だいぶ体調も復活の兆しを見せ、改めて自分は入院していることを実感した。

 

ふと思い出したのは、今から三十五年くらい前だろうか。

 

まだ幼き頃におたふく風邪をこじらせて、大きな病院に入院したことがあった。

 

入院前の最後の診察に母親と行った時、先生の言葉が今でも忘れられない。

 

「これは、入院ですね」。

 

そう言われた少年は、入院という言葉の正確な意味はわからないが、何となく良くない言葉だと瞬時に察知し、涙が込み上げてきたことを思い出した。

 

あの年齢で、大人に混じって大部屋で過ごした日々は心細かった。

 

それでも、家族が面会に来てくれることが凄く嬉しかった。

 

特に、忙しい父親が、仕事帰りに面会ギリギリの時間に来てくれることが楽しみだった。

 

父親が帰ると寂しくて、大泣きして枕を濡らしていた。

 

そうすると、隣にいるおばちゃんが、翌日来た母親にいつも報告してくれる。

 

「パパ帰ったら大泣きしてたよー」って。

 

あの時に比べると、悲しくもないし、涙も出ないし、色々な情報が渋滞しながらも普通に入ってくる。

 

四十一ともなれば当然か。

 

それよりも、色々と無理が生じていたのかな、なるべくしてなったのかな、と受け入れる作業に脳みそは働いていた。

 

救急車から今に至るタイミングのことも、受け入れるには十分な材料だった。

 

これは四十年に一回のグレートリセットの時期に入ったんだとポジティブに考えていた。

 

そんなことを頭に巡らせながら、最後に思うことはとにかく、妻、子供たち、両親に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。