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『剣禅話』ー山岡鉄舟
●維新覚書

✪徳川の使者となるー③
当時、徳川家の軍事総裁は勝安房であった。わたしとかれとは面識がなかったのだが、胆略ある人物だと聞いていた。
そこで、わたしは勝のところへ行き、
わたしの計画を話したのである。

わたしが粗暴だという噂はあったから、勝はわたしを信用していないようであった。勝は、

「あんたはどういう手段を使って官軍の陣営に入って行くつもりなのか」

と、たずねた。
わたしはこう答えた。

「官軍の陣に行けば、かれらは必ずわたしを斬るか、あるいは捕縛するだろう。わたしは刀を渡してしまう。縛るというなら黙って縛られてやるし、斬るというなら斬られてもやる。どのようにでも先方のやり方に任せてしまうつもりだ。
だが、いくら敵であるからといっても、是非を調べもせずにいきなり人を斬るという法があるわけのものではない。だから、これは不可能な計画ではないのだ」

勝は、わたしの気持ちが動かないものであることを知って同意し、望みどうりにやってくれといった。話が決まって帰ると、薩摩の益満休之助がやって来て、一緒に連れて行ってくれという。そこで同行を承知し、ただちに駿府に向かって急ぎ出発したのである。


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