もう諦めるしかないだろう。
頼れるのはマキだけ。
だがここに居ても無駄だ。
実家に逃げ込もうかとも思ったが、僕の家を見つけたくらいだ。
どうせ実家だって調べられてるさ。
「ゲーム…オーバー?」
「あぁ、だってそうだろ?家は押さえられて。頼るアテもない。完全に手詰まりさ。」
僕は嘲笑気味に言った。
そんな僕を見てマキは不敵な笑みを浮かべた。
(なんだよ!何が可笑しい!)
まさか…と思った。
可能性はある。マキが味方である証拠は何一つない。
やはり僕はここに来るべきじゃなかったんだ!
そんな後悔の念をあざ笑うかの如くマキの笑み。
完全にやられた。
だが仕方ない。これまでの自分を精算する時なのかもしれない。
だけど・・・怖い…
体が小刻みに震え始める。
と、その刹那、マキがようやく口を開いた。
「そろそろ秘密兵器を出しちゃおっかなー」
そう言ってマキは一枚の紙をテーブルに乗せた。
「契…約書?」
「ふふ…実は私、引越するのよ」
僕にはマキの意図する所がわからなかった。
「わからない?ここを引っ越すって事は?」
「ここから…居なく・・・そうか!」
「そーゆー事!」
一筋の光明が射した。
この街から逃げられる、それだけで見付かる確率はグンと下がる。
「マキ…お前最高だよ!」
僕はテーブル越しにマキを抱きしめた。
その手をやんわりと解きながらマキは言った。
「ただし…条件があるの」
「条…件」
身の安全を保証する条件。
生易しい物ではないだろう。
もしかしたら『結婚しろ』くらいの事は言い出すかもしれない。
だが、僕には選択の余地はない。
例えどんな条件だろうと呑むしかない。
「引越…手伝ってよね?」
「あぁ・・・え?」
僕は耳を疑った。
引越の手伝い、確かに彼女はそう言った。
「それ…だけ?」
「何よ?重い物を運ぶのって大変なんだからね!」
「いや…だって引越の手伝いだけなんて…」
「他の条件の方が良かった…?」
マキがニヤついている。
「いや!手伝います!是非手伝わせて下さい!」
おどけながら答えた。
「ふぅ。荷物はこれだけだね?」
一週間後、無事に引越も終わった。
最初に引越は一週間後だと聞かされた時は正直驚いた。
たった一週間で引越の準備が出来る訳がない。
だが現実は違った。
あの日から3日、荷物は見事に梱包され一部屋に纏められた。
『荷物が少ないからね』彼女はそう言うが、僕はマキの手際にただただ感心するばかりだった。
職場が近いからと選んだ新居は隣の市にあり、店からも遠く離れていた。
「おつかれさま」
荷解きをしながらマキが答えた。
「もう少し待ってね。これを出さないと生活出来ないの。」
と言って振り向いたマキの手にはコーヒーメーカーが握られていた。
僕らはどちらからともなく笑った。
夜になると荷物は3割ほどを残し、新しい自分の居場所に収まった。
見ていて惚れ惚れする手際の良さだった。
それにしてもよく動く。
今もマキはキッチンでゴソゴソと何かをしている。
僕はテレビをセットすると、マキに向かって声を掛けた。
「テレビ出来たし少し休憩したら?」
「うん。もうちょっとだから。先に休憩してて。」
「そういう訳には…俺も手伝うよ」
「んー大丈夫。」
キッチンを覗くとマキは食事の支度をしていた。
「今日くらい外食したら良いのに。」
「駄目よ。『今日だけ』の積み重ねが大変な事になるんだから」
「参りました。」
マキにはとても敵わない。
食事を済ませテレビを見ながら僕は呟いた。
「普通…か。」
「ぅん?」
「いや、食事をしてテレビを見て風呂に入る。こんな当たり前の普通の生活すら俺はしてなかったなって。」
「隣に居るのも別段美人でもない普通の女だしね」
「間違いない(笑)」
「そこは嘘でも『そんなことない』って言うものよ(笑)」
「根が正直なので」
『嘘つき!』と笑いながらマキは僕の肩を叩いた。
幸せというのは特別じゃなく、普通の毎日の中に隠れているのだと僕は知った。
ずっとこの幸せが続けば良い。
僕は本気でそう思っていた。
少なくともあの日までは・・・
頼れるのはマキだけ。
だがここに居ても無駄だ。
実家に逃げ込もうかとも思ったが、僕の家を見つけたくらいだ。
どうせ実家だって調べられてるさ。
「ゲーム…オーバー?」
「あぁ、だってそうだろ?家は押さえられて。頼るアテもない。完全に手詰まりさ。」
僕は嘲笑気味に言った。
そんな僕を見てマキは不敵な笑みを浮かべた。
(なんだよ!何が可笑しい!)
