『世界の名言名文句事典』-有島武郎(1878~1923

●『愛の表現は惜しみなく与へるだろう。しかし愛の本体は惜しみなく奪ふものだ』


愛とは自己を捨ててひたすら与えるものだという考えがある。トルストイの言葉「愛は惜しみなく与う」はそのような愛を一言に表現するものとして、あまりにも有名である。これに対して有島武郎はこういうのだ。「愛は個性の飽満と自由を成熟することのみに全力を尽くしているのだ。愛はかって義務を知らない。犠牲を知らない。献身を知らない。奪われるものが奪われることをゆるしつつあろうとあるまいと、惜しみなく愛は奪うと」。

 

だが、これは本当に反対のことをいっているのだろうか。真実の愛は、自己を捨てることに喜びを感じるものであり、自らわきあがる意志によって愛するものであるという。それならばそれは犠牲でも献身でも義務でもないといえるだろう。

惜しみなく愛は奪う、それは物質でも肉体でも愛情のことでさえないのである。相手がたとえどう考えようとひたすら愛さずにはいられない、その精神的な戦いの過程は”惜しみなく愛は与う”ことと同じではないだろうか。