米沢穂信さんの「折れた竜骨」を読んだ。
相変らず面白いミステリ作品を書いてる。
http://www.tsogen.co.jp/ryukotsu/
超オススメしたい作品ですね。
魔法とミステリって掛け合わせるのが難しいと思うのだけど、
色々ああしてこうして上手いことまとまってると思いました。
そんなわけで、すごく面白かったのだが、すごく面白いのにすごく不満が出てくる作品。
これは米沢さんの他の作品をたくさん読んでる人に共通するものだと思うので、米沢作品に初めて触れるという人には何の問題も無いはず。
ネタバレあり
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読み終えて犯人は明らかになったわけだが、
実のところ、かなり序盤の時点で「コイツが犯人かな」と思いつつ、下記の理由で除外したヤツが犯人だった。
クローズド・サークルというか、要するに「容疑者はここにいる人々です。さて犯人は誰でしょう」という王道ミステリであること。作者が他の作品で十戒や二十則を重視していると窺える事(例えばインシテミルとか、愚者のエンドロールとか)
という本作品外の余計な知識・先入観が、その容疑者を除外した理由。他の作家は知らず、米沢さんは十戒を守ってくるだろうと。十戒を守る以上、この人物は犯人足り得ないという逆説的な考えで除外してしまった。
いや、別に十戒とか個人的にはどうでもいいんだけどね。ミステリとしての筋が破綻してなければ、その辺りは何でもいい。ただ、米沢さんがそれをやった事に、なんとも言えぬ違和感があっただけで。
ファルクを十戒によって容疑者から外した後に疑ったのはアミーナだった。彼女は探偵役ではないので容赦なく犯人にできる。物語の終わり方を考えたときに、彼女が犯人であれば「ボトルネック」的バッドエンドで鬱々とした作品に仕上がるであろうと(笑。
ほどなくアミーナも紙面上で容疑が外れたので、ここはおとなしく「そして誰もいなくなった」的に犯人の人選に奇を衒わない方向で考えることにしたわけである。けれど、そこから「誰か」を特定することは出来なかった。
ただ、エンマが犯人だと指摘した部分が「ファルクらしくない」と思い、「あぁ、やっぱりそうかー」となった。まっさらな状態で本作を読んでいたら、どれだけ面白かっただろう。
ミステリ作品の紙面以外の部分も考えてしまう分、自分は損をしている。
ご都合主義が謎解きの肝に関わってしまったのも不満。
領主が殺害される前、広間で「領主が今晩作戦室に居る」と聞き及んだ者だけが犯行可能というのがそれ。これだけは未だに納得いってないのだけど、この「ルール」が作品を縛ることでアダムは容疑から外れたんだが、これはやっぱ無理押しかなと。
その場で聞かなくてもアダムやエイブ(後に他の理由で容疑は外れるが)、或いは他の騎士なら、夜の間に領主が作戦室にいる可能性が十分にあると思ってもおかしくない。なにしろ襲撃に備えて防備強化を命じている状況下だ。彼らなら領主が迎え入れるのも不思議はないし、「6歩」も「剣を取る」のも何の問題も無い。であるのに、アダム以下がご都合主義のルールで外されてるのが嫌だったのだ。
ついでに、彼の騎士隊が戦いに遅参した理由が「砦で剣を研いでいた」というものだが、そんな事はあり得ない。何故なら、既に領主の命によって襲撃に備える体制をとっているから。だから傭兵を雇おうとしたり、砦に多くの兵を詰めさせていた。それが武具の手入れを怠っていたというのは、幾らなんでも・・・事実は小説より奇なりとは言え、逆をやってはご都合主義としか呼ばれない。
読者の疑いをアダムに向けようという狙いかとも思ったが、そもそも「ルール」によってアダムの容疑は晴れている。
結局、戦場にアダムが間に合うと物語の色々に不都合が出るから、そんな理由で遅参させたようにしか思えず、なんというか"画竜点睛を欠く"といった感が強い。
この画竜点睛を欠くという感じが、凄く面白いのに凄く不満が残るという理由かな。
と批判めいた事を書いているが、上に挙げた程度しかツッコミ所が無いわけで。ファンタジーとミステリという、およそ相容れないであろう要素をミックスしたにも関わらず、だ。
ということを考えると、やっぱり米沢さんは凄い!