『街場の読書論』ー内田 樹

●女は何を希望するか?ー①

 

本日のテーマは「ジェンダーと言語」。

これについてはかって『女は何を希望するか?』でフェッタリー、イリガライ、フェルマンのフェミニズム言語論を論じたことがあった。何を書いたのかすっかり忘れてしまっていたので、本を書棚の奥から取り出して読む。


お、面白い!

こんなに面白い本を私は書いていたのか(この自己評価の法外な甘さこそ私の生命力の源である)。

フェミニズム言語論批判なんていうフレーム設定そのものがマネジメント的にはスカだったわけで、そんな本売れるわけがないのであるが、自分でいうのもなんだが、よい本である。


よくプロフィールに「主著」というものを書かされる。

『ためらいの倫理学』と『寝ながら学べる構造主義』と『レヴィナスと愛の現象学』と『他者と死者』の四つめはとりあえず「主たる業績」として思いつくのだが、『女は何を欲望するか?』はかって一度もリストに載せたことがなかった。


理由は簡単で、担当編集者のO庭くんがひどく急(せ)かしたのである。

もっと推敲したかったし、もう少し構成のバランスも整えたかったのだが、「営業のつごう」とかで、(私としては)未完成の草稿がそのまま活字になってしまったのである。

あとちょっと時間をくれれば、もっとまともなものが書けたのに・・・・という憾(うら)みが残って、本のことを記憶から消去していたのであるが、四年ぶりに読んだらたいへん面白かったのである。