『言葉につける薬』-呉智英

”ダッチ・ワイフ-②”

 

✪”ダツチワイフ”は本来熱帯地方で使われた。オランダ人たちは17世紀はじめに東インド会社を設立して20世紀半ばまで植民者として熱帯地方に進出した。オランダ人植民者が抱き籠を愛用し、それを戯れにDutch wifeと呼んだのだろう。むろん、そう呼んだのはオランダ人以外のヨーロツパ人に違いない。単身赴任のオランダ植民者に対する蔑みの感じがあるからだ。

 

Dutchという言葉は、英語では差別的に「けち」を意味する。学生言葉の「ダッチ・カウント」(オランダ式の勘定)が「割り勘」を意味するのもそうである。ただ「ダッチ・カウント」は日本式に変化しているらしく、英語では「だっち・トリート Dutch treat(オランダ式のおごり)」である。ほかに「ダッチ・ロール(船の横揺れ)」も方針が定まらない様を表して、いい意味の使い方はしない。

 

ところで、人造代用女性は、”南極のお姫様”と俗称されている。かって南極越冬隊がこれを持参したという話にちなんでいる。

これは単なる噂にすぎないと思う人もいるかもしれないが、第一次南極越冬隊の隊長”西尾栄三郎”さんが『南極越冬記』に、さりげなく書いている。実際に南極に持っていったそうであるが、誰も使用しなかったらしい。本来”ダッチ・ワイフ”は熱帯で”涼”を取るために使うものであるから、極寒の南極で越冬隊の隊員達が使わなかったのも無理はない。