『中国古典・一日一語』-守谷 洋
●変に処しては、まさに百忍を堅くして以って成るを図るべし


企業は、新人の募集に当たって運動部の補欠選手を採用することが多いという。補欠選手は、試合に出られない悲しさにじっと耐えてきたので、忍耐心が備わっている。その忍耐心が貴重なのだという。それだけ、いまの若い人には忍耐心が欠けているのかもしれない。

「変に処しては」とは、難関にさしかかったとき、あるいは人生の踏ん張りどころと解してもいい。そういうときは、ひたすら耐え忍んで初志を貫徹しなければならないのだという。

唐の時代に、張公芸という人がいた。
この人の家庭は「九世同居」、つまり大家族がひとつ屋敷で仲睦まじく暮らしていることで知られていた。評判を聞いた、時の皇帝が張家を訪ねて「九世同居」の秘訣を訊ねたところ、張公芸は黙って「忍」の字を百ばかり書いて差し出したという。

何世代もの家族が同居していれば、これはもう立派な社会である。ひとりでもわがままな人がいれば、そこに軋轢が生じる。張公芸の「百忍」は、家族和合の秘訣であるばかりでなく、この人生を生きていく上での基本的な条件のひとつでもあるといえる