まさか…と思った。
可能性はある。マキが味方である証拠は何一つない。
やはり僕はここに来るべきじゃなかったんだ!
そんな後悔の念をあざ笑うかの如くマキの笑み。
完全にやられた。
だが仕方ない。これまでの自分を精算する時なのかもしれない。
だけど・・・怖い…
体が小刻みに震え始める。
と、その刹那、マキがようやく口を開いた。
「そろそろ秘密兵器を出しちゃおっかなー」
そう言ってマキは一枚の紙をテーブルに乗せた。
「契…約書?」
「ふふ…実は私、引越するのよ」
僕にはマキの意図する所がわからなかった。
「わからない?ここを引っ越すって事は?」
「ここから…居なく・・・そうか!」
「そーゆー事!」
一筋の光明が射した。
この街から逃げられる、それだけで見付かる確率はグンと下がる。
「マキ…お前最高だよ!」
僕はテーブル越しにマキを抱きしめた。
その手をやんわりと解きながらマキは言った。
「ただし…条件があるの」
「条…件」
身の安全を保証する条件。
生易しい物ではないだろう。
もしかしたら『結婚しろ』くらいの事は言い出すかもしれない。
だが、僕には選択の余地はない。
例えどんな条件だろうと呑むしかない。
「引越…手伝ってよね?」
「あぁ・・・え?」
僕は耳を疑った。
引越の手伝い、確かに彼女はそう言った。
「それ…だけ?」
「何よ?重い物を運ぶのって大変なんだからね!」
「いや…だって引越の手伝いだけなんて…」
「他の条件の方が良かった…?」
マキがニヤついている。
「いや!手伝います!是非手伝わせて下さい!」
おどけながら答えた。
「ふぅ。荷物はこれだけだね?」
一週間後、無事に引越も終わった。
最初に引越は一週間後だと聞かされた時は正直驚いた。
たった一週間で引越の準備が出来る訳がない。
だが現実は違った。
あの日から3日、荷物は見事に梱包され一部屋に纏められた。
『荷物が少ないからね』彼女はそう言うが、僕はマキの手際にただただ感心するばかりだった。
職場が近いからと選んだ新居は隣の市にあり、店からも遠く離れていた。
「おつかれさま」
荷解きをしながらマキが答えた。
「もう少し待ってね。これを出さないと生活出来ないの。」
と言って振り向いたマキの手にはコーヒーメーカーが握られていた。
僕らはどちらからともなく笑った。
夜になると荷物は3割ほどを残し、新しい自分の居場所に収まった。
見ていて惚れ惚れする手際の良さだった。
それにしてもよく動く。
今もマキはキッチンでゴソゴソと何かをしている。
僕はテレビをセットすると、マキに向かって声を掛けた。
「テレビ出来たし少し休憩したら?」
「うん。もうちょっとだから。先に休憩してて。」
「そういう訳には…俺も手伝うよ」
「んー大丈夫。」
キッチンを覗くとマキは食事の支度をしていた。
「今日くらい外食したら良いのに。」
「駄目よ。『今日だけ』の積み重ねが大変な事になるんだから」
「参りました。」
マキにはとても敵わない。
食事を済ませテレビを見ながら僕は呟いた。
「普通…か。」
「ぅん?」
「いや、食事をしてテレビを見て風呂に入る。こんな当たり前の普通の生活すら俺はしてなかったなって。」
「隣に居るのも別段美人でもない普通の女だしね」
「間違いない(笑)」
「そこは嘘でも『そんなことない』って言うものよ(笑)」
「根が正直なので」
『嘘つき!』と笑いながらマキは僕の肩を叩いた。
幸せというのは特別じゃなく、普通の毎日の中に隠れているのだと僕は知った。
ずっとこの幸せが続けば良い。
僕は本気でそう思っていた。
少なくともあの日までは・・・