つづき
 
2-4
黙した理由
 
エレンとフリーダの事例から、始祖の巨人の力は、誰が継承しようとも一定の能力は発揮できる。これはおそらく間違いない。2人とも中途半端ながらも力を行使していたので。
 
で、本来の力の継承者は「初代王の記憶」に縛られるとのことだけど、これもウーリやフリーダが黙して語らなかった事から正しかったと推測できる。生涯を通じて黙していなければならない程のナニカがあったわけで。
 
だけど、それを引き継いだエレンには初代王の記憶に苛まれる描写は無い。グリシャにはあったのかどうかは不明。
 
この差は何だろう?
 
 
もっとも、エレンは記憶の底に自分の記憶では無い記憶を持っている描写がある。フリーダと思しき女性の事をクリスタと見間違えていたというのがそれだ。
 
これはウーリの記憶なのか、或いは過去のレイス家の誰かの記憶なのか、いずれにしてもエレンの記憶ではない。可能性としては、始祖の力を継承した者の記憶というのがありそう。
 
つまり、初代王の記憶というのは、実は始祖の巨人の力を継承した者の記憶の集積なんではなかろうかと。
 
 
 
そうだとすれば、ウーリやフリーダが引き継いだ記憶には、ユミル・フリッツによる民族浄化の記憶が存在してる上に、代々の継承者の行いさえも存在することになる。
 
ライナー達はその民族浄化を指して「悪魔の末裔」と壁内人類を呼称しているが、果たして、それが原因でウーリやフリーダは黙していたのかと言われると、ちょっと都合が良すぎる気がする。
 
例えば、現実の地球においても、ある民族を根絶するが如き動きはあった。アメリカだったらインディアンを追いやったり、ドイツだったらナチスとかあったわけで、それこそ歴史を紐解けばそういう事例はゴマンとある。
 
だけど、そういう記録の上に立つ後世の人々が、未来にわたって延々と罪の意識を背負い続けるというのは、ちょっと現実的じゃない。有史以来その手の罪を背負い続けろと言われたら、世界中の大半の人々が罪の意識に苛まれることになるので。
 
という現実世界の事も考えると、レイス家代々の継承者が黙っていたのは、先祖の「悪魔的行い」が原因では無いと考えるほうが自然だと思う。
 
 
少々飛躍が過ぎるけど、レイス家の継承者達が黙していたのは、「実はもう始祖の巨人の力を発揮できない事を知ってしまったから」ではないかと。ほんとに飛躍し過ぎですね
 
ウーリによれば、「この世界(壁内国家のことだろう)は、遠くない将来に滅ぶ」と断言されている。始祖の力を保有し、壁内に移住した100年前の状況を踏まえれば、これは明らかにおかしい。
 
元々、フリッツ王がパラディ島に退去した際に、マーレ側には干渉しないように通告してる。幾千万の巨人の武力を背景にしてだ。この当事はフリッツ王が確かに始祖の力を行使できた(壁内人類全ての記憶改竄)のだから、この通告には重みがあった。
 
その状況が続いていれば、すなわち始祖の力を恙無く継承していれば、ウーリの発言は絶対に出てこない。確かな力があるのだから当然だ。
 
だが、ウーリは「滅ぶ」と言い切ってる。この矛盾を説明するには、始祖の力が既に喪われていなければならない。つまり、正統王家のフリッツ家は既に断絶している。
 
それを知ったからこそ、レイス家の継承者達は何も言えなくなったのではなかろーかと。
 
受け継いだ記憶の中には、「いかにしてフリッツ王家の始祖の力が喪われたか」も残っているだろうし。それが現王家のレイス家による仕業だとしたら、壁内人類の希望を根こそぎに奪ったのが自分達であると知る事になる。
 
こっちの方が苛まれるべき罪の内容としてはありそうなんだよなー。