『極道辻説法』ー今 東光
●芥川龍之介はどんな人?
芥川さんは「新思潮」の先輩に当たるし、谷崎潤一郎、佐藤春夫とも親しかったので、そこに出入りするオレともよく知っていたんだ。佐藤春夫は芥川さんをライバル視していたけど、学の力というものは、比較にならないほど芥川さんの方が上だった。とにかくもう芥川さんという人は大変によくできる人で、抜群だったね。字はうまいし、絵も描くしね。歌、俳諧、何でも一つとして不可なきものはない人で、フランスで言うと、ちょうどアナトール・フランスに似ているんじゃないかな。
学問でも一流の学者だし、幅広い趣味人でもあって、フランスで言う「ディレッタント」という言葉があの人くらいぴったり合っているのも少ない。非常に幅広く、しかも奥深い。何でも書くし、何にでも理解を示す才能を持っている。まさに本物のディレッタントだった。
和漢洋にも通じていてね。漢文もよく読めるし、俳諧一つとってみても国文学者が言ってるどころじゃなく、芭蕉なんかにでも一家言もっていた上、実際に句をどんどん作る。あり余って歌になると、アララギ派に近い歌も詠めた人だった。学者級の知識に一流の芸術家としての才能を併せもっていたんだから、とても大学の教授でもかなうもんじゃなかった。特に絵も文人画を描いたんで、そういう点でオレなんか好きだった。しょっ中、芥川さんの家に遊びに行ってたもんでね。オレみたいな若いもんが集まるもんで、谷崎なんか芥川さんをつかまえて、「君は何だな、中学生を集めて威張っているそうだな」なんて言ってたくらいだ。谷崎という人は何しろ人間嫌いでね。
