妄想劇場 -8ページ目

妄想劇場

現実逃避の日々

スズちゃんと合流してライブハウスへ向かった。
あたしは、ポケットに指を入れ替えながらジャスの酔いをさまして歩いた。
ライブハウスに入ると、ジャスはのそのそとポケットから這い出し肩の上に立った。
しばらくはあたしの耳やほっぺに顔をくっつけていたジャス。
酔いがさめればいつものジャスに戻った。
「タクマクンはどれだ?」
ずっとそればっかり。
あたしはジャスを無視して拓真くんの出番を待った。
小さなライブハウスは人で埋められ、あたしたちもその中にいた。
さっき予定表を見たら拓真くんたちは一番目だった。
ドキドキしながら待つ。
あたしはこの瞬間が好き。
自分の出番を待つような気分になる。
静かに目を閉じて数を数える。
1、2、3…。
10まで数えるとまた1から始める。
1、2、3…。
何度目かで歓声が上がる。
目を開けると拓真くんが右手を挙げて観客に応えていた。
涙が出そうになる。
あたしは視界が滲まないように力を入れた。
「拓真ーー!」
会場から拓真コールが鳴り響く。
今や拓真くんたちにはたくさんのファンがついている。
笑いながらマイクを握る拓真くん。
「行くぞ!」
拓真くんの声で曲が始まる。
大音量が会場を揺らす。
観客は叫び声と共に拳を掲げた。
あたしも同じように拳を振りかざした。
ジャスが肩の上にいることを忘れて。
そして、曲に合わせて飛び跳ねた。
ジャスが必死に掴んで引っ張る髪の毛なんて気にならなかった。
本当に忘れてしまっていた。
拓真くんがステージで5曲ほど唄って舞台袖に消えるまでの約30分、あたしは幸せの絶頂にいた。
そして、拓真くんを見送って完全燃焼したあたしは、ようやくジャスの声を聞いた。
「ま、舞花…。」
ジャスの呼びかけに我に返るあたし。
おそるおそる視線を向ける。
もはや湿気のせいではない乱れた髪の隙間からジャスの目が光っている。
あたしは目をそらした。
するとジャスはますます怒ってあたしの頬を殴った。
グーで力一杯。
ジャスの体は小さいけれど、力はそれなりにある。
「痛い!」
あたしが頬を押さえるのと、スズちゃんがあたしを見るのはほぼ同時だった。
「大丈夫?歯痛?」
不思議そうに見つめるスズちゃん。
あたしは慌てて答えた。
「だ、大丈夫。虫かなんか当たったみたい。」
「見せて。」
スズちゃんはあたしの手をどけた。
そしてまじまじと見つめて言った。
「うわ、赤くなってるよー。刺された?」
ますます心配そうに覗くからバツが悪くなった。
「ちょっと後ろに行ってるね。」
スズちゃんに笑顔を向けてあたしは客の山を抜け出た。
次のバンドが一番人気のグループということもあり、会場はさらなる熱気を帯びている。
おかげで後方にはほとんど人がいなかった。
あたしは壁に寄りかかってジャスを見た。
肩の上であぐらをかいて腕組みをしている。
あたしの顔を見ようともしない。
すごく怒ってる。
そりゃそうだよね…。
あたしは謝ろうと声をかけた。
「ジャス…。」
「喉渇いた。」
ジャスは冷たく言い放った。
「…わかった。」
バーカウンターでジャンジャーエールを注文した。
一口飲んでグラスを傾けてジャスの前に出した。
ジャスは小さなおもちゃのコップを出してすくった。
それを確認してあたしはまた一口飲んだ。
ジャスはじっとコップに入ったジンジャーエールを不思議そうに眺めている。
そして口をつけた。
「からい!!」
か、…から…?
びっくりしてジャスを見る。
目を見開いてコップを見つめたまま固まっている。
「ジャス…?」
ジャスは震えながらあたしを見て言った。
「舞花、オレの口、溶けてない?」
「は?」
ジャスは必死な顔でコップを差し出した。
「なんか、口がじゅわーってなってん。」
あたしは唖然とした。
ああ、初めての炭酸なんだ…。
なんだか慌ててるジャスがかわい見えた。
「大丈夫だよ、あたしも飲んでるし。これはね………。」
ジャスをなだめながらゆっくり説明した。
ジャスもだんだん落ち着きを取り戻した。
あたしが説明する間、じぃっとジンジャーエールの泡を見つめて何も言わずに頷いていた。
「ジャス…。なんか違うものもらってくるね。」
あたしの一言にジャスが反応した。
「なんでや。舞花が飲めるんならオレかて飲めるわ。」
睨みをきかせてそう言うと、ずっと見つめてたジンジャーエールを飲みだした。
「大丈夫?」
一口、二口、三口…。
ジャスの喉が動く。
「プハッ。」
満面の笑みでジャスが言った。
「こんなん大したことな…ゲフッ。」
言い終わらないうちにジャスは大きなゲップをした。
「汚いな~。」
怪訝そうなあたしとは対照にジャスは嬉しそうに言った。
「こんなんでかいゲップしたん、初めてやー。」
炭酸に慣れるとそれが気に入ったらしく、おかわりを求めてきた。
ごきげんなジャス。
さっきまで怒ってたのに。
あたしはジャスの怒りがなくなったことにホッとして、静かに後ろからライブの様子を見ていた。
会場の熱気は最高潮に達していて、離れていても熱さを感じていた。
あたしも体でリズムをとって楽しくなっていた。
時々、ジャスのおかわりに応えながらしばらくの間ステージを見ていた。
3組目のバンドが唄い出した時だった。
ジャスがあたしの首にしがみついた。
くすぐったくて思わず首をすくめてしまった。
けれど、ジャスはしっかりとくっついたまま。
ジャスの方を向こうにも視界から外れて見えない。
「ジャス?」
とりあえず声をかけてみる。
「愛してるぜぇ~、舞花ぁ~。」
酔っ払いみたいな言い方をすると、ジャスはあたしの首にキスをした。
それがまたくすぐったくて、思いっきり首をすくめてしまった。
そのせいでジャスはバランスをくずした。
いつもならなんとかバランスをとってしがみついているジャス。
でも今回は抵抗する様子がない。
ジャスが落ちちゃう!
慌てて手を受け皿のようにしてジャスの体がキャッチした。
ジャスはあたしの手の中でお尻をついたままボーーーッとしている。
何か様子がおかしい。
「大丈夫?」
ジャスはゆっくりと顔を上げてあたしを見た。
「あにしてんねんー。あっぶねーなぁーー。」
目が虚ろ…。
あたしはジャスが握って離さないジンジャーエールのコップを見た。
まさか…、炭酸で…?
ジャスは二、三言文句を言った後にニヘラと笑い、横になって気持ちよさそうに寝た。
あたしは信じられなくて、しばらく手の上のジャスを見ていた。

