『白い薔薇の透明なデッサン』 | 松田拓実のblog ~詩を中心に~

松田拓実のblog ~詩を中心に~

ブログの説明を入力します。

三四郎の前に

白い花を落とした女は
白い薔薇を黒髪に刺していた

話し手の記憶が確かなら

女がかの善良なる

うぶな専用郵便配達人を解雇したのは


女が白いドライフラワー

の薔薇をバスタブに落とした六月の

ださいカレンダーをめくった朝だ


生来ナマケモノな青年の日々は

女へのささやかな往復葉書だったのに

そのくせマッチの火で炙れば

恋しい二枚目のアドレスが

返信宛名欄に浮かび上がる

という寸法も彼ばかりが知らず


しかし大丈夫だ何せ青年は

現代人の書いたカラクリ文字など
はなからまるで読めないのだから

太陽と月は飼い慣らされたように

半永遠に等間隔なので

モノクロのこの部屋で

ひとつまみの星座が

独り壁に背を付け

曇天模様の便箋が錯乱する


二日酔いの月曜日に沈んでも

白いシーツの空で最速のUFOにも

原始的な鳥にもなれるから


携帯電話を口に咥え
しけた枝にしがみついてた

ミミヅクである、かの男の


純な動機で不純な妄想が
粘っこく飛んだ距離の把握と
それを失うヒロイックな幻視に

逃げようとするものを
つい追ってしまうような

謎かけに翻弄される
十二歳の少年のような

ヘマなどスラリとスルーする
くらいの分別は今はあるし

昼と夜が答えの問いを

唱えるあの有名な半獣神の化身

そのレプリカが彼女だとしても

彼は全く動じないだろう


海の近い遠い町で
ありきたりの宿にて

女の知らない部屋の隣で

青年に腕枕されて寝ている商売女が


例えば白い薔薇をわさび醤油に
浸して食うよな妖怪だとしても

やはり青年は動じないだろう


朝陽の如く振る舞うタオルケット婆あ

ムーンライトのオモモチで輪郭を濁す


創造主の位置から眺めたふりのママゴト


いちいち青年が動じないのは

太陽と月の悪戯で満たされた

彼の宇宙に生命体はおらぬからだ


黒目の消えた青年がぼそり呟いた

ーこのアルビノのcosmosを揺らす声の先に
おお…今は
君しかいない
白い飛沫が波打ち際にダイブし
いつかは
君もいない
檸檬汁で描いた記憶の素描にー