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『芥川賞の偏差値』-小谷野敦
●第99回 新井 満「尋ね人の時間」
偏差値 42点

新井はCMプロデューサーで、森敦が芥川賞をとった時、檀ふみとCMで共演してほしいと、森が檀一雄の友人だったことも知らずに頼みに行って知りあい、その後森に師事して小説を書くようになった。

3回目の候補になった「ヴェクサシオン」は野間新人賞を受賞しており、野間新をとったあとで芥川賞をとった初の例となり、以後、野間新は「芥川賞以前」に位置づけられることになる。
私は高校三年の春(1980)「みんなのうた」で新井満が歌った「展覧会で逢った女の子」を聴いていたから新井の名は知っていたはずだが、井沢満と混同していた時期もあった。だが作品は、華やかな職業柄、というところから想像できるとおり、片岡義男や村上春樹風のこじゃれたもので、中間小説誌に載る風俗小説のようだ。おしゃまな娘との会話も悪くスノップである。

新井はその後は、「千の風になって」の訳詞をしたり、仏教経典の自由訳をしたりと、通俗文化人になった。地味路線を脱却するとこうなるわけで、難しいものである。もっともこの回は佐伯一麦と吉本ばななが候補になっており、佐伯に授与すべきだったろう。
この頃、吉本隆明の次女が吉本ばななの名で海燕新人賞をとった「キッチン」が話題になっていた。


#新井満 #「千の風になって」 #野間新人賞