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『ユダヤ人の発想-①』ーM・トケイヤー
●タルムード的人間の原点


ユダヤ人の二人の亡命者がいる。ヘンリー・キッシンジャーとマイケル・ブルメンソールである。この亡命者は二人とも、ポケットに一銭のカネもなく、まったくの身一つで故郷を追われ、アメリカに渡った。そして、二人はアメリカの最高の官僚となった。
一人は財務長官をつとめたプルメンソールである。彼はナチスドイツに追われ、船で上海まで逃げ、当時の日本の官憲の親切な保護によって、アメリカに行くことができた。
もう一人は、キッシンジャーである。キッシンジャー一家も、ナチによってドイツを追われ、無一文でアメリカにたどりついた。そして、だれでもよく知っているように、ハーバード大学の教授になり、大統領特別補佐官から国務長官にまで昇進した。

亡命者から大国の閣僚になるということは、たいへんなことである。彼ら二人には、タルムード的発想の哲学があった。このタルムード的発想こそが二人の成功を可能にしたといえるだろう。
さて、このタルムード的発想の根底に流れている着想は、硬貨にはかならず表裏の二面があるということである。現実の裏には、過去がある。未来は過去と裏表の関係にある。どのような暗い境遇にも明るい面があり、明るい境遇の中にも暗さがある、といったようなものである。

要するにあらゆる話、そしてあらゆる問題には、常に二つの面があるというのである。『タルムード』の金銭についての項目の中には、「お金は人々のあいだをころがっていくから丸い」といった格言もあるが、同時に「あらゆるものは硬貨のように二面(表裏)を保っている」という言葉もある。この表裏の考え方を時間の問題に当てはめたらどうなるか。それは、過去と現在、そして未来ということである。
また、『タルムード』の他のページを繰ってみると、「ボートをこいで前に進むためには、後ろを見ていなければならない」という言葉もある。これまた、前進するためには、過去を学ぶことの尊さを教えている言葉である。