『三島由紀夫語録』ー秋津 建
●「文化防衛論」について

✪以上を要約すると、日本人にとっての日本文化は次のような三つの特質を有することになるが、これはフランス人にとってのフランス文化も、同種の特質を有すると考えてよかろう。すなわち国民文化の再帰性と全体性と主体性である。

✪先ず、国民文化の再帰性については、「日本文化は、オリジナルとコピーの弁別を持たぬことである」という一文で説明される。三島氏は、伊勢神宮の式年造営に例を引いている。

「持統帝以来59回に亙る20年毎の式年造営は、いつも新たに建てられた伊勢神宮がオリジナルなのであって、オリジナルはその時点においてコピーにオリジナルの生命を託して滅びてゆき、コピー自体がオリジナルになるのである。
(中略)歌道における「本歌取り」の法則その他、この種の基本的文化概念は今日なおわれわれの心の深所を占めている」

更に「このような文化概念の特質は、各代の天皇が、正に天皇その方であって、天照大神とオリジナルとコピーの関係にはないところの天皇制と見合っている」と結んでいる。

次に、国民文化の全体性については、前(さき)に触れているから婁述(るじゅつ)は避けるが、要するに、日本文化は静態と動態”茶道及び華道” と”武道(剣道及び柔道など) その他マーシャルアーツ” を夫々に対照させているーーが同ジャンルにあるということが特質だと述べている。

次に、国民文化の主体性については、「かくして創り出される日本文化は、創り出す主体の側からいえば、自由な創造的な主体であって、型の伝承自体、この源泉的な創造的主体の活動を振起するものである という説明が当てられる。判然としないむきには、こういったらよかろうか。

源泉的な創造主体と作り出される日本文化との間がどこかで絶たれれば、文化的な涸渇がおこる。型の伝承こそ実はその涸渇を防ぐ手段として日本文化の主体性を特徴づけている。