『requiem』 | 松田拓実のblog ~詩を中心に~

松田拓実のblog ~詩を中心に~

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曇って寒々しかったが
じめっとして蒸し暑くもあった
図工室の生徒らは既に掃け
美術教師の僕だけだった
一時間前のにわか雨で
濡れた五階のバルコニーは
灰色に閉ざされた空を写して
児童を人っ子一人うっちゃった

誰もいないのにひと安心した

大学の友人の死を知ったのは
昨夜のアトリエでの事だった
Tがそれを教えてくれた
その訃報を突然に聞き
刻は停止して思わず
立ち眩んでぐらついた僕は
刹那に瞬時に
死んだ友と大学の近くにいた
十七年も昔のあの公園のベンチ

遊ぶ中学生の群を
眺めながら聞く君の話は
長くて退屈でかなわなかった
西陽が伸ばす影も又
長いのがしつっこくて嫌になった
眼の前のぼうっと
ブランコをこいで
対話していた女子高生も
さっ帰ろっまた明日あ
そう言い合ってその場を離れた
薄暗い夕焼けに包まれながら
ランドセルを背負い
未練がましくからかい合う
悪乗りした少年達が騒いでいて
それもぼんやり眺めていた
それが友よ君の口調と親和した
くるぶしから先ばかりが
伸びて僕らの頭のてっぺん
なんだかとても遠く感じられた
腰をおろしたばかりの先程が
何百年前も過去に感じられた
二人は十九歳同士だった

君はずっと喋り続けた
乱立する辺りの白熱灯が
点火し始めたのも無頓着に
くっちゃべるその内容は緩やかに
地平に落ちてゆくのだった
支離滅裂な世界の隔たり
から聴こえる糸電話に似た何か
によって難破船からの連絡を断ち
僕や君やこの場面全体の
横顔も少しづつ老けこみ
逆さの海底に堕ちてゆくだけだった
何故ならば君は申し訳ないけども
かなりトチ狂っちまってい
最早まるで正常では無かったからだ

そのうち陽も就寝する如く消え
月光が別の角度から我らを照らし
より一層伸びた影は
シレッとその位置を変えても
影は影のまんまで
じっと黙するベンチの下の世界
砂利の天蓋に両手の平を
ぴったり貼り付けて
地面と同じ温度の長い手足を
コンパクトに畳み丸まり

耳を塞いだ現三十路半ばの
中年の無名の実像は
口下手なまま置いてけぼり
お世辞や人付き合いも不得手で
はにかんで究めて孤独なのに
お互いに汚い髭面を寄せ合って
僕だけには甘え頼っていたが
その君がいつの間にか地に
地面という空に
空という塩水に
弱気な表情で困惑しつつ
沈んで溺れていたのさえ知らず
でそれはもう
だけどそれはもう
随分昔から手遅れなのだった

僕は教壇のテーブルに
恐る恐る寝っ転がって
疲れ果てた肉体を
力の入らない筋組織を怖々
水平にしてから
黒板を眺めた
眺めながら闇に窄まって
へんてこなレリーフに固まった
垂直と横軸の
ものぐさな我が供養を
自覚して口角を上げた
発泡スチロール板の割れたように
力無く苦笑した

黒板にうまくフィットしない
アナーキーな君の
小学生の頃の姿が鮮明に
浮かんだからだった
もっと教え子らに
生命に極めて優しくなりたいと
なろうと強く心に念じてから
うしっ帰るか
と素早く起き上がった