再開!!
話はちょこちょこノートに書かれていってはいるんだけどね。
なかなか写せずに…自画像

ちっちゃいジャス、実際肩の上で生活してもらいたい…チョッパー
朝からずっと小雨が降っていて、ジャスの機嫌はサイアクだ。
髪がパサついてうまくきまらないんだって。
試しにワックスを貸してあげたら、今度はサラサラじゃないと意味がないって大暴れ。
ジャスは従者だったはずなのに、なぜかわがまま。
まぁ、だから呪いをかけられたんだろうけど。
ずっと鏡に向かってぶつぶつ言ってるから、あたしは一人で出かけることにした。
部屋を出て玄関で靴を履いた。
「舞花、オレのことおいてくつもりちゃうやろな?」
後ろから声がした。
…と思って振り返ったけど、ジャスは後ろじゃなくてあたしのカバンの中にいた。
あたしが部屋を出る時、すばやく入り込んだらしい。
カバンから顔を出して下から睨んでる。
「べ、別に。…雨降ってるし、またパサパサになるよ?」
慌てて答えた。
「一緒におったるって言うたやろ。」
言いながらジャスはあたしの肩によじのぼった。

待ち合わせの駅に着く頃にはジャスはおとなしくなっていた。
肩の上だと雨に濡れるので、ジャケットのポケットに入っているのだ。
ポケットは揺れが激しくて酔ってしまうみたいだけど。
スズちゃんが来る前にポケットを覗いた。
ジャスは捨てられた子犬のような顔で見上げた。
その顔を見てあたしの胸はキュウっとなった。
指をポケットに入れてジャスの頭をなでる。
ジャスはあたしの指にしがみつき、抱き枕を抱えるように頬をくっつけた。
「舞花の手、冷たくて気持ちええな。」
あたしはまたまたキュウっと締め付けられた胸を押さえた。
「今度、レインコート作ったげるね。」
「うん、サンキュな。」
…かわいい。

