『知的生活習慣』-④ 外山滋比古

●レム睡眠で頭のゴミ出しをする

 

善玉忘却は人間の精神活動にとってたいへん大きな力をになっている。そのはたらきの弱い人間は、知的能力が低くなる。

いまの社会は情報化社会である。昔の人に比べるとはるかに多くのデータ、知識、情報、刺激にさらされているから、それだけ忘却作用も活発にしなくてはいけない道理である。昔に比べて精神的不安定を訴える人が多くなっているのも、ひとつには、この忘却作用の不全によると考えられる。

 

そういう大切な機能を、人間の意志だけに委ねておくわけにはいかない。もし、忘却を怠ったら、たいへんなことになる。自然の摂理はそういう危険をさけるようになっている。

忘れようと思わなくても、忘れるようになっているのである。夜、寝ている間に、何回もレム睡眠をしている。ここで、”不要”と思われるモノを、自動的に忘れるようになっているのである。それまで頭に入ってきたおびただしいデータの仕分けをして、不要なものを廃棄する。頭のゴミ出しである。何の努力もしないで、われわれは毎日、頭のゴミを掃除している。

 

朝、目を覚ましたとき、頭がスッキリしていると感じることが多いのは、頭の掃除がすんでいるからで、頭のはたらきも、夜などに比べて良好なのは当然である。レム睡眠がうまくいかない朝の目覚めは、すべてのことをする意欲を失っている。

 

平穏無事の生活で、とくに神経を使ったり、新しい知識を大量に取り入れたりすることがない場合、レム睡眠だけで充分に忘却ができる。だが、複雑で細かい情報などの多い生活をしていると、自然のレム睡眠忘却で処理しきれない”ゴミ”が頭に残る。目覚めても気分がすっきりしない、何をする気力、意欲もない、それがつづくと、ノイローゼ的になる。それに悩む人がすくなくないが、善玉忘却力の不足に気づく人はきわめて少ない。

 

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