抗がん剤投与から4日目の時点で出てきた体の反応は、お腹の張り、若干の気持ち悪さ、足の浮腫み、胸やけ、などである。
いずれも予想していたよりも軽度の症状であり、幸い大きな副作用にはなっていなかった。
とにかく第一クールのトラウマがあるものだから、常に副作用という魔物が自分を襲ってこないか、毎日不安に駆られながら生活をしていた。
ここまでは良い意味で予想を裏切ってくれているので、ホッと胸を撫でおろしていた。
前日の夜くらいから、何となく寒気っぽさがあるなとは思っていたが、熱もないし気のせいレベルであまり気に留めてもいなかった。
翌朝、5日目を迎えた朝も熱は36℃代だし、大きな体の変化は無かった。
しかし、やはり何となく寒気はしていた。
昼寝でもすれば消えるだろうと、昼食後に毛布を被り体を温めて一眠りすることにした。
14時頃に目を覚まし、グンっと伸びをした。
ん、なんか体が痛いな。
んん、なんか体が熱いぞ。
恐る恐る体温計を取り出し、汗ばむ脇に差し込んだ。
ピピっピピっ。
38.2℃。
はい、オワタ。
見て見ぬ振りをして体温計を静かにしまい、何事もなかったかのように毛布にくるまった。
人間は、見たくないものを見た時、見なかったことにする習性があるのだ。
それで思い出した。
社会人一年目の時、数百人規模で集まる泊まりの新人研修があった。
目を覚ました時、時計を見たら研修開始から1時間が経っていた。
完全な寝坊、大遅刻である。
その時、取った行動は、もう一度寝る、だった。
夢であってほしいと願ったのであろう。
猛烈な防御反応が出た証拠だ。
しかし、夢でないことに気付き、冷静と情熱の間で葛藤する流れである。
さて、ついに来てしまった。発熱の副作用である。
ここまで頑張って耐えていたが、やはり今回もご多分に漏れず、しっかりと副作用の餌食になってしまった。
あーやはりそんな甘くは無かったか。
ここまで完璧な立ち回りだと思っていた自分が恥ずかしく、また情けなく思えた。
発熱になると、大部屋から個室へと移動させられる。
感染症の可能性があるからだ。すぐに採血をされ、解熱剤を飲んで熱を下げる対応がとられた。
その日は一旦、37℃代にまで下がったものの、翌朝にはまたすぐに38℃代に戻った。
この上がったり下がったりがしばらく続くことになる。
私は痛みにも弱いが、熱にも弱い。
高熱が出ると体が鉛のように重たくなり、動くことさえも億劫になり、そして食事もほとんど食べられなくなってしまう。
飲み薬だけでは熱が下がらないので、ステロイドの解熱剤を点滴で投与することになった。
結局、3日間、発熱が続き、個室での寝たきり状態になってしまった。
検査の結果としては、大きな感染症は見つからず、白血球の数がかなり少なくなってしまったことで、発熱が起こった可能性が高いとのことだった。
先生的には発熱の症状が出るのが早いようで、相変わらず不思議な顔をして今回の症状を眺めていた。
やはり、私は抗がん剤がよく効く体質なのであろう。
幸い、熱は38℃代を超えることなく、3日間で下がってくれたので、そこまで苦しむことは無かった。
何より、第一クールの苦しみに比べたら、全然耐えられる症状だったので、軽症で済んだのは不幸中の幸いだった。
ちなみに大寝坊した新人研修の話だが、大急ぎで会場に行き、思いっきりドアを開け、大きな声で「おはようございます!」と言って気合いで登場した。
笑いが起こりながら、とりあえず入れと言われ、ことなきを得た。
後日、直属の上司からこっぴどく叱られたのは言うまでもない。えぇ、言うまでもない。