『江戸一口ばなし』ー今野 信雄
●旅に必要な荷物の中身は・・・・・


現代では旅慣れた人はほとんど手ブラで出かけるようだ。必需品は旅先で何でも手に入れるからで、ゴルフ道具などは事前に宅配便で送り届けておけばいい。考えてみれば実に結構な世の中になったものだ。
江戸時代でも荷物はできるだけ軽くて小さい方がいい。しかし往復で20日も1ヶ月もかかる旅なら手ぶらというわけにもいかず、そこで最低限の荷物は行李と風呂敷包みの振り分けにして肩にかつぐのだが、ここでお関所なみに荷物の中身をチェックしてみよう。
 

まず着替え用の衣類、手拭い、はな紙、扇、矢立、道中案内書、日記帖、心覚手帖、秤、薬類、大小の風呂敷、提灯、火付道具、ろうそく、懐中付木、針、糸、磁石、そろばん、印判、弁当、枕、綱三本、合羽等々。綱三本は濡れ手拭いや洗濯物を干したり荷造り用のため。他に身のまわりには脇差し、タバコ道具、印籠、巾着、笠等、実にさまざま。また衣類といっても、着替え下着や下帯はもちろん、股引、脚絆、足袋、手甲、腰帯、道中羽織、さらに冬の旅なら防寒用の紙子や革の胴着、革羽織も必要となるから、かなり要領よく包み込むコツも必要だったのだ。
 
この他にしらみ紐というのが欠かせない。いまの若い人たちには想像もできないだろうが、当時のみやしらみと同居生活だったのだ。旅篭の布団の中でモゾモゾするのはみんなこの吸血鬼たち。当時はのみとり粉などはないし、しらみ紐というのを腹にしめたまま旅をする。するとしらみは全部この紐のしわのところに集まるから、時々外に出してパッパッとはたき、また腹に巻き付けるといった次第。「東海道中膝栗毛」にも、乞食坊主がうたうチョンガレ節の中にその一節がある。
 
「そのうえ田町の反魂丹(はんごんたん・富山の懐中丸薬として有名だった)コリャ、さってやのしらみ紐、越中ふんどしのかけがえ・・・・・・」
 
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