ジャスがあたしの肩に居座り始めて1週間。
ジャスの小さい体は他の人には見えていないし、声も聞こえないみたい。
そんなジャス、あたしの肩で何をしているかというと、ただただ質問の嵐。
見る物聞く物ほとんどがジャスにとって初めての物。
これは何?あれは何?とところ構わず聞いてくる。
あたしはばれないように筆談や小さな声で答えてる。
一番困るのは学校。
授業中は筆談で会話できるんだけど、休み時間は無理だよ。
でもあたしが無視すると怒って髪をひっぱるんだ。
最近、よく挙動不審だと言われるようになってしまったよ。
まったく、口ばっかり偉そうなジャス。
あたしはなんだか子供のお守りを押し付けられているような気になっていた。
あ、そうそう。
ジャスが出てきたこの新刊のマンガ。
ジャスの話では、前の本がなくなって新しい本に呪いが移行したんじゃないかって。
呪いもリサイクルされるんだ、って言ったらリサイクルについて延々説明する羽目になった。
この1週間、あたしは1年分くらい一気にしゃべったんじゃないかってくらいジャスとはなした、とういうか説明した。
やっとジャスもいろいろ覚えて落ち着いてきたところだ。
が、落ち着くと共に、イジワル度が増していった。
「愛してるぜ、舞花。」
友達のスズちゃんと話しているとふいにジャスが耳元で囁いた。
あたしは自分の顔が真っ赤になるのがわかるくらい動揺した。
スズちゃんも、何々?どうしたの?と慌てる始末。
「なんでもない。」
なんとかごまかす。
ジャスはお腹を抱えて笑っている。
あたしはジャスをこっそり睨む。
ジャスはあたしを見てニィと笑う。
その顔がまたかわいくて、あたしの怒りはどっかへ行ってしまった。
「舞花、舞花。」
スズちゃんが声が外に漏れないように手をあてて小さな声であたしを呼んだ。
あたしはスズちゃんの口元に耳を寄せた。
「来週、アマチュアライブあるって。たぶん、拓真くん、出るよ。行く?」
あたしは驚いてスズちゃんの顔を見た。
スズちゃんはニヤニヤと嬉しそう。
「行く!」
あたしの返事にスズちゃんは満足気に笑った。
「よっし。じゃあ、来週の日曜日6時に駅前集合ね。」
あたしとスズちゃんは手を叩き合わせた。
拓真くん。
中学の時同じ学校だった。
2年で同じクラスになってからあたしはずっと拓真くんが好き。
あんまりしゃべったことないまま高校も別々になってしまったけど、最近アマチュアバンドとして時々ライブハウスで歌ってる拓真くんをスズちゃんが発見した。
あたしは唯一そこで拓真くんを見ることだけを楽しみに生きていると言っても過言じゃない。
来週かぁ・・・。
うん、楽しみ。
何着ていこう。
「・・・花。舞花!」
気がついたらジャスがあたしを呼んでいた。
ジャスは不機嫌そうにあたしを見ていた。
「タクマクンって何?」
あたしはすぐに答えなかった。
言うべきか、言わざるべきか。
でもどうせわかっちゃうことだし。
ジャスに言っても、…たぶん大丈夫。
「好きな・・・人。」
誰にも聞こえないくらい小さな声であたしは言った。
「好きな人?婿候補なん?」
「むこっ!」
あたしはびっくりして思わず大きな声を出していた。
「何?」
スズちゃんも驚いてあたしを見る。
「あ~、えっと・・・む、向こうは寒いかなぁって。」
「向こうって一駅先じゃん。」
「だよね。・・・何言ってんだろ、あたし。」
自己嫌悪。
「そんなに拓真くんが恋しいんだ。」
意地悪く聞くスズちゃんにあたしは顔を赤くして下を向いた。
チャイムの音が鳴り響いて、スズちゃんは自分の席に戻っていった。
しばらくジャスの方を見ないで授業を受けていると、ジャスは肩から下りてあたしの目の前に立った。
「な~、なんやねん。どないしたん?」
あたしは目を合わせないで、ノートの上から下りるように手を振った。
ジャスはその場に座りこんだ。
あたしは小さくため息をついてノートに『なに?』と書いた。
「なにやない。おまえさっきからおかしいぞ。熱でもあるんか?」
心配そうに見つめるジャスを見てまた顔が赤くなった。
あたしはノートに『片思い。』と書いた。
ジャスはしばらく腕組をして考えた。
「大丈夫や、きっと嫁にいけるって。」
真剣に励ますジャスに笑いをこらえながら『ありがとう。でも、嫁はまだ先。』と書いた。
「何言うてんねん。舞花ももう16やんか、適齢期やないか。」
あ、そうか。
ジャスの時代じゃあたしくらいはみんな結婚するんだった。
『今はみんな20~30歳くらいで結婚するよ。』と書いたらジャスは感心して頷いてた。
『ちなみに、それまではみんな自由に付き合ったり別れたりしてる。身分もないし。』と書くと、しばらく考えた後、ポンと手を叩いてあたしの肩に戻った。
「愛してるぜ、舞花。」
びりーっ。
筆談文を消していたあたしの手は思わず力が入って、ノートを破いてしまった。
さて、タイトル決まらぬまま始まった。
続くのか、長編。
このまま終わるのか長編。
次週、あたしのやる気にかかる!