『太郎に訊け』ー岡本太郎
●伝統とはそのまま繰り返すことではない


ぼくが戦後大陸から帰還してきたとき、日本の社会全体の基準が敗戦でひっくり返されたはずなのに、美術界は昔のままに閉ざされていた。

これだけモラルや生活など、すべてが崩れたのに、美術界は戦前の番付が、そのまま生き残っていた。しかも、日本では決してオリジナリティを認めないし、なんでも時代の状況に合わせることが良いとされていた。一般の基準にしたがっていかなければ許されないんだ。

 

もし自分の筋を貫くために”ノー”といえば、たちまち美術界から抹殺されてしまう。でも、ぼくはだからこそ、たったひとりで挑み、闘っていかなければならないと思った。挑んでいく価値があるんだと思った。

---具体的にはどうしたんですか。

当時の美術界では、原色というのは、女、子供、あるいは下司(げす)野郎の好みだとされていた。いまは違うけれどね。それでぼくは原色をぶっつけて絵を描いた。

---当然、非難ごうごう・・・・・・。

うん。さんざん悪口を浴びた。色感が悪い。色音痴・・・・・・・。

 

---先生でもまいったのではないですか。

まいらなかったね。ぼくは挑んだんだ。旧態依然たる美術界に、常識を打ち破った原色の絵で、挑戦したんだから、悪口こそ望むところだったな。ぼくはさらに理解を超える色を使い、線で形で画壇に挑んだ。大作の『夜明け』『重工業』『森の掟』はこの頃生まれた。

---その結果はどうでしたか?

画壇に反感をかう大作を描き続けたから、今度は逆に問題になったね。ぼくはその一方で、文章や講演、放送などさまざまのメディアを通じて、八方に挑んだんだ。

---なぜ、そんなに挑まなければならなかったのですか?

闘ってだね、日本そのものを手応えとして掴みたかったんだ。闘いのマトを見定め、自己確認をする。この二つの道があったんだ。

---その結果何を掴みましたか。

日本の伝統だ。ぼくは何かと言えば伝統をかさに着て、権威ぶっている連中が、”現在”を空しくしていることに我慢できなかった。

---伝統というのは何でしょうか?

伝統というのは過去に頼ることでも、パターンを繰り返すことでもない。それは”伝統主義”であってね。いつでも新しく、瞬間瞬間に生まれ変わって、筋を貫きながら現在に取り組むことが伝統なんだ。