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『芥川賞の偏差値』
●第77回 池田満寿夫「エーゲ海に捧ぐ」
偏差値 42点

池田は、版画家として知られており、若い頃は富岡多恵子と同棲していた。この後は、バイオリニストの佐藤陽子との不倫で騒がれ、結局佐藤と結婚した。
この作品は角川書店の中間小説雑誌『野性時代』に載ったが、この雑誌から芥川賞が出たのはこれだけである。サンフランシスコに滞在している男が、ホテルの部屋で、脇に愛人が寝ている中で、日本にいる妻と電話で話すというワンシーンの小説である。

永井龍男がこれの受賞と決まると選考委員を辞任して話題を呼んだ。永井は選考会で受賞が決まると、後ろを向いて「俺は負けたんだ」と言っていたという。
池田は自らこの作を映画化し、続けて「窓からローマが見える」も映画にした。まあ版画家の手すさびであろう。

この回では、小林信彦、高橋揆一郎が候補になっている。高橋のは「観音力疾走」で、これは十分受賞に値する。小林はこの前に中原弓彦の名で『日本の喜劇人』を出して芸術選奨新人賞をとっており、芥川賞・直木賞は計5回候補になってとれず、それ以外の文学賞もとれず、不出来な『うらなり』を出したとき功労賞的に菊池寛賞をもらった。『日本の喜劇人』は優れた評論だが、小説は下手で、かつひどく屈折した人物で、「無断引用固く禁じます」と書いたり(引用に許可は要らない)、『うらなり』では、第二次大戦が始まっていないのに「第一次大戦」と書き、神戸の中心駅は三宮なのに「神戸駅」と書いたり、私がそれを指摘したのに単行本でも文庫本でも直っていない。恐ろしい男である。

この回の直木賞は、三好京三が、文學界新人賞をとった「子育てごっこ」でそのまま受賞している。文學界新人賞受賞作が直木賞をとることはあるが、オール読物などの新人賞が芥川賞をとることはない。


#池田満寿夫 #芥川賞 #エーゲ海に捧ぐ