『空海・無限を生きる』ー松長 有慶
●社会への働きかけ

✪鎮護国家-①

密教、あるいは空海の教えというのは、鎮護国家が基礎になっている、とよくいわれます。たしかに鎮護国家の考え方は、空海の社会活動の基盤になっています。ところが、それを非常に短絡的に、鎮護国家というのは日本でいえば鎮護天皇のことだと考えてしまう場合があります。あるいは鎮護思想というのがありますが、これは天皇を守る思想だと解釈されてしまっています。空海は、嵯峨天皇、淳和天皇などをはじめ、朝廷と密接な関係をもっていました。ですから、空海は天皇だけにおもねって天皇にべったりだったと評価したり、民衆とは接点をもたなかったんだという暴論が常識化してしまいました。しかし、これは空海が書いたものを徹底的に調べたりして、その真意を知ろうとしないうえでの論です。そこで私は、鎮護国家、あるいは護国つまり守るべき国とは、いったい何かということを調べたことがあります。

 

インドというのは、そもそも国家というものがなかった国です。統一国家ができたことはほとんどありません。歴史上、最も大きいのが、アショーカ王で有名なマウリヤ王朝ですが、それほど長く続きません。次にやや大きいのがグプタ王朝ですが、マウリヤ王朝に比べると版図が狭い王朝です。そのほかは群小国家ばかりで、国家という意識が薄かったといえると思います。