルはかなり上がっており、メンバー枠も最大まで広がっていたのだ。
ところでワタシはモノグサな人間である。メンバー募集チャットを立てて、そこに入ってきた人に一から説明をするというのが面倒だった。
そこで、「これを読んでくれれば当ギルドが貴方に合うか分かっちゃうよ」という内容のページを用意し、それを見てもらったうえで、合いそうかどうかを尋ねることにした。
今こうして色々なことをかなり正確に思い出せるのは、そういうページやスクショがたくさん残っているからである。
面白いもので、その「読む」という手間を厭わない(ワタシがチャットを打つ方が時間がかかってしまうので相手にも損ではある)方で、「大丈夫そうです」という人は、そのほとんどがギルドにフィットする。
逆に読む事を渋ったり、いかにも面倒そうな反応をする人は大抵が合わない。そのことを面白いと感じたものである。
ワタシは最初から「誰でもウェルカム」という路線は捨てていた。メンバーを新たに迎える際に、ギルドの方針に合致するかどうかと、ワタシと合うか合わないかで判断した。それらを満たしてくれるなら初心者だろうがRO草創期からの最古参だろうが構わなかった。恐ろしく傲慢である。
だけど、ワタシはギルドマスターであり、どうやっても脱退できない立場なのだ。仮に揉め事が起こった場合、落着するべき結果は最初から見えてしまっている。一人の揉め事でギルド解散というわけにはいかない。
と言っても、ワタシは余程の事が無い限り、人を嫌うことの無い人間である。嫌いそうになると感じた相手には最初から近づかないのだ。
今でもワタシがたまに人に怒ったりすると驚かれるし、RE-Dが怒るなんて一体何をやらかしたんだ?と思われるような人間である。学生時代はそれなりに血気盛んな年頃を過ごした事もあったけど、人間は落ち着く生き物なのだ。
つまり、ギルド方針に対して「大丈夫です」と答えた方は全員体験加入してもらった。この辺り、我ながら得な性分をしてると思う。
そんなこんなで、新しいメンバー達を加えつつ、ギルドは活動を続けたのである。この日々は本当に楽しかった。
ちなみにサブマスターやらの役職は一切置かなかった。マスターとそれ以外のギルメンという2層構造である。一君万民ではなく、万君一民状態である事に留意されたい。
マスターと言うのはそういうモノだと思っていたし、メンバー間に変な意味での序列が生まれるのを避けたかったのだ。意識の中で序列が付けられることはあるとしても、それを形にしてしまうかどうかの違いは大きい。
事のついでに、ワタシの考えていた理想のマスター像というヤツを書いてみる。
まずマスターは弄られキャラである方がいい。これはギルド円満の秘訣である。間違ってもオレ様的なキャラではいけない。これはギルドの日常の雰囲気に大きな影響を与える・・・と思っている。マスターに遠慮なく物申せる「慣れ」は大事なのだ。
さらに、メンバーが楽しんでる姿を見てるのが一番楽しいというのが理想である。というか、ギルドマスター経験者ならみんな知ってる事と思うけど、メンバーが楽しんでるのを見てるのが本当に楽しいのだ。
何か問題があった時だけ、眠りから覚めたようにビシッと決定を下して、テキパキと処理できると良い。なお、実際に出来るとは言わない。
これも結構重要なことで、ROのギルド運営に落とし込むと、例えばギルドで狩りに行く場合の事が挙げられる。狩場や編成をどうするかで時間を食うのは良くないので、ここをスパッと決めて出発する事はマスターの重要な仕事なのだ。
ワタシの場合は、集合前から狩場は決めていた。が、集合時にみんなの希望をまずは聞く。5秒カウントして反応が無ければ「ほなら3択ね」と言って狩場を列挙していた。
メンバーも慣れてるのでカウント前に言ってくる人もおれば、はいはい、どうせ三択来るんでしょと待ってる人もいた。
そしたら、各自に出したいキャラの希望を聞き、頭の中で編成をして足りない成分をワタシが出す形にしていた。と言ってもワタシだけでは補えない事も多く、メンバーもそこは察して色々と融通してくれた。PT狩りを愛する人だけの集まりだけあって協力体制が自然と出来ていた。
それでかなりスピーディーに出発できていた。すごく早いと言ってもらった事もあるので、平均よりは早かったんだろう。そういう事ができるようになったのは、嫁先生を始めとして色々な事を教えてくれた人々のおかげである。
ところが、後に人数が増えて、こういうやり方では難しくなった。それについては別の稿にて。
そんな感じで、RO界に吹き荒れる嵐とは無関係に、僕らは平和に穏やかに楽しく遊んでいたのだ。
嵐に対して正面から立ち向かい不満を述べるのではなく、雨宿りしつつ暢気に過ごす道を選んでいたと言っていい。