引き続いて旅順のこと



203高地の奪取が勝利への転換点だったとし、それを実現せしめた児玉源太郎の評価は本作において高い。



が、ちょっと待ってほしい。




ロシア側が旅順を中国から租借して8年もの歳月が流れてて、その間に旅順は最新式の永久要塞に改造されました。


旅順は地形を見ても分かるように良港ですから、ロシアの対アジア戦略では最も大切な土地です。


そして、要塞工事には定評のあるロシア軍が8年をかけたという事実。




それなのに、203高地が旅順要塞の弱点だと気付かなかったなんて、そんなバカな話は無いと思う


要塞工事は相手がどう攻めてくるのかを想定することが重要なのに、どうしてそこだけスッポリ抜け落ちてるのか。



司馬先生の筋立てですと、ロシア軍は無能を通り越して、ただの案山子じゃないかと。
そういう仮定に拠ってしか「203高地弱点説」は成り立たないんじゃないかと、とても不思議に思っています。


ロシア側の資料は見たことがないんで、絶対にそうじゃないとは言えないですけどね…





ワタシ、本作の児玉源太郎は結構好きなんですよ。



偉い奴にバカが多いのは、自分の身の回りの事を他の人間に任せるようになるからだと。
自分で考えて物を為す必要がなくなるからどんどんバカになると。


そういって、極官と言ってもいいほど偉い児玉は、自分で自分のことはちゃちゃっとやってた。非常にワタシの好みです。



秘書任せでアレコレやらせて自分はふんぞり返ってるだけ。そんなことだと、どんどん馬鹿になるぞってのと同じですね。



別に児玉が天才でも天才じゃなくても、ワタシは児玉源太郎は好きなんだけど。




司馬先生が伊地知参謀に対して厳しく見るのと同じように、児玉に対して批判的な目を向けると、「やっぱり203高地の件はおかしいよ」としか思えないのです。



果たして本当に203高地にそんな戦略価値があったのか?




児玉だけでなく、海軍の責任に触れてないのも疑問が残ります。




そも、旅順攻撃は海軍の要請によるもので。


陸軍には旅順攻略のプランは無かったし、陸軍の主観から見れば、旅順なんぞに兵力を割くよりは主力決戦に集中した方がいいってのは戦略上正しい。


であるなら、なぜ戦前に海軍の方から「旅順よろしく」と言わなかったのか。
初めから作戦計画に組み入れていれば、児玉はきちんと絵を描いてから望んだと思う。


そういう意味では海軍の責任が一番でかいかも。




作中では、戦争初期に下手を打った海軍が大量の敵鑑を旅順に逃がしてしまい、それをなんとかしないとってことで、閉塞戦とか色々やってみたけど結局ダメでー、、、しょうがないから陸から要塞を落としてもらって、敵鑑をナントカしよう。


って流れ。




こりゃあんまりじゃないか…



考えれば考えるほど、乃木・伊地知の責任と言えなくなってくる。
無論、実際に指揮下で犠牲が多く出たことへの責任はあるのだけど、日本軍の作戦全体に瑕疵があるのだから彼らだけに責めを負わすのは違うと思う。


東郷も大山も児玉も、或いは東京の長岡外史。
ここいら、全員責任重大じゃないか。




坂の上の雲があまりにも有名になり過ぎて、乃木・伊地知悪玉説ってのが定着してるのが怖い。



子孫の方々が身の小さくなる思いをしてなければ良いのだけど。
子孫への風当たりが強くなる、これが地続きの歴史の恐ろしいところだと思う。



そういう意味では、まだ歴史の域にまでは遠ざかってないのかもしれないね。