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『毒舌仏教入門』ー島地勝彦
●ベンツ・フルスピード事件-①


今東光大僧正は、他人が素敵なものを持っていると、必ず自分のものにしてしまう天才だった。私は何度も目撃した。

某大臣と食事したとき、私も鞄持ちで同席したことがある。
某大臣は、フランス大使からもらったばかりというデュポンのピカピカの金色のライターを持っていた。わが大僧正は、煙草に火を付けてもらうたびに、

「いいライターだ」「いい音がする」「炎の色まで上品や」「おい、煙草の味まで違うぞ」

と褒めちぎり、帰るころには、そのデュポンは先生のポケットに入っていた。

「先生、やりすぎではないでしょうか」

と私が言うと、「お布施じゃ、お布施」
と答えたものだった。

ある資産家の豪邸に招待されたことがある。茶室には、素晴らしい中国の古い掛軸がかかっていた。

「漢詩の意味がチンプンカンプンなんです。先生教えてください」

と、その家の主人が頼み込むと、博覧強記の大僧正はたちどころに説明し、

「詩には裏の意味がある。これは、在家の人間より仏門に携わる人間が持ったほうが活きる書や」

と付け加えた。数時間後、その掛軸はくるくると巻かれ、鞄持ちの私の手にあった。





#掛軸 #デュポン #お布施