『毒舌仏教入門』ー今東光

●わが、"エロ小説"の精髄-①

 

✪徳川時代に、本居宣長という有名な国文学者がいました。偉い学者だった人だけれども、『源氏物語』の批評だけはだめですな。このくそ親父の話をすると面白いんですが、この話をすると長くなるのでやめますけど、要するに、作品が天台とーーつまり仏教とくっつき過ぎるといって攻撃している。しかし、『源氏物語』には天台の法味があるとはいっても、天台そのものだというわけではないんですよ。

 

たとえば『源氏物語』は54巻あります。天台三大部が60巻。そこで、天台の60巻と巻数を揃えるために何やかや前後をつけて、紫式部60巻なんて言っているアホもいますが、これは我田引水のとんでもない間違いだ。そういうことにとらわれちゃいけない。だいたい、紫式部はただ、上東門院という一条天皇の皇后様に読ませるために、書いただけなんです。上東門院という関白道長の娘が読者で、紫式部が第一巻を書いて読ませた。それを読んで「面白いわね。続けてちょうだい」というので、もともと短編だったものがだんだん長編になってしまった。それが『源氏物語』54帖なんです。天台三部がどうのというのと、ぜんぜん直接の関係はありません。