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現実逃避の日々

「お疲れ様ー。今日もよかったわよー。」
扉を少し開けて顔だけ中に入れてアカリちゃんは言った。
「おう。アカリ。」
中から声がした。
「ねえ、ケン、拓真は?」
「拓真?その辺にいるはずだけど?」
「あらそう。」
アカリちゃんは扉を閉めて残念そうにこっちを見た。
「ごめんね。拓真、今どっかいってるらしいのよ。ちょっと待っててくれる?」
あたしたちは頷いた。
「それよりさぁ、教えてくれない?拓真の中学の頃の話。今はあんなにイキがってるけど、なんか面白い話とかないの?」
アカリちゃんは嬉しそうに言った。
「えっと…。」
あたしが答えようとした時だった。
アカリちゃんの後ろから肩に腕を回して言った。
「誰の面白い話だって?狩也。」
た、拓真くんだ!
「もう!拓真ったら。本名で呼ばないで。アカリって名前があるのよ。」
アカリちゃんはほっぺたを膨らませて拓真くんを見た。
「おまえがオレの悪口言うからだ。」
拓真くんはニッと笑うとあたしたちを見てびっくりして言った。
「周防?山城?」
不思議そうに拓真くんがあたしたちを見てる。
拓真くんが名前を覚えててくれてた。
目が合っちゃったよ。
あたしはまた固まっていた。
「やだわ、拓真ったら。ほら、こないだ言ってたファンクラブの話。この子たちにもお願いしようと思って。拓真の知り合いならやりやすいでしょ?」
「へぇ。ま、いつも来てくれてるもんな。来いよ、みんなにも紹介するよ。」
拓真くんが笑いかけてくれてる。
ずっとライブに行ってたこと知っててくれてた。
あたしの頭はパニック状態だった。
「うん、よろしくね。」
スズちゃんが笑って答えた。
あたしは、やっぱり固まったまま。
スズちゃんにお尻を叩かれて我に返った。
「あ、よ、よろしく。」
あたしたちは拓真くんに続いて部屋に入った。
拓真くんはバンドのメンバーにあたしたち二人を紹介した。
他のメンバー2人も歓迎してくれて、とりあえず、今日の打ち上げに参加させてもらうことになった。
拓真くんのバンドはボーカル&ギターの拓真くんと、ベースのフルくん。
ドラムのケンさんで成り立っている。
ちなみに、フルくんも拓真くんと同じクラスでホントは古瀬くんというらしい。
ケンさんは1つ年上なんだけど、拓真くんの声に惹かれてメンバーになったんだって。
本名は、秘密なんだって。
それで、タクマ、フル、ケンのバンドG・B・Sだ。
「あのー、なんでG・B・Sってバンド名なの?」
スズちゃんが聞いた。
打ち上げはファミレスだった。
「んー、ホントは秘密なんだけどね、スズちゃんも舞花ちゃんもかわいいから教えてあげよっかな。」
ケンさんがニヤニヤしながら答えた。
それを聞いてアカリちゃんがふき出した。
「やだ、ケン。ホントに教えちゃっていいの?」
「いいじゃん。今日は久々に女の子いるから俺機嫌いいの。いつもは拓真が嫌がるからな。」
拓真くんは窓際の席でそっぽを向いてる。
「僕が教えてあげるよ。」
フルくんが嬉しそうに言った。
「あのね…、G・B・Sってのは頭文字なんだ。タクマ、僕、ケンを表してて、ギター・ベース・そして…。
これでG・B・S。ホントに秘密だよ。」
アカリちゃんはこらえきれずに笑い出した。
拓真くんも軽く笑っている。
「そして…?」
あたしとスズちゃんは聞き直した。
ケンさんは頭をかきながら照れて言った。
「ほら、俺ってミステリアスだからさ。あいまいな表現がぴったりでしょ?」
「は、はぁ。」
あたしたちは苦笑いするしかなかった。
アカリちゃんがおなかを抱えながら説明した。
「ケンがつけたバンド名なのよ。最初は冗談半分だったんだけど、結構人気が出てきちゃって言うに言えなくなっちゃったんだって。」
「オレは意外と好きだけどな、このバンド名。書きやすいし。いいじゃん。黙ってりゃかっこいいって。」
拓真くんはストローをかんだままつぶやいた。
あたしはそんな拓真くんを目の端でしっかり見ていた。
かっこいい…。
「…くっだらねえ名前やなぁ。」
あたしがばれないように拓真くんに見とれていると、下の方から声がした。
ジャスが起きた。
ジャスはポケットから顔を出すとあたしを見て手招きをした。
あたしはポケットに手のひらを寄せてジャスをのせた。
ジャスが指差すテーブルの上に移動させるとジャスは手から降りてあぐらをかいて座った。
落ち着かない…。
ジャスはしっかりと拓真くんを見て…睨んでる。
それからあたしはジャスから目を離さないようにして会話に参加した。
「それで、あたしたちは何をすれば?」
「ああ、そうね。ま、話始まったばかりだからね。私も含めてどうすればいいの?拓真?」
アカリちゃんが言った。
拓真くんはしばらく考えて答えた。
「オレらの目標は、まず、単独ライブをやること。そのためにはやっぱそれに伴う人気がいるじゃん。口コミで広がるのが一番早いしさ。まずは、オレらの曲を他のやつらにも聞かせて欲しい。」
すごい生き生きと話す拓真くん。
「じゃあさ、G・B・SのCDを作って手売りでも聞いてもらおうよ。」
スズちゃんはノリノリで意見した。
それに対して拓真くんも笑った。
「そうだな。こないだ作ったやつ、コピーしまくって配ってもらおうか。周防、どう思う?」
「へ?」
拓真くんがあたしに意見を求めてる。
あたしはドキドキしながら答えた。
「いいと思う。まずは、今日みたいなライブの後なんかうまく買ってもらえそうな気がする。」
恥ずかしくて思わず下を向いてしまった。
「すごいわ。やっぱりあなたたちに声をかけて正解だったわ。」
アカリちゃんは喜び勇んであたしを抱きしめた。
「それじゃ、そういうことで、スズちゃん、舞花ちゃん、よろしく!」
そう言ってフルくんがグラスを持ち上げた。
それに合わせてみんなもグラスを持って乾杯した。
「今日は、二人が協力してくれるお祝いだからケンのおごりね~。」
フルくんはケンさんの肩に手をのせて言った。
「え?なんでそうなる?」
びっくりして目を大きくするケンさん。
「だって、ケン、今日バイト代入ったって言ってたじゃん。」
笑顔のフルくん。
ケンさんはあたしたちみんなの顔を見て溜め息をついて言った。
「よっしゃ。しゃーねーな。今日だけだかんな。」
あたしたちは改めて乾杯